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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第15話:白き悪魔と、茨の要塞

母を救う希望を手に入れた、その直後。

絶望を告げる白き悪魔の足音が、すぐそこまで迫っていた。


アオォォォーーーーーーーン……!


骨まで凍てつくような遠吠えが、洞窟の外で次々と連鎖していく。洞窟内の気温は急激に下がり、アークが吐く息は白く凍りついた。泉の水面に、パキパキと音を立てて薄い氷が張り詰めていく。

フロストウルフの群れが、この聖域を完全に包囲したのだ。


「来るぞ、アーク坊主!」


ローランの怒声が響く。彼は一瞬で歴戦の戦士の顔つきに戻ると、アークとウルを庇うように、洞窟の入り口を背にして仁王立ちになった。

洞窟の外には、十数体のフロストウルフが赤い瞳をぎらつかせている。


「アーク坊主、よく聞け」

ローランは重い声で言った。「奴らの真の恐ろしさは、統率された**群れでの狩り**と、獲物の足を奪う**氷のブレス**だ。一度囲まれれば、騎士団ですら全滅を覚悟せねばならん」

そして、彼は静かに覚悟を決めた。

「お前は、ウルと薬の入った瓶を背負い、洞窟の一番奥に隠れていろ。俺が、ここで時間を稼ぐ。……たとえ、この老いぼれの命に代えても、お前と、その希望だけは、必ずや生きて屋敷に帰す」

それは、老騎士にとって、ひどく馴染み深い計算だった。一つの命と引き換えに、未来ミッションを成功させる。戦場で、幾人もの戦友が下したのと同じ、誇り高く、そしてあまりにも悲しい決断。ただ、最後の戦場が忘れられた洞窟で、守るべき未来が、五歳の子供の背中だとは、想像したこともなかったが。


「ダメだ!」

アークは、その大きな背中に向かって叫んだ。

「ローランさんを死なせるわけにはいかない! 僕らには……勝つ方法がある!」


アークはローランの返事を待たず、肩の上のウルに念じた。

(ウル、力を貸して!)

「きゅぅ!」と力強く鳴いたウルの神聖な力が、アークの枯渇しかけた魔力槽へと流れ込む。

アークは洞窟の入り口の壁面に両手を当て、その全てを解放した。

「僕のありったけを……喰らえッ! 『植物成形(小)』! 『植物育成(小)』!」


それは、何かをゼロから創り出す魔法ではなかった。この洞窟の周囲に、元々張り巡らされていた茨の根、その生命力を、アークの魔力が強制的に活性化させたのだ。

ミシミシと地響きのような音を立て、洞窟の入り口を覆う岩盤の僅かな亀裂から、何十、何百という茨の蔓が、まるで緑色の蛇のように、猛烈な勢いで噴出する。それらは互いに絡み合い、瞬く間に洞窟の入り口を塞ぐ、分厚く、そして鋭い棘が無数に突き出た「茨のバリケード」を形成した。

さらに、懐から取り出したポイズン・ヴァインの切れ端を触媒に、洞窟の壁と天井を、麻痺毒を持つ無数の蔓で覆い尽くす。

天然の洞窟は、意志を持つ魔の要塞へと生まれ変わった。


一匹のフロストウルフが、功を焦って茨のバリケードへと突撃し、その身を棘に貫かれて絶叫する。

それが、反撃の狼煙となった。


リーダー格のアルファ個体の号令で、フロストウルフたちの一斉掃射が始まる。絶対零度のブレスが、茨のバリケードを白く凍らせていく。

「ローランさん、凍らされた場所を斬ってくれ!」

「承知!」

アークの叫びに、ローランが即座に応じる。凍って脆くなった茨を、ローランの剣が薙ぎ払う。斬り落とされた瞬間、その下から、アークが魔法で新たな茨を再生させる。


だが、敵の数が多すぎる。

バリケードの一部がついに砕け散り、三匹のフロストウルフが洞窟内へと侵入してきた。

「ローランさんは一体だけ! 残りは僕がやる!」

「今だッ!」


アークの合図と共に、洞窟の壁と天井を覆い尽くしていた無数のポイズン・ヴァインが、一斉に牙を剥いた。

鞭のようにしなり、槍のように突き出された蔓が、二匹のフロストウルフの全身に絡みつき、その動きを封じる。そして、麻痺毒を持つ無数の棘が、その体に突き刺さった。

麻痺毒に動きを封じられたフロストウルフたちの目に映ったのは、信じられない光景だった。

一体目の敵を仕留めたはずの老騎士が、まるで瞬間移動したかのように、背後に迫っていたのだ。翻った剣は、もはや剣ではなく、ただの銀色の閃光。その閃光が、自分たちの首筋を冷たく撫でていくのを、狼たちはスローモーションのように感じていた。


アークの魔法による**『妨害・状態異常デバフ』**と、ローランの**『必殺の一撃アタッカー』**。奇跡的な連携戦術が、そこに成立していた。


しかし、戦況は依然として厳しい。アークの魔力は、もはや限界に近かった。

洞窟の外で戦況を見つめていたアルファ個体は、その冷徹な赤い瞳で、理解不能な現実を見ていた。

たった二人の獲物。消耗しているはずなのに、こちらの損害は増える一方。洞窟そのものが生きているかのように蠢き、子供の姿をした獲物からは、自然の理を捻じ曲げる、異質な力が放たれている。

これは、「狩り」ではない。未知なる「怪異」との遭遇だ。これ以上の損害は、群れの存続を危うくする。

アルファ個体は、高く、鋭い遠吠えを上げた。それは、屈辱を滲ませた、賢明な「撤退」の合図だった。


残っていたフロストウルフたちが、一斉に踵を返し、森の闇へと姿を消していく。

嵐のような戦いが終わり、洞窟には、血と氷の匂いを孕んだ、死のような静寂が戻ってきた。

糸が切れたように、アークはその場に崩れ落ちる。


「……アーク坊主!」


ローランが駆け寄る中、アークの意識は、完全に闇へと沈んでいった。

ローランは、自らも浅からぬ傷を負いながら、倒れたアークと、その胸の上で心配そうに寄り添うウルを見下ろした。

洞窟の入り口には、討ち取られた三体のフロストウ-ルフと、砕け散った茨の残骸が、死闘の激しさを物語っている。


「……はっ。とんでもないものを、守ってしまったようだ」


畏怖と、安堵と、そして、未来への確かな手応えが入り混じったため息が、老騎士の口から漏れた。

母を救う薬は、その手にある。

絶望的な最初の試練は、満身創痍ながらも、確かに乗り越えられたのだった。


***


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