表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/149

第104話:錬金術の鍛冶場と、黄金の最初の一滴

#### 陽だまりの工房


アークが『陽だまり農工錬金術院』の設立を宣言した、その翌日。

かつて村の広場だった場所の一角は、これまでにない熱気と、興奮に満ち溢れていた。

そこには、この街が誇る、最高の頭脳と技術が集結していた。

創造主アーク。鍛冶神ダグ。エルフの賢者リオン。そして、故郷の希望をその一身に背負う、若き貴族カエラン。

彼らの前には、アークが昨夜一晩で描き上げた、あまりにも複雑で、あまりにも美しい、魔法の蒸留装置の設計図が広げられている。


「……無茶だ、アーク様よ」

最初に口を開いたのは、腕を組んで設計図を睨みつけていたダグだった。

「この構造……蒸留の過程で、内部に凄まじい圧力がかかる。ただの木材じゃ、一瞬で木っ端微塵だ。鉄で覆うにしても,これほどの曲線は……」

その、職人としての的確な指摘に、今度はエルフのリオンが、静かに言葉を続けた。

「我らエルフの森に伝わる『鉄鋼樹アイアンウッド』ならば、その圧力にも耐えられよう。だが、あの木は、あまりにも硬質で、人の手による加工を、ほとんど受け付けぬ」


絶望的な壁。

だが、アークは、待っていましたとばかりに、不敵に笑った。

「だから、いいんだよ」

彼は、設計図の中心を、指でとん、と叩いた。

「僕らは、機械を『作る』んじゃない。新しい生命を、この地に**『育てる』**んだ。リオン殿に鉄鋼樹の種子をいただき、僕が、この設計図通りの形に、木そのものを『成長』させる。そして、ダグさん。あなたには、その、今まさに成長している生きた木に、合わせるように、金属の部品を打ち込み、融合させていってもらう。これは、鍛冶じゃない。**生きた木との、共同作業**だ」


その、あまりにも常識外れな、しかし、あまりにもアークらしい「設計思想」。

**ダグの、職人としての魂に、ギラリと、火が灯った。**

「……へっ、面白ぇ! **ただの鉄を打つだけじゃ、もう、俺の魂は満足できねぇと思ってたところだ。**生きてる木と、真剣勝負しろってかよ! 上等だ! お前さんの、そのイカれた発想、この俺の、生涯最高の仕事で、応えてやらぁ!」


#### 創生の槌音


その日から、工房は、一つの巨大な生命体のように動き始めた。

アークが、リオンから受け取った一粒の鉄鋼樹の種子に、その手をかざす。

「**『植物成形・プラント・シェイピング・エクストリーム』**!」

彼の意志に応え、種子から芽吹いた若木が、まるで粘土のように、その姿を自在に変えながら、蒸留装置の、美しい曲線を描く心臓部へと、成長していく。

その、今まさに成長する生きた木に合わせ、ダグと弟子たちが、真っ赤に焼けた銅のパイプを、寸分の狂いもなく打ち込み、冷却していく。ジュウウッ、という、水蒸気の音と、カーン、カーンという、力強い槌の音が、未来を創るための、心地よい交響曲となって響き渡った。

エルフたちが、その木肌に、魔力の流れを安定させるための、美しいルーン文字を刻み込み、フィンとアカデミーの生徒たちは、カエランと共に、発酵させるための麦を運び、その神聖な儀式を、目を輝かせながら手伝っている。


**貴族であるカエランもまた、生まれて初めて、その手にタコを作り、泥と汗にまみれて働いた。だが、その顔に、苦痛の色はなかった。故郷で見てきた、収穫を前に絶望する農夫たちの涙に比べれば、この、未来を創るための汗は、あまりにも甘美だった。**故郷を救うための、確かな希望が、そこにはあった。


そして、数日後。

工房の中心に、一つの、芸術品が産声を上げた。

生命力に満ちた鉄鋼樹の、美しい木肌。それを、まるで血管のように駆け巡る、磨き上げられた銅のパイプ。そして、穏やかな光を放つ、エルフのルーン文字。

それは、もはや機械ではない。アークの理想を心臓とし、仲間たちの魂をその血肉とした、一つの、**生きた錬金術の祭壇**だった。


#### 黄金の最初の一滴


最初の火入れの日。

工房には、全ての仲間たちが、固唾を飲んで集まっていた。

カエランが、震える手で、故郷から持ってきた「呪いの象徴」であったはずの、発酵した麦汁を、祭壇へと、恭しく注ぎ込む。

アークは、その祭壇の心臓部に、そっと手を触れた。

彼は、ただ熱を加えるのではない。聖浄樹のチップを通じて、自らの生命力を注ぎ込み、麦が持つ「魂」そのものを、最も純粋な形で、抽出していく。

やがて、銅のパイプの先端から、一滴、また一滴と、液体が滴り始めた。

そして、小さな水晶のグラスに、その、**最初の一滴**が、コトリ、と落ちた。


それは、無色透明ではなかった。

夕陽の、最も美しい瞬間だけを、そのまま閉じ込めたかのような、どこまでも、どこまでも澄み切った、**黄金色の液体**だった。

**グラスから、むわっと、芳醇な香りが立ち上る。それは、ただの酒の香りではない。太陽をいっぱいに浴びた麦畑の記憶、故郷の大地の匂い、聖浄樹が放つ清浄な森の香り。そして何より、この工房で流された、仲間たちの汗と、希望の匂い。**その全てが、完璧な調和を保っていた。


アークは、そのグラスを、カエランへと、静かに差し出した。

「……どうぞ。これが、あなたの故郷の、新しい『夜明け』の味です」


カエランは、震える両手で、そのグラスを受け取った。そして、意を決すると、その黄金色の液体を、ほんの少しだけ、口に含んだ。

その、瞬間。

彼の全身を、雷に打たれたかのような、衝撃が、駆け巡った。


美味い。

だが、違う。これは、ただの味ではない。

太陽の熱が、大地の力が、そして、何より、この陽だまりの街で生きる人々の、温かい「希望」そのものが、凝縮された、魂の液体。

数ヶ月間、彼の心を蝕んでいた、冷たい絶望が、その、たった一滴の黄金によって、完全に、そして、跡形もなく、溶かされていく。

彼の、乾ききっていた瞳から、ぽろ、ぽろ、と、大粒の涙が、止めどなく溢れ出した。


アークは、その姿を、満足げな、そして、どこまでも優しい笑みを浮かべて見守っていた。

「どうです、カエランさん。それは、呪いの味がしますか?」


カエランは、何度も、何度も、首を横に振った。そして、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、魂の底から、絞り出すように、叫んだ。

「いいえ……! いいえ、アーク様……!」


「――これは、我が故郷の、**“再誕”**の味がします……!」


***


最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました。

この物語が、あなたの心の中に、小さな「陽だまり」を創れたのなら、作者として、これ以上の喜びはありません。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、そして、よろしければ新たなる物語へのフォローをいただけますと、次の設計図を描く、最高の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ