第225話:星屑の贈り物と、空翔ける夢
####
星屑の申し出
「星の演奏会」から一夜明けた『連合共同工房』は、いつにも増して熱気に包まれていた。
昨夜の感動冷めやらぬ中、エコーがアークと職人たちの前に、輝く銀色の金属板を恭しく差し出したのだ。
『……創造主。コレヲ、受ケ取ッテホシイ』
「これは……『星屑鋼』?」
アークが手に取ると、ひんやりとした感触の中に、ドクン、と微かな脈動を感じる。それは以前のような無機質な振動ではなく、体温に通じる温かさを持っていた。
『肯定。我ラノ体ヲ構成スル素材ダガ、昨夜ノ共鳴デ、コノ星ノ「マナ」ト適合シタ。……コレヲ使エバ、貴公ノ考エテイル「魔力バッテリー」ハ、完成スル』
その言葉に、賢塔のアズライトが目の色を変えて飛びついた。
「なんと! 以前の試作では、マナの充填率と耐熱性に限界がありましたが、この素材なら……!」
西方のグンナルも、職人の目をギラリと輝かせる。
「ふん、硬度はオリハルコン並みだが、魔力を通すと粘土のように加工できるだと? ……へっ、腕が鳴るわい」
####
ハイブリッド・バッテリー
直ちに、アークを中心とした「夢の共同開発」が始まった。
アークが聖浄樹の樹液を触媒にしてエネルギーの「血液」を作り、アズライトが複雑な魔法回路を刻み、ダグとグンナルが星屑鋼のケースを寸分の狂いもなく鍛え上げる。
そして、エコーが星屑の民ならではの微細な調整を行う。
「よし、接続するぞ!」
南方のカエランが持ち込んだ、穀物発電所からの大量の「余剰電力」を、試作バッテリーへと流し込む。
**ブゥゥン……**
低く、力強い唸り声と共に、掌サイズのバッテリーが青白く発光した。だが、熱はない。エネルギーが完璧に制御されている証拠だ。
「……信じられん」
アズライトが魔力計器を見て絶句する。
「これ一つで、陽だまりの街の全街灯を、一ヶ月は灯し続けられるぞ!?」
「すげぇ……! これなら、重い燃料を積まなくても、馬車がどこまでも走れるじゃねぇか!」
ダグが歓声を上げ、職人たちが種族の壁を越えて抱き合って喜ぶ。
その歓喜の輪の中で、アークの膝の上にいたウルもつられて「きゅいーっ!」と万歳(?)をした。
その拍子に、机の上の失敗作のネジが転がり落ちたが、ウルはそれを前足でパシッ!と器用にキャッチし、どうだと言わんばかりのドヤ顔でアークに見せた。
「あはは、ナイスキャッチだね、ウル。君も立派な助手だ」
アークに撫でられ、ウルは満足げに喉を鳴らした。
####
空への憧れ
完成した『星屑バッテリー』を手に、アークは兄のアルフォンスと地図を広げていた。
「兄さん。これがあれば、今まで行けなかった場所にも行けるよ」
アークの指が、地図の北東、険しい山岳地帯を指し示す。
そこは『竜の背骨』よりもさらに険しい、切り立った断崖絶壁が続く秘境。
強烈な乱気流が吹き荒れ、普通の馬車や徒歩では決して辿り着けない場所。
「……『天空の止まり木』か」
アルフォンスが唸る。
「噂じゃ、背中に翼を持つ『空の民(ハーピー族)』が住んでるって話だが……交流を持てた人間はいねぇぞ。崖を登る前に風に煽られて滑落するのがオチだ」
「うん。でも、彼らは空から世界を見ている。きっと、僕らが知らない景色や、知恵を持っているはずだ」
アークは、キラキラした目で続けた。
「このバッテリーを使って、荷馬車を改造するんだ。エコーたちの『反重力リフト』の技術を応用して、少しだけ宙に浮く**『浮遊馬車』**を作れば、断崖だって越えられる!」
####
新たな旅の支度
「空飛ぶ馬車だと!? 面白ぇ!」
そのアイデアに、一番食いついたのは意外にも斥候のカエルだった。
「俺の身軽さでも、あの山は骨が折れる。空を行けるなら、最高の偵察になるぜ」
こうして、次なる目標は決まった。
目指すは空の彼方、ハーピー族の住む『天空の止まり木』。
工房では早速、馬車の改造が始まり、料理長のセーラは「高山じゃ火が点きにくいからね」と、魔力バッテリーで加熱できる新型の携帯食料の開発に乗り出した。
アークは、窓の外の広い空を見上げる。
(空の民……。どんな人たちだろう。高い場所から見る世界は、どんなふうに見えるのかな。……美味しいご飯、一緒に食べられるかな)
想像するだけで、胸が高鳴る。
足元では、ウルが自分の尻尾を追いかけ回して遊んでいたが、アークの視線に気づくと、ピタッと止まって「きゅ?」と首を傾げた。
「うん、行こうね、ウル。次は、空の散歩だ」
陽だまりの街は、大地だけでなく、空へもその温もりを広げようとしていた。
***
最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。




