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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第10話:開墾の唄と、砕ける常識

翌日、ライナス男爵領の夜明けは、歴史上かつてない熱気に包まれていた。

広場での宣言を受け、村中の男たちが、まだ薄暗い中から、期待を胸に、屋敷裏の荒れ地へと集結していた。その手には、昨日ダグの鍛冶場から貸し出されたばかりの、黒光りする『ライナス式農具』が握られている。


だが、彼らの顔には、昨日の熱狂が少しだけ鳴りを潜めていた。年配の農夫の一人が、地面に唾を吐くのが見えた。「道具が新しくなったからって、死んだ土地が生き返るわけじゃねぇや」その呟きが、多くの者の本音だった。


プロジェクトのリーダーであるアークは、父とローラン、そして仲間たちと共に、小高い丘の上からその光景を見つめていた。


「始めよう、みんな!」


アークの澄んだ声が、号令となった。

村人たちは意を決し、新型の鋤を硬い大地へと振り下ろす。

滑り出しは順調。誰もがそう思った、その時だった。


ガキンッ!


「ぐっ……!」「こっちもだ! 刃が通らねぇ!」

あちこちで、作業が止まった。地中深くに潜む、樫の木の頑固な根と、巨大な岩が、鋤の刃を阻んでいた。


「くそっ、やっぱり無理だ! こんな土地、畑になんかなるもんか!」

開始からわずか一時間。村人たちの士気は急速に低下し、プロジェクトは開始早々、絶体絶命の危機に瀕していた。


村人たちが途方に暮れる中、アークだけは冷静だった。彼は丘を駆け下りると、問題の木の根の前に立った。

「ローランさん。知恵と、団結、だよね」

ローランは「いかにも」と頷く。


「皆さん!」アークは村人たちに指示を飛ばした。「その邪魔な根の周りを、まず掘れるだけ掘ってください!」

やがて、巨大な根の本体が剥き出しになった。アークはそこに近づくと、根の一番太い部分にそっと手を触れる。


「『植物成形(小)』!」


緑の光と共に、樫の木の頑固な根が、数人が同時に握れるほどの、巨大な取っ手のような形状へと変貌を遂げた。

驚愕する村人たちに、アークはにっこりと笑って叫んだ。

「これは、僕が作った『生きているテコ』だよ! そこを持って、合図に合わせて、みんなで力を合わせて引っ張って!」


十人がかりで、魔法で作られた取っ手を握りしめる。

「せーのっ!」

メリメリッ……メキメキメキッ!

大地が悲鳴を上げるような音と共に、今までびくともしなかった巨大な根が、大地から完全に引き抜かれた。


「「「おおおおおおおおっ!!」」」

地鳴りのような歓声が、村に響き渡った。


木の根は解決した。だが、まだ巨大な岩が残っている。

アークはダグに作らせた『鉄のクサビ』と『乾燥させた木の杭』を使い、古代の技術と魔法を融合させる。

岩の亀裂に打ち込まれた全ての木の杭に、アークがそっと手を触れた。


「『植物育成(小)』!」


緑の光が、乾ききった木の杭へと注ぎ込まれる。

杭が強制的に水分を吸収し、その体積を急激に膨張させていく。


一瞬の静寂。村人たちが固唾を飲んで見守る中、巨大な岩の内部から、地響きのような低い呻き声が聞こえ始めた。


ピシッ……!


最初に、小さな亀裂が走る音。

そして、次の瞬間。


パキィィィィィンッ!!


巨大な岩が、甲高い絶叫を上げて内側から砕け散った。

村人たちは、開いた口が塞がらなかった。それはもはや、神の御業のように見えた。


最大の障害が、アークの知恵と魔法、そして皆の団結によって取り除かれた。

そこからは、もう誰も作業を止めるものはいなかった。ライナス式農具の真価が遺憾なく発揮され、面白いように荒れ地が、未来を育む柔らかな畑へと姿を変えていく。


村人たちのアークを見る目は、完全に変わっていた。

もはや、誰も彼を「貴族の坊ちゃん」とは呼ばない。

自分たちを導き、不可能を可能にする、不思議な力と知恵を持った、若き**「リーダー」**として、心からの尊敬と信頼を寄せるようになっていた。


作業の合間には、セーラがアークイモを使った温かい炊き出しで皆の腹を満たす。ダグは農具のメンテナンスに駆け回り、フィンはアークの指示を伝える伝令役として誇らしげに畑を走り回っていた。

それぞれの仲間が、自分の役割を見つけ、プロジェクトは一つの強固なチームとして機能し始めていた。


数週間後。

かつて荒れ地と呼ばれた場所は、見渡す限りの広大な畑へと生まれ変わっていた。

村人たちの手によって、希望の種となるアークイモが一つ一つ丁寧に植えられていく。


アークは、その光景を丘の上から見つめていた。

ザシュッ、ザシュッというリズミカルな鋤の音。仲間たちの笑い声。子供たちのはしゃぐ声。それは、かつての苦しい労働の音ではない。貧しい村が、自らの手で未来を創り出す、力強い生命の音楽。

辺境の村に響き渡る「開墾の唄」が、夕日にどこまでも輝いていた。


***


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