第238話(最終話):陽だまりの譚詩曲と、黄金色の未来
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数年後、陽だまりの街
『星の心臓』との対話を終え、星が、その永い孤独の眠りから覚めてから、数年の歳月が流れた。
陽だまりの街は、今や大陸全土から、人々が、エルフが、賢塔の魔術師が、そして星屑の民たちが集う、世界で最も豊かで、最も温かい『陽だまり連合』の首都として、穏やかな発展を続けていた。
その日の午後。『ライナス・アカデミー』の、ひときわ大きな聖浄樹が木陰を作る中庭。
そこには、子供たちの、弾むような笑い声が響いていた。
「アーク先生! 今日は、どんなお話をしてくれるの?」
「『陽だまりの騎士』の、ギュンターを倒した後の話がいい!」
子供たちに囲まれ、穏やかな笑みを浮かべていたのは、一人の、金色の髪を持つ青年だった。
アーク・ライナス。
星の心臓との対話の際、その魂の全てを使い果たし、一度は白銀に染まった彼の髪は、仲間たちが創り上げた、この温かい陽だまりの光を浴びるうちに、完全に、元の美しい陽光の色を取り戻していた。
彼は、もはや創造主として、世界の理を書き換えることはない。
今はただ、アカデミーの名誉教授として、そして、盟主として大陸中を飛び回る兄アルフォンスの、最高の相談役として、穏やかな日々を送っていた。
「はは、アル兄ちゃんの話は、もう聞き飽きただろ?」
アークの膝の上で、すっかり大きくなり、神々しい毛並みを誇るウルが、「きゅぅん」と欠伸を漏らす。その大きな背中を、北から来たリーリエや、灰嶺の子供たち、そして星屑の民の小さな個体(エコーたちがこの星の理で創り出した新たなる世代)が、興味深そうに撫でていた。
「えー! じゃあ、先生のお話がいい!」
「あの、『星の心臓』を、お歌で眠らせたっていう、本当のお話!」
「しょうがないなぁ」
アークは、空を見上げた。あの日、兄と共に見た、深淵の嵐を思い出す。
「あれはね、戦いのお話じゃなかったんだ」
アークは、集まった子供たちの、キラキラとした瞳を、一人ひとり見つめながら、静かに、語り始めた。
「それはね、遠い星から来て、ずっと一人ぼっちで泣いていた、この星自身に、『君はもう、一人じゃないんだよ』って、伝えに行くお話だったんだ」
アークが紡ぐ、優しく、温かい言葉。
それは、彼が、仲間たちと共に体験した、最後の冒険譚。
子供たちは、固唾を飲んで、その、新しい『物語』に、聞き入っていた。
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陽だまりの食卓
「――ご飯だよー! 今日は、セーラ様特製、大陸横断スペシャルシチューだよ!」
アカデミーの中庭に、いつもの、底抜けに明るい声が響き渡った。
見れば、館のテラスに、この街の、いや、この連合の全ての仲間たちが、集まっていた。
「よう、アーク! また子供たちに、俺の武勇伝を盛って話してたのか?」
王都での公務を終え、数週間ぶりに帰還した兄アルフォンスが、盟主の威厳と、兄の悪戯っぽい笑みを浮かべて、弟の肩を抱いた。
「まさか。今日は、兄さんが僕を背負って、嵐の中に飛び込んできた、本当の話さ」
「ばっ、よせやい!」
テラスの食卓は、奇跡そのものだった。
アルフォンスの隣では、父と母が、穏やかな笑みを浮かべている。
ローランが、ミカエラと、新しい聖歌の歌詞について議論している。
ダグとグンナルが、カエランとヴォルカンを相手に、酒を酌み交わしながら、新しい合金の自慢話で盛り上がっている。
フィンとリーリエが、アカデミーの子供たちに、シチューを取り分けてやっている。
ディアナが、アズライトとエコーに、次の『魔力バッテリー』の商業展開について、熱弁を振るっている。
そして、セーラが、その全ての中心で、「ほらほら、冷めないうちに食った、食った!」と、太陽のように笑っている。
アークは、その、あまりにも温かく、あまりにも幸福な光景を、ただ、黙って見つめていた。
(……これが、僕が創りたかった世界)
(いや、違う)
「どうした、アーク。早く食わねぇと、ウルに全部食われちまうぞ」
アルフォンスが、一番大きな肉の塊が入った皿を、弟の前に置いてくれる。
アークは、その兄の、最高の笑顔を見つめ返した。
「ううん。ただ……」
彼は、全ての始まりの日のように、少しだけはにかむと、こう言った。
「――**僕らが**、みんなで創った、この陽だまりは、本当に、最高だなって」
創造主と、守護者。
二人の英雄が、仲間たちと共に、同じ食卓を囲んで笑い合う。
その、どこまでも続く、温かい日常の凱歌が、陽だまりの街の、どこまでも澄み切った青空へと、高らかに、響き渡っていった。
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**これにて、『現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる!』本編は、完結となります。**
**アークとアルフォンス、二人の兄弟が創り上げた「陽だまり」の物語が、皆様の心にも届いたなら幸いです。**
**最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました。**
**この物語が、あなたの心の中に、小さな「陽だまり」を創れたのなら、作者として、これ以上の喜びはありません。**
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