共和国への帰路1: 碧銀の都市スティレ領にて
統一暦2003年 第13月 第5日
地点 : 王国南東部 スティレ領 領都
記録タイトル:王国調査・八日目
執筆者: 共和国魔術院第7分室調査員 共和国第七位魔術師
本日、霊峰調査を終えた我々は早朝より移動を開始した。
アーキナルも故障し、隊員の魔力量も枯渇気味であったため、まずはエッシェンモーザー領都まで箒で飛び、そこからスティレ領行きのマキナ・ドラゴンに乗竜した。
王国製マキナ・ドラゴンは錬金術大家の作品と伝えられ、共和国製よりも大型で、揺れが少なく豪奢な造りである。快適である一方、運賃は共和国便の三倍。財布に痛烈な打撃を与えた。
速度は箒の三倍に達し、セイファース領、ギルバート領、フックス領を経由して約三時間でスティレ領都へと到着した。
【スティレ伯爵領に関して】
スティレ領は銀鳥の川流域に発展した山岳領であり、聖教国との国境に位置する。川の流れ込む魔力の影響により冷涼な気候となり、豊かな森林と鉱石資源に恵まれている。
主要資源としては銀鉱・白鉄鉱・魔力結晶鉱・その他宝石、さらには「銀鳥の羽」と呼ばれる希少副産物がある。これらを利用した精密魔道具加工が盛んで、領都は「碧銀の都市」と呼ばれる。
銀鳥の川は聖教国霊峰の麓を源流とするが、途中には水が「低きから高き」へ流れる逆流区間が存在する。これは「天使の帰り道」と呼ばれており、標高が高いスティレ領に魔力と水資源の流入を可能としている。まさしく神の恩寵である。魔術師のなかには魔力勾配の異常と推測するものもいるが、決定的な解明には至っていない。
【魔術について】
スティレ伯爵家は宝石魔術の大家である。鉱石の錬金転換、宝石の研磨・装飾、鉱物特性の抽出、さらには鑑定術まで幅広く伝承している。
また、領都近郊には王国第二の権威を持つスティレ=ヴァレンホイム魔術学院が存在する。自然豊かな山岳を生かし、魔法生物学・解析魔法学・精霊学・環境共生学といった分野が盛んに研究されている。
王都ほど血統主義が強くないため、平民出身の学生も比較的多く、精霊国からの留学生も受け入れている。王国内では珍しく、教会の数も相対的に多い。
【有力な一族】
スティレ家には代々仕える二大一族が存在し、領の要職の三分の一を掌握している。
レヒツフェルド家:宝石研磨・加工の名門。王家の宝飾品も多く彼らの手による。
クラインツェーダー家:宝石への特性付与や価値流通に長ける。商人も多く輩出し、王国内外で評判を広めた。
また、スティレ院出身で卓越した功績を挙げた者は、一代限り「スティレ」の名を冠することが許されるという。
【買い物記録】
クラインツェーダー家の一族が営む宝飾店にて、研究用に魔術刻印入りジュエリーを購入。加えてアーキナル修理に必要な鉱石を見繕った。
特筆すべきは「魔術師と鉱石の相性」を鑑定する装置。鉱石の種類が同じでも、大きさや内包物により魔力伝導率が異なることが明確に数値化されていた。
今回選んだ宝石は従来核よりも約1.3倍の伝導率を示し、修復に資するものと判断された。なお筆者は特にオーバーハウザー伯領産の鉱石との相性が良好であると判定された。
【精密魔法技師】
レヒツフェルド家の工房は領内に点在し、宝石研磨技術を応用して繊細な部品や高級魔道具を生産している。高品質ゆえ王国内外で名声を得ているが、本日は訪問時刻が遅く閉鎖されていたため、見学は叶わなかった。
【宿泊所にて】
一般的な旅宿に宿泊。王国の布団は相変わらず石のように固い。王国魔術師はまず「布団を柔らかくする魔術」を開発すべきではないだろうか。
食事はやはり芋が中心である。なぜ王国人は飽きないのか不明である。
ただしスティレ領特有の香草がふんだんに用いられており、香りと効能だけは秀逸であったことを記しておく。




