第235話:最後の評議会と、星への旅立ち
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陽だまりの緊急評議会
その日、『盟約の館』の円卓には、陽だまり連合の全ての頭脳が、これまでにないほどの緊迫した面持ちで集結していた。
街の繁栄そのものが、この星の根源的な力である『星の心臓』を目覚めさせ、世界規模の破滅を招きかねない――。
賢塔のアズライトと、星屑の民のエコーから叩きつけられた、その絶望的な真実。
「……つまり、だ」
西方の巨匠グンナルが、その鋼のような腕を組んで唸った。「我らが汗水流して築き上げたこの街そのものが、地雷の上にある、ということか」
「それどころか、我らが槌音こそが、その地雷の信管を押している、と……」
南方のカエランも、顔面を蒼白にさせていた。
重い沈黙が、円卓を支配する。
「……策はあるのか」
盟主アルフォンスが、その場にいる、ただ一人の創造主へと、静かに視線を向けた。
アークは、兄の、その揺るぎない信頼の視線を、真っ直ぐに受け止めた。彼は、すでに覚悟を決めていた。
「うん。行こう、兄さん」
アークは、机の上に広げられた大陸地図。その、森の奥深くにある『古代遺跡』の一点を、指し示した。
「僕らが、この星に『家族』として認めてもらうために。この星の、一番深い場所に眠る『心臓』と、本当の対話をしに」
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新たなる『陽だまりの仲間』
「あまりにも危険すぎる!」
アルフォンスの父であり、先代領主でもあるライナス卿が、即座に反対の声を上げた。「アーク、お前はまだ本調子ではない!それに、相手は天災そのものだと言うのだぞ!」
「だからこそ、僕が行くんだ」
アークは、父を、そして仲間たちを、静かに見据えた。
「この問題の引き金を引いたのは、僕らがもたらした『豊かさ』だ。そして、星屑の民の『種』と共鳴できるのは、二本の世界樹と繋がった、僕の魂だけだ。これは、僕にしかできない、僕がやらなければならない『設計』なんだよ」
その、創造主としての、あまりにも気高い覚悟。
アルフォンスは、弟の肩に、力強く手を置いた。
「……なら、俺も行く。お前一人で、そんな重いもん背負わせるかよ。お前が『創造』するなら、俺は、そのお前を『守護』する。二人で一つだろ、俺たちは」
「兄さん……」
「ならば、我らも!」
ミカエラ、リオン、カエルが、同時に立ち上がる。
「アーク様の『調律』には、聖なる力による『守り』が不可欠でしょう」(ミカエラ)
「森の理を知る『目』も、必要です」(リオン)
「『影』として、道中の全てを偵察します」(カエル)
『我らが『論理』も、必ずや、その神話の解明の役に立ちましょう!』
アズライトが、学者としての探求心に、その瞳を燃やす。
『我ラガ引キ起コシタ共鳴。責任ハ、我ラニモアル。道案内ハ、任セテホシイ』
エコーもまた、新たな仲間としての、確かな意志を示した。
そして、ローランが、静かにその手を挙げた。
「……ふむ。これほどまでに壮大な歴史の転換点に、記録係が同行せぬわけには、いきますまい。この老いぼれの、最後の仕事として、この目で見届けさせていただきますぞ」
アーク、アルフォンス、ウル、ミカエラ、ローラン、リオン、カエル、アズライト、エコー。
陽だまり連合が誇る、最高の知恵と、最高の勇気。異文化、異種族、そして、異星の理が融合した、この星で唯一無二の『精鋭』が、ここに結成された瞬間だった。
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最後の『餞別』
出発の日は、三日後と定められた。
街は、その短い時間の中で、再び、一つの意志の下に動き始めた。
『連合共同工房』では、ダグとグンナルが、寝る間も惜しんで、一行の装備を鍛え直していた。
「へっ、星の心臓だか何だか知らねぇが、こいつでぶった斬れねぇモンはねぇ!」
ダグが、ゴルン族から贈られた『地底虹石』と、アルフォンスのドワーフアックスを融合させ、虹色の輝きを放つ、新たなる『盟主の戦斧』を打ち上げる。
「ふん、力だけでは圧し潰されるぞ。アーク殿、アズライト殿。この『星屑鋼』を、竪琴だけでなく、防具にも転用する。お二人の『心』を守る、最高の『盾』を創ろう」
グンナルもまた、星の技術を使い、軽量で、魔力抵抗を極限まで高めた、美しい白銀のローブを、アークとアズライトのために仕立て上げていた。
アカデミーでは、フィンとリーリエが、旅の記録係として同行するローランのために、大量の『ライナス和紙』と、特殊なインクを準備していた。
「ローラン先生!必ず、ご無事で!そして、先生が見た、新しい物語を、僕らに、聞かせてくださいね!」
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陽だまりの誓い
出発の朝。
街の門前は、いつかのような、華やかな歓声はなかった。ただ、街の全ての住人が、その場に集い、静かな、しかし、どこまでも熱い祈りを、旅立つ英雄たちへと捧げていた。
父と母が、二人の息子の体を、強く、強く抱きしめた。
「……必ず、帰ってこい。アーク、アルフォンス。お前たちの帰る場所は、いつだって、ここにあるのだからな」
セーラが、いつものように、山のような特製の保存食を、アークの背嚢に無理やり詰め込んでいる。
「ほら、ウル坊!これは、あんたの分の『星屑キャンディ』入り特製クッキーだよ!アーク坊ちゃんのこと、しっかり守っておやり!」
「きゅぅぅん!(任せろ!)」
ウルは、誇らしげに胸を張ると、アークの肩へと、軽やかに飛び乗った。
アークは、背中に『共鳴の竪琴』を背負い直した。その竪琴には、**アズライトやエコーたち**が、地底虹石のかけらを埋め込み、より強力な共鳴を起こせるよう、最後の改良が施されていた。
彼は、兄アルフォンスと、集った仲間たちを見回す。
その瞳に、一片の迷いもない。
「――行ってきます、みんな。僕らの陽だまりを、この星の、本当の未来にするために」
アルフォンスが、虹色に輝く新しき戦斧を、天に掲げる。
「陽だまりの守りは、頼んだぞ、皆!」
「「「おおおおおおおっ!!」」」
地鳴りのような、仲間たちの雄叫び。
それは、彼らの魂を乗せた、最高の『行ってこい』の合図だった。
九つの魂(アーク、アルフォンス、ウル、ミカエラ、ローラン、リオン、カエル、アズライト、エコー)を乗せた『シルフィード二世号』は、陽だまりの街の全ての祈りをその翼に乗せ、最後の戦場――『古代遺跡』へと、静かに、しかし、力強く、浮上していった。
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