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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第134話:最初の評議会と、陽だまりの小鳥

#### 陽だまりの夜明け


『陽だまり連合盟約』が結ばれた祝祭の喧騒が、心地よい余韻となって街を包む、数日後の朝。

アルフォンス・ライナスは、日の出と共に目を覚ますのが常となっていた。

かつての、偉大すぎる弟の背中をただ追いかけるだけの、焦燥に満ちた目覚めではない。連合初代盟主として、この街の、いや、大陸の新たなる時代の舵を取るという、重く、しかし、どこまでも温かい責任が、彼の魂を穏やかに覚醒させるのだ。

窓を開ければ、ひんやりと、しかし清浄な朝の空気が流れ込んでくる。その空気には、セーラの厨房から漂う焼きたてのパンの香ばしい匂い、聖浄樹の並木道から運ばれてくる清らかな若葉の香り、そして、ミカエラの教会から流れる澄んだ鐘の音が、完璧な和音となって心地よく混じり合っていた。


「……見てるか、アーク。お前が創った朝だぜ。だが、ここから先は、俺たちの朝だ」


アルフォンスは、その穏やかな光景に目を細めると、自室を出て、静かに隣の部屋の扉を開けた。

そこは、眠れる創造主の間。

アークは、あの日と何も変わらず、雪のように真っ白な髪を枕に散らし、穏やかな寝息を立てていた。その胸の上では、帰還した相棒ウルが、主の心音に耳を澄ますように、幸せそうに丸くなっている。

枕元に置かれた水晶の花瓶。そこに挿された『嘆きの人形』が遺した白い野花が、今朝もまた清浄な光を放ち、その中心から伸びた黄金の芽は、四枚の若葉を誇らしげに広げていた。

アルフォンスが部屋に入ると、ウルが静かに顔を上げた。彼は主を起こさぬよう音もなく床に降り立つと、もはやただの相棒ではなく、この街のもう一人の守護者であるかのように、アルフォンスの足に自らの体をすり寄せた。それは、まるで「盟主よ、本日も頼むぞ」と、対等な立場で未来を託す、静かなる誓いの儀式のようだった。

アルフォンスは、その温かい毛玉の感触に笑みをこぼすと、静かに部屋を後にした。兄として、そして、この連合の守護者としての、長い一日が、また始まる。


#### 第一回 陽だまり連合評議会


その日の午後、完成したばかりの『盟約の館』の円卓には、新たなる時代の主役たちが集結していた。

議長席に座るアルフォンスを筆頭に、ローラン、ミカエラ、ダグ、グンナル、フィン、エルフの長老。そして、南からはカエランが、西からはヴォルカンが、それぞれの国の未来をその双肩に背負い、真剣な面持ちで席に着いている。ザターラからは、ディアナが『契約の木』を通じて、光の姿でその議論に参加していた。

これが、歴史上初となる『第一回 陽だまり連合評議会』だった。


議題は、ただ一つ。アークが最後に遺した、あまりにも巨大な宿題――**『豊穣過多』**問題。

口火を切ったのは、やはりディアナだった。

『皆様。わたくしの商会が先日発表した、最新の大陸経済白書ですわ』

彼女の言葉と共に、円卓の中央に、光の帳簿が映し出される。そこに記されていたのは、衝撃的な数字の羅列だった。小麦の価格は、この一年で、かつての二十分の一にまで暴落。一方で、宝飾品や奢侈品の価格は、三倍以上に高騰している。

『飢えは、克服されました。ですが、その代償として、我々は『労働の価値』そのものを見失いつつあるのです。汗を流して麦を育てるよりも、ただ一つの宝石を転がす方が、遥かに大きな富を生む。この歪みを放置すれば、やがて人々の心は、働く喜びを忘れ、ただ楽に富を得ることだけを求める、虚しい砂漠と化すでしょう』


その、あまりにも的確で、冷徹な未来予測。カエランは故郷の農夫たちの顔を思い浮かべ、苦渋に顔を歪め、ヴォルカンは西方の職人たちの誇りが失われる未来を思い、固く拳を握りしめた。


#### 文化という名の新たな価値


重い沈黙が、評議会を支配する。

その、絶望的な空気を破ったのは、意外な人物だった。

「……あの、よろしいでしょうか」

若き学長フィンが、おずおずと、しかし、その瞳に確かな光を宿して手を挙げたのだ。

アルフォンスは、その、かつての泣き虫だった友の、あまりにも頼もしい成長した姿に、驚きと、そして、心からの誇りを込めて、穏やかに微笑みかけた。

「もちろんだ、フィン。お前の知恵も、この陽だまりを創る、大切な力だ。聞かせてくれ」


その言葉に勇気づけられ、フィンは立ち上がると、自らがまとめた報告書を広げた。

「ディアナ様のお話は、富、すなわち『マルカ』の視点からの、完璧な分析だと思います。ですが、僕は、アーク兄ちゃんが最後に遺してくれた、もう一つの『価値』について、報告させてください」

「それは、**『物語』**です」

フィンは、大陸各地の協力者から寄せられた、驚くべき報告を語り始めた。

「先日の、教会の焚書令。あれは、短期的には成功したように見えました。ですが、その結果、何が起きたか。燃やされた本は、人々の心の中で、ただの物語から**『禁じられた伝説』**へと昇華されたのです。吟遊詩人が奏でる『風の譚詩曲』は、今や、酒場で最も人気の演目となり、子供たちは、教会の聖人伝よりも、アルフォンス兄ちゃんの英雄譚を、目を輝かせて語り合っている。教会が物語を焼けば焼くほど、人々の心の中で、物語の価値は、より強く、より気高く燃え上がっているのです!」


その熱のこもった報告に、ヴォルカンが、ハッとしたように顔を上げた。

「……そうか。そういえば、我が国の若い職人たちも、あの本を読んで、『俺たちの技も、いつか誰かを守る物語になるのなら』と、再び槌を握る誇りを思い出した者が、何人も……!」

カエランもまた、力強く頷いた。

「我が故郷でも同じです! 『黄金の雫』は確かに民の腹を満たしました。ですが、彼らの心を、絶望の淵から本当に救い上げたのは、フィン殿がもたらしてくれた『物語』だった! パンだけでは満たされぬ、心の飢え。それを満たす力が、物語には、確かにあるのです!」


アルフォンスは、その議論の中で、弟が最後にやろうとしていたことの、本当の意味を、心の底から理解した。

(そうか、アーク。お前は、わかっていたんだな。腹が満たされただけじゃ、人は本当の意味では救われない。その、空っぽになった心に、次に目指すべき『夢』や『憧れ』という名の、新しい種を蒔いてやらなければならない、と……)


彼は、立ち上がった。その声には、もはや迷いはない。若き王としての、絶対的な確信が宿っていた。

「――決まったな。俺たちの、次の仕事が」

「俺たちは、ただ腹を満たすための、食い物を作るだけじゃない。大陸中の人々の心を豊かにする、最高の『物語』を、この陽だまり連合全体で創り、分かち合う。それこそが、豊かさの先にある、本当の豊かさだ!」


#### 陽だまりの小鳥


アルフォンスの力強い宣言に、評議会は、新たな時代の創造という、具体的な行動計画の策定へと、その熱を加速させていった。

ダグとグンナルは、連合全体の印刷技術の標準化と発展を担う**『印刷ギルド』**の設立を。

ローランとフィンは、各国の歴史や民話、英雄譚を収集し、アカデミーで編纂・出版する**『大陸物語編纂プロジェクト』**を。

ミカエラとエルフの長老は、教会の聖歌とエルフの古の歌を融合させた新しい音楽や、連合全体の祝祭を企画する**『文化交流祭典』**の開催を。

次々と、未来を創るための、心躍る設計図が描かれていく。


その、議論が最高潮に達した、まさにその時だった。

ちゅん、ちゅん、と。

一羽の、小さな小鳥が、評議会の開かれた窓から、何の警戒心もなく飛び込んできた。それは、アークが、まだ幼い頃、母のために彫った、あの木彫りの鳥によく似ていたが、その羽は陽光そのものが形を成したかのように温かく輝き、確かに、生きていた。

小鳥は、他の誰にも目もくれず、一直線に、議長席に座るアルフォンスの肩に、ちょこんと止まった。そして、まるで急を告げるかのように、彼の耳元で「ちゅん、ちゅん!」と慌てたように鳴くと、その小さなくちばしで、アークの部屋がある方角を、何度も、何度も指し示したのだ。


アルフォンスは、胸に込み上げる、説明のつかない、しかし確かな予感に、息を呑んだ。

彼は、仲間たちに一言断ると、急いで席を立ち、弟が眠る部屋へと、駆け出した。

部屋の扉を開けると、そこには、主の帰還を待ちわびていたウルが、嬉しそうに尻尾を振っている。

そして、アルフォンスの視線は、枕元の花瓶へと、吸い寄せられた。


四枚の黄金の若葉をつけた芽。その中心から、新たに、**五枚目となる、ひときわ大きく、力強い黄金色の葉**が、まさに今、その姿を現そうとしていた。

そして、その葉の先端で、朝露のようにキラキラと輝く、一滴の光の雫が、眠るアークの、雪のように真っ白な髪の上に、ぽつり、と落ちた。

その瞬間、アルフォンスは、確かに見た。

アークの金色の髪が、ほんの少しだけ、その面積を広げたのを。

そして、何よりも。

眠る弟の、その穏やかな唇が、ほんの、ほんの僅かに、誇らしげな笑みの形に、綻んだのを。


アルフォンスは、弟の確かな回復と、仲間たちとの新しい一歩を実感し、静かに、しかし力強く、微笑んだ。

(……聞こえてるんだな、アーク。俺たちが奏でる、新しい時代の、この心音も)


***


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