表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/47

第25話:要塞村の槌音と、民の覚悟

代官ゲルラッハの出発まで、あと一ヶ月。

その日の早朝、アークの父の、領主としての張りのある声が、村の広場に集まった全ての村人たちに響き渡った。


「皆に告ぐ!」

父は、詳細は伏せながらも、毅然とした態度で語り始めた。

「我らが愛する、このライナス男爵領の平和と、実りを脅かす、理不尽な暴力が、北から近づいている。だが、聞け! 我々はもはや、ただ奪われるだけの、か弱き民ではない!」

父の言葉に、村人たちの目の色が変わる。

「我々には、この地を甦らせたアーク様の知恵がある! どんな岩をも砕く、ダグの鉄がある! そして何より、自らの手で未来をつかみ取った、お前たち自身の力と、誇りがあるはずだ! 我らの手で、我らの未来を、我らの子供たちを守り抜くぞ!」


その宣言に呼応するように、村長格の老人エルダンが、一歩前に進み出た。彼は、村人全員を代表して、アークと父の前に、深く、深く膝をついた。

「領主様、アーク様。我らの命、あなた方に預けます! この村を守るためとあらば、この身、どう使っていただいても構いませぬ!」

その言葉を皮切りに、広場を埋め尽くした全ての村人が、一斉に膝をつき、忠誠と団結の誓いを立てた。

それは、領主の命令だからではない。自らの故郷を、自らの意志で守るための、主体的な「戦い」の始まりを告げる、厳粛な儀式だった。


その誓いを合図に、村は、一つの巨大な生き物のように動き始めた。


ダグが率いる男たちは、村へ至る唯一の道である狭い渓谷へと向かった。

アークが木魔法で作った精密な立体模型ジオラマの設計図どおりに、倒木や岩を配置していく。それは、ただ道を塞ぐのではない。馬が方向転換できない絶妙な角度、乗り越えようとすれば足を取られる隠された溝。アークの設計士としての知識が、ただの渓谷を、敵の体力と精神をじわじわと削り取る、天然の迷宮へと変貌させていく。


村の広場では、ローランが『緑の番人』を始めとした若者たちを訓練していた。

彼らが手にしているのは、剣や槍ではない。ダグが、この日のために改良した、刃先を鋭く研いだ鍬や、柄を補強した鋤。ローランは、彼らが農夫であることを活かし、「鍬での防御陣形」や「森で獣を狩る時の連携術」など、彼らの生活に根差した、実戦的な集団行動を教え込む。民が、自らの手で故郷を守るための「民兵」へと生まれ変わる瞬間だった。


そして、その頃。セーラの店は、女たちの、もう一つの戦場と化していた。

「まったく、男ってのは、すぐに剣だの槍だの持ち出して。馬鹿だねぇ」

「そうともさ。一番効くのは、こういう、じわじわ心を折る、意地の悪いやり方さね」

セーラと村の女たちは、凄まじい悪臭に顔をしかめながらも、実に楽しげに、特製の『スライム爆弾(悪臭玉)』を大量生産していた。

「あの役人の、ツルツルの頭に、これをぶちまけてやるのが楽しみだよ!」

ダグやローランの「武」の戦いとは対照的な、彼女たちの「智」と「毒」の戦い。村は、その総力を挙げて、来るべき日に備えていた。


計画の要である『茨の城壁』の建設。それは、アークの魔力なくしては、決して成し得ない神の御業だった。

彼は、仲間たちがそれぞれの持ち場で戦っている姿に勇気づけられ、自らの限界に挑んだ。

村の周囲をゆっくりと歩きながら、大地に両手をかざす。肩の上で、ウルが主の魔力を増幅させるように、神聖な光を放つ。

「**『植物成形(中)』**!!」

地面が地響きを立てて裂ける。そこから、何百、何千という巨大な茨の蔓が、天を突く勢いで噴出した。蔓は、アークの設計図通りに、互いに絡み合い、編み込まれ、意志を持つかのように、村全体を囲む、高さ五メートルを超える、難攻不落の『茨の城壁』を、数日かけて造り上げていく。


しかし、その奇跡は、アークの生命力を大きく削っていった。

彼は、日に日に痩せ、その顔色から血の気が失せていく。セーラが作る、生命力に満ちた『奇跡の作物』だけが、かろうじてアークの体を支えていた。


その夜、何も知らない母が、書斎で机に突っ伏して眠るアークの元を訪れた。

そのあまりに青白い顔色と、一回りも小さくなったように見える痩せた背中。母は、言い知れぬ不安に胸を痛めた。

「(あの子、村のために、少し頑張りすぎているのでは……)」

彼女は、愛しい息子の背中に、そっと毛布をかけた。

母を救うために全てを捧げた息子が、今度は村を守るために、母に心配をかけながら、自らの命を削っている。その痛切な皮肉を、まだ誰も知らなかった。


そして、約束の一ヶ月が経った。

そこに、かつての穏やかな村の姿はなかった。

曲がりくねった迷宮の道、村を囲む威圧的な茨の城壁、そして、城壁の上から、農具を見立てた槍を手に、鋭い目つきで外を見つめる村人たち。辺境の村は、完全に、一つの意志を持つ「要塞」へと変貌を遂げていた。


アークと側近たちは、完成した村を見下ろす丘の上に立っていた。

アークは疲労で痩せこけているが、その瞳には、確かな自信の光が宿っている。

その時、森の遠見台に配置されたフィンからの伝令の鳥が飛んでくる。その足に結ばれた布を、ローランが受け取り、険しい顔で読み上げる。


「――来たか」


ローランは、遠眼鏡を渓谷の入口へと向けた。そのレンズの先に、代官ゲルラッハの、傲慢な旗印が、小さく、しかし、はっきりと映っていた。

「報告通り、総勢三十。……我らの『蛇の道』に、今、足を踏み入れましたぞ、アーク様」


アークは、静かに頷いた。

(来たか。……ううん、違うな)

アークは、丘の上から、静かに、そして、冷徹に、眼下の迷宮を見下ろした。

(来た、じゃない。――**『おびき寄せた』**んだ。僕の設計図の、一番奥までね)


すべての準備は、整った。

辺境の要塞村を舞台にした、知恵と勇気の防衛戦。その火ぶたが、今、切られようとしていた。


***


最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ