第229話:灼熱の底と、暴走する古代機
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地獄への身支度
ガンテツの案内で、一行は集落の更に奥、地底の最深部へと向かっていた。
進むにつれ、周囲の岩肌はどす黒い赤色へと変わり、気温は急激に上昇していく。空気は乾燥しきっており、呼吸をするだけで喉が焼けるようだ。遠くからは、ゴウゴウという地鳴りのような音が絶え間なく響いてくる。
「……あつぃ……。これじゃあ、茹でガエル通り越して、干物になっちまうぜ……」
カエルが舌を出し、滝のような汗を流してへばっている。岩の民であるガンテツたちは平気な顔をしているが、地上の民であるアークたちには過酷すぎる環境だ。
「きゅぅ……」
厚い毛皮を持つウルも、アークの影に隠れてぐったりとしている。舌を出してハァハァと荒い息をつく姿は痛々しい。
「みんな、ストップだ。このままじゃ戦闘どころか、たどり着く前に倒れてしまう」
アークは足を止めると、背嚢から『聖浄樹の繊維』と、フィアからもらった冷気を纏う『空色ハーブ』、そして地底の水辺で採取したたっぷりと水を含む『吸水苔』を取り出した。
「ここで少し、工作タイムといこう」
アークは、それらの素材を魔法で編み上げ、特殊なポンチョのような外套を作り出した。
「**『植物成形(小)・気化冷却服』**!」
水を含ませた苔の層と、通気性の良い聖浄樹の繊維を組み合わせ、水が蒸発する時の気化熱を利用して体温を奪う仕組みだ。さらに、織り込まれた空色ハーブの魔力が冷気を逃がさない結界の役割を果たす。
「おおっ! ……涼しい!」
袖を通したアルフォンスが目を丸くする。灼熱の空気が遮断され、ひんやりとした霧に包まれたような感覚だ。
アークは、ウル用にも特製の「ひんやりベスト」を作って着せてやった。
「きゅいっ!(すずしー!)」
ウルは嬉しそうにブルブルと体を震わせ、元気を取り戻してアークの足元を駆け回った。
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溶岩の海と、鉄の巨人
準備を整え、一行はついに最深部――巨大な溶岩湖が広がる広間へと到達した。
視界を埋め尽くすのは、ドロドロと波打つ紅蓮のマグマ。その熱量は凄まじく、冷却服がなければ一瞬で火傷をしていただろう。
「……あれが、『大地の心臓』を苦しめている元凶か」
ガンテツが、震える指で溶岩湖の中央を指し示す。
地脈のエネルギーが噴き出す一点に、その異様な巨体はあった。
全身が錆びついたどす黒い鉄で覆われた、巨大な多脚戦車のような機械。
大きさは小さな砦ほどもある。六本の太い脚で溶岩の中に立ち、先端がドリルになった巨大な腕を無秩序に振り回し、周囲の岩盤を破壊しながら、地脈の光を無理やり吸い上げているのだ。
『……警告。古代文明ノ、自律型採掘機。制御中枢、破損。完全ナ、暴走状態デス』
エコーが、蒼い瞳を激しく明滅させて分析する。
「採掘機……? あんなものが、なぜここに?」
「わからん。だが、あいつが暴れて地脈を乱すたびに、地盤が歪み、地震が起きているのは間違いない!」
**ギギギギギ……ガガガッ!**
機械が耳障りな不協和音を奏でながら、ゆっくりと首を回した。その頭部にある巨大な単眼が赤く輝き、侵入者であるアークたちを敵と認識する。
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熱と鉄の攻防
「来るぞ!」
機械の背中から、高圧の蒸気がシュウウウッ!と噴き出し、その巨体が信じられない速度で突進してきた。
「させんッ!」
アルフォンスが前に飛び出し、大盾を構えてその突進を受け止める。
**ガキィィィン!**
凄まじい衝撃音と共に火花が散る。英雄の足が、岩盤を削りながら数メートルも後退する。
「ぐっ……! なんて馬鹿力だ……! それに、熱い!」
盾越しに伝わる熱が、アルフォンスの体力を奪っていく。盾の表面が赤熱し始めている。
カエルとリオンが左右から攻撃を仕掛けるが、矢もクナイも硬い装甲に弾かれ、傷一つつかない。
「硬すぎる! 普通の武器じゃ歯が立たねぇ!」
ガンテツたちゴルン族も巨大な岩を投げて援護するが、巨体には豆鉄砲だ。
アークは、戦況を見つめながら必死に思考を巡らせていた。
(破壊するのは簡単かもしれない。でも、あの中には無理やり吸い上げた膨大な地脈エネルギーが溜まっている。爆発させたら、この空洞ごと崩壊してしまう……!)
『……創造主。アノ機体ハ、冷却機能ガ故障シテイル。熱暴走ヲ止メレバ、機能停止スルハズ』
エコーの助言が、突破口を開いた。
「そうか……! 溜め込んだ熱を逃がして、大地と繋ぎ直せばいいんだ!」
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鉄と木の融合
「兄さん、ガンテツさん! あいつの足元を固めて、動きを止めてください! 一瞬でいい!」
「おう、任せろ!」
アルフォンスが雄叫びを上げ、機械の懐に飛び込んで斧を足関節に叩きつける。ガンテツたちも一斉に飛びかかり、その怪力で多脚にしがみつき、強引に押さえ込む。
その隙に、アークは機械の真下、最も熱い腹の下へと滑り込んだ。
灼熱の熱気が顔を焼く。だが、ウルが放つ癒やしのオーラと、冷却服が彼を守ってくれる。
アークは、懐から『鉄鋼樹の種』を取り出し、機械の装甲の隙間――エネルギー漏れを起こしている亀裂へと、直接ねじ込んだ。
「鎮まれ……! **『植物成形(理)・金属融合』**!」
アークの魔力が注がれると、鉄鋼樹は爆発的に成長した。
だが、それは敵を貫く槍ではない。
樹木は液状化した金属のように変質し、機械の回路と絡み合いながら、その熱を貪欲に吸収し始めたのだ。
さらに、無数に伸びた根は地面深くへと潜り込み、機体内に暴走していた熱エネルギーを、安全に大地へと逃がしていく「アース(接地)」の役割を果たした。
**ジュウウウウウ……**
大量の蒸気が上がり、赤熱していた機械の装甲が、急速に黒く冷めていく。
赤く輝いていた単眼の光が、明滅し、ゆっくりと消え――やがて巨体はガクンと膝を折って沈黙した。
「……止まった……のか?」
ガンテツが、恐る恐る手を離す。
そこには、無機質な古代機械と、有機的な大樹が複雑に絡み合い、一つの新しいオブジェのように静まり返った巨像があった。かつての暴走の気配は消え、今はただ静かな熱だけが残っている。
アークは、煤けた顔の汗を拭いながら立ち上がる。
「ふぅ……。なんとか、鎮まってくれたみたいだね」
足元で、ウルが誇らしげに「きゅいっ!」と鳴き、アークの頬をペロリと舐めた。
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