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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第107話:火薬の匂いと、蜂蜜の味

#### 深夜の凶報


希望の槌音が響き渡る、南方の夜。

その、温かい活気を切り裂くように、一体の影が、カエランが執務を行う天幕へと、音もなく滑り込んだ。

「――カエラン様」

エルフの弓兵長リオンの、氷のように冷たい声に、図面を引いていたカエランと、教科書の編纂を行っていたフィンが、弾かれたように顔を上げた。

リオンは、眠らされたままの密偵と、彼が持っていた羊皮紙を、無言でテーブルの上に広げた。

そこに描かれていた、あまりにも正確な『錬金術の鍛冶場』の見取り図と、仲間たちの似顔絵。

フィンの顔から、サッと血の気が引いた。

「そ、そんな……もう、気づかれていたなんて……」

だが、カエランは違った。**彼は、その絶望的な証拠を、ただ一点、燃えるような瞳で見つめていた。数瞬の沈黙の後、彼は、これまで浮かべていた不安げな表情を完全に消し去り、すっくと背筋を伸ばした。その姿は、もはや助けを乞う若造ではなく、自らの民の運命を背負う、若き領主そのものだった。**

**彼の口から発せられたのは、恐怖の呻きではなく、**腹の底から絞り出すような、若き獅子の、低い唸り声だった。

「……そうか。ならば、もはや、悠長に巣作りをしている時間はない、ということだな」

彼は、傍に控えていたリオンに、揺るぎない声で命じた。

「リオン殿。陽だまりの街へ、緊急の連絡を。――『飢えた鷲が、我らの雛を、その目に捉えた』、と」


#### 陽だまりの緊急評議会


その報せは、夜を徹して、北の陽だまりの街へと届けられた。

アークの書斎には、深夜にもかかわらず、全ての仲間たちが集結していた。『契約の木』を通じて、カエランとディアナの意識も、そこに在る。

リオンからの詳細な報告、そして、ディアナが持つ、鉄鷲公国に関する、血生臭い情報の数々が、場の空気を、これ以上ないほどに張り詰めさせていた。

「――鉄鷲公国大公、人呼んで『飢え鷲』のギュンター。民の飢えを、他国への侵略によって解決することに、一切の躊躇も、罪悪感も持たぬ男。今回の件、彼奴が動かぬ道理は、万に一つもございません」

ローランの、厳しい分析が響く。


「ならば、話は早い!」

アルフォンスが、拳を机に叩きつけた。「俺たち『聖域騎士団』が、今すぐ南方へ向かう! 飢えただけの鳥どもなんぞ、俺の斧の錆にしてくれる!」

その、あまりにも真っ直ぐな正義。

だが、それを、ディアナの、冷徹な声が制した。

「お待ちになって、アルフォンス様。それは、敵の思う壺ですわ。我らが先に国境を越えれば、それは『侵略』。彼らは、被害者として、大義名分を得て、周辺諸国にまで支援を呼びかけるでしょう。そうなれば、我らは、大陸の全てを敵に回すことになる」


武力か、知略か。

二つの正義がぶつかり合う中、全ての視線が、静かに盤面を見つめる、一人の青年へと集まった。

アークは、ゆっくりと顔を上げると、その二色の瞳に、神の如き大局観と、悪魔の如き狡猾さを、同時に宿して、静かに微笑んだ。


#### 『蜂蜜と鋼鉄』作戦


「――どちらも、正しいよ。兄さんも、ディアナさんも」

アークは、立ち上がると、巨大な大陸地図の上に、二本の線を引いた。

「だから、僕らは、その両方を、同時に行うんだ。僕が提案するのは、**『蜂蜜と鋼鉄ハニー・アンド・スティール』作戦**」


彼は、まず、陽だまりの街と、南の子爵領を繋ぐ、力強い一本の線を引いた。

「こちらが、**『鋼鉄』**。アルフォンス兄さん。あなたと、ミカエラさん、そして聖域騎士団の精鋭は、すぐさま南方へ向かってください。ただし、決して国境は越えない。『技術指導のための親善使節団』として、カエランさんの領地の、防衛体制の構築を、徹底的に手伝うんです。アーク式の、生きた城壁、エルフ式の、森の罠。僕らの技術の全てを注ぎ込み、鉄鷲公国に、決して越えられない『絶望的な壁』を見せつける。それが、我らの『鋼鉄』の抑止力です」


次に、アークは、ディアナが持つ秘密の交易路を使い、鉄鷲公国の、内部へと向かう、無数の、細い線を引いた。

「そして、こちらが、**『蜂蜜』**。ディアナさん。あなたの力で、僕らの『黄金の一滴』や、保存食を、鉄鷲公国の、一般の民や、下級の商人たちにだけ、意図的に『流出』させてください。国を救うほどの量じゃない。ですが、その、あまりにも甘い蜜の味を、一度知ってしまった民が、果たして、血を流すだけの、無意味な戦争を、心から支持するでしょうか?」

**「いいえ。彼らは、自らの支配者に対し、こう問い始めるはずです。『なぜ、我らの王は、我々に、この蜂蜜を与えてくれないのか』と。内側から国を蝕む、不信という名の、最も甘く、そして、最も効果的な毒です」**


それは、あまりにも悪魔的な、心理戦の設計図だった。

外からは、**『鋼鉄』**の力で、侵略の意志を砕く。

内からは、**『蜂蜜』**の味で、民の心を、支配者から引き剥がす。

武力と経済、そして心理。その全てを駆使した、完璧な二面作戦。

その、あまりにも鮮やかで、あまりにもえげつない戦略に、書斎にいた誰もが、ただ、戦慄していた。


#### それぞれの戦場へ


作戦は、承認された。

陽だまりの街は、再び、一つの巨大な戦車のように、その車輪を回し始めた。

アルフォンスとミカエラ率いる、百騎の聖域騎士団が、南へと向かう、その旅立ちの日。

アークは、兄の、その逞しくなった背中に、ただ一言だけ、告げた。

「――兄さん。死ぬなよ」

「たりめぇだ」アルフォンスは、不敵に笑った。「お前が目覚めるのを待っててやったんだ。今度は、お前が、俺の帰りを待ってろ」

**兄弟は、固い拳を、一度だけ、静かに突き合わせた。言葉は、それ以上、必要なかった。**


一方、ザターラの闇では、ディアナの影たちが、甘い毒を携え、飢えた鷲の巣へと、次々と潜入していく。

そして、南の地では、カエランが、自らの民の前に立ち、力強く宣言していた。

「――我らの陽だまりを脅かす、冬の嵐が近づいている! だが、我々は、もはや凍えるだけの民ではない! 我らには、北の仲間たちがいる! 誇り高き、武器がある! 今こそ、我らの手で、我らの春を、守り抜く時だ!」

その言葉に応え、彼は、アークから託された『聖浄樹の種子』を、領地の中心に、高々と掲げた。


その、同じ頃。

遥か東、鉄鷲公国の、冷たい鋼鉄の玉座で。

大公ギュンターは、密偵が命がけで持ち帰った、魔法の蒸留装置の設計図を、その、猛禽のような鋭い目で、値踏みするように見下ろしていた。

傍らの将軍が、進言する。

「大公閣下。南の猿ども、国境の守りを固め始めたようですが、その数、取るに足らず。まさに、赤子の手をひねるが如し」

「……ふん」

ギュンターは、その唇に、残酷な笑みを浮かべた。

「良い。存分に、巣作りをさせてやれ。果実は、完熟した頃が、最も美味いものだ。――全軍に伝えろ。鷲が、狩りに出る時も、近い、とな」


二つの国が、今、それぞれのやり方で、来るべき戦争の、その牙を、研ぎ澄ましていた。


***


最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました。

この物語が、あなたの心の中に、小さな「陽だまり」を創れたのなら、作者として、これ以上の喜びはありません。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、そして、よろしければ新たなる物語へのフォローをいただけますと、次の設計図を描く、最高の励みになります。

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