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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第109話:最初の小競り合いと、広がる毒

#### 鷲の偵察


夜明け。

南方の穀倉地帯を覆っていた絶望の沈黙は、今や、希望に満ちた槌音と、兵士たちの力強い掛け声に取って代わられていた。地平線の向こうから昇る太陽が、その威容を現し始めた『陽だまりの砦』の、生きた城壁を黄金色に染め上げる。


その、あまりにも平穏な朝を切り裂いたのは、エルフの斥候が奏でる、甲高い警告の角笛だった。

「――敵襲! 東の丘より、騎馬隊三十!」


「来たか!」

城壁の上で、アルフォンスは不敵に笑った。

眼下では、鉄鷲公国の精鋭と思しき偵察部隊が、こちらの練度を試すかのように、鋭い楔形の陣形で突撃してくる。

だが、南方の兵士たちに、もはや怯えの色はなかった。

「落ち着け! 俺たちの庭に、ようこそってな!」

守備隊長が、アルフォンスから学んだばかりの、自信に満ちた声で檄を飛ばす。


鉄鷲の騎馬隊が、城壁まであと百メートルという地点に差し掛かった、その瞬間。

リオンの静かな号令と共に、大地そのものが、彼らに牙を剥いた。

城壁の前面に広がる地面から、アークの設計通りに張り巡わされていた『鉄鋼樹』の根が、まるで巨大な蛇のように隆起し、馬の足を絡め取る。突撃の勢いを失い、陣形を乱した騎馬隊の頭上に、ミカエラが掲げた杖から、温かい、しかし、抗いがたい光の壁――『聖域の防壁』が出現した。

「なっ……なんだ、この壁は!?」

「進めん! 馬が、言うことを聞かん!」


「――今だ! 放て!」

アルフォンスの号令。

だが、矢を放ったのは、エルフたちだけではなかった。この日のために、リオンから弓の扱いを叩き込まれた、南方の兵士たち自身だった。

彼らが放つ無数の矢が、混乱する敵兵へと降り注ぐ。

それは、殺戮のための矢ではない。誇りを取り戻すための、最初の一斉射撃だった。

偵察部隊は、城壁に触れることすらできず、数人の捕虜を残して、算を乱して逃げ帰っていった。


城壁の上で、地鳴りのような歓声が上がる。

アルフォンスは、その歓声の中心で、誇らしげに胸を張る南方の兵士たちを見つめていた。そして、その隣で、静かに頷くカエランと、固い握手を交わした。

『鋼鉄』の作戦は、完璧な形で、その最初の成果を上げたのだ。


#### 蜂蜜の拡散


その、同じ頃。

遥か東、鉄鷲公国の、飢えと絶望に満ちた国境の街。

闇ギルドの元締め、グリゼルダの隠れ家は、彼の腹心たちの、熱狂と興奮に包まれていた。

「……親分、こいつは、とんでもねぇ代物だ……」

「ああ、一杯飲んだだけで、三日は腹が減らねぇような気がするぜ……」

グリゼルダは、セリナから手に入れた『黄金の一滴』を、自らの権力を盤石にするための、最高の道具として使っていた。


そこへ、再び、あの黒猫のような女、セリナが姿を現す。

「あら、皆様、お楽しみのようですわね」

「てめぇ……!」グリゼルダは、目の色を変えて詰め寄った。「もっとだ! もっと寄越せ! いくらでも払う!」

セリナは、妖艶に微笑むと、今度は、少し大きな樽を、彼の前に転がした。

「ええ、約束ですもの。ですが、わたくしにも、一つ、お願いがあるの」

彼女は、グリゼルダの耳元に、悪魔の囁きを吹き込んだ。


「――この樽の中身、少しだけ、今夜の兵営の、夜食のスープに『混ぜて』みては、いかがかしら? 飢えと寒さで凍える、哀れな兵士たちへの、ささやかな『慈悲』として、ね」


その、あまりにも甘く、あまりにも悪辣な提案。

グリゼルダは、一瞬、その危険性に顔を歪めたが、すぐに、その唇を、獰猛な笑みの形に歪めた。

(……面白い。大公様への忠誠なぞ、腹の足しにもならん。この街で、本当に兵士たちの心を掴むのは、誰なのか。試してみるのも、一興か)


#### 飢えた鷲の憤怒


鉄鷲公国の、冷たい鋼鉄の玉座。

大公ギュンターの前には、二つの、相反する報告が届けられていた。

一つは、南方への偵察部隊が、謎の『生きた城壁』の前に、赤子の手をひねるように撃退されたという、屈辱的な敗報。

そして、もう一つは、国境の兵士たちの間で、南の国からもたらされたという、未知なる『黄金の酒』の噂が、燎原の火のように広まっているという、不穏な報告だった。


「……つまり、こうか」

ギュンターは、玉座の上で、静かに、しかし、その猛禽のような瞳の奥に、絶対零度の怒りを燃やしながら言った。

「南の猿どもは、俺の庭先に、見せびらかすように、新しい巣を作り始めた。それだけでは飽き足らず、俺の、飢えた猟犬たちの目の前に、極上の肉をぶら下げて、手懐けようとしている、と」


傍らの将軍が、顔を青ざめさせてひれ伏す。

ギュンターは、ゆっくりと、玉座から立ち上がった。

その顔に、焦りの色はない。ただ、自らの獲物を横から掠め取ろうとする、不届き者への、絶対的な殺意だけがあった。


「……面白い。実に、面白い余興だ」

彼の、低い声が、玉座の間に響き渡る。

「奴らは、俺を、ただの飢えた鷲だと侮ったらしいな。良いだろう。教えてやる。鷲の狩りが、どのようなものかを」


「――全軍に、伝えろ。もはや、小細工は不要。三日後、夜明けと共に、南の国境を、完全に蹂虙する。あの、忌々しい『陽だまりの砦』とやらを、民の一人残らず、その血で、赤く染め上げてくれるわ」


蜂蜜の毒が回るのが先か、鋼鉄の爪が喉を掻き切るのが先か。

その、あまりにも短いタイムリミットを突きつけられ、物語は、ついに、全面戦争の火蓋が切られる、その瞬間へと、加速していく。


***


最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました。

この物語が、あなたの心の中に、小さな「陽だまり」を創れたのなら、作者として、これ以上の喜びはありません。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、そして、よろしければ新たなる物語へのフォローをいただけますと、次の設計図を描く、最高の励みになります。

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