共和国への帰路2: 薔薇の都市ヴァレンホイム領にて
統一暦2003年 第13月 第6日
地点:王国南東部 ヴァレンホイム領 領都〈薔薇の都市〉
記録タイトル:王国調査・九日目
執筆者:共和国魔術院第7分室調査員/共和国第七位魔術師
本日、我々はスティレ領を発ち、山岳街道を経てヴァレンホイム領へと入った。
街道は銀鳥の川支流沿いに伸びており、両岸には段々畑と薔薇園が広がる。領都に近づくにつれ、谷全体が薔薇の芳香に包まれるようで、まさしく「薔薇の都市」の名にふさわしい光景であった。
【ヴァレンホイム領に関して】
ヴァレンホイム領は、古来より芸術と花卉栽培で知られる文化都市である。気候は比較的温暖で、薔薇をはじめとする花々を用いた魔術や芸術活動が盛んに行われている。
特に有名なのは、薔薇の精油や花弁を媒介に用いた香気魔術である。これは王国独自の体系で、治癒や精神安定、さらには交渉術の補助に用いられる。貴族間の外交儀礼では、ヴァレンホイム産の薔薇油が高頻度でもちいられているとされる。このため、王国人との外交だけでなく交渉は難しいことが多く翻弄されてしまうことが多い。
また、ヴァレンホイム領はスティレ領と合同でスティレ=ヴァレンホイム魔術学院を運営しており、学院の「芸術魔術」や「香気魔術研究室」は国内屈指の権威とされる。
【薔薇の都市・領都】
領都は大きな湖を囲むように形成され、湖畔には薔薇の温室や回廊庭園が整然と並ぶ。王国式の赤い屋根と白壁の建築が多く、街道の至るところに薔薇の彫刻や花壇が飾られていた。
本日は領都の迎賓館に滞在。客室の寝台は王国としては珍しく柔らかく、昨日のスティレ宿との落差に驚いた。料理もまた芋一辺倒ではなく、花弁を練り込んだ菓子や、薔薇酒といった嗜好品が供され、王国領の中ではかなり洗練されていると感じられた。だがその分値段が高い、実用的ではないものも多く感じた。例えば、料理は見た目は大変良く、カラフルな光が皿の周りを飛び回る演出、食事を勧めると薔薇が咲いていく演出、食べると薔薇の指輪が食事者に現れるなどの演出は興味深いものの、量が少ない、食べにくい、栄養が少ないなど、もはや食事であるように感じない。領民の服飾もそのようで、とてつもなく奇抜でおしゃれな人が多いが、とても歩きずらい、箒に乗れないようである。
【学院訪問】
午後、スティレ=ヴァレンホイム魔術学院(いくつかキャンパスが存在している)の分棟を訪問した。
ここでは自然魔術と芸術魔術が融合しており、学生たちが「音楽に応じて花を咲かせる実験」を行っていた。共和国には存在しない教育風景であり、観察は興味深かった。
ある教授によれば、ヴァレンホイムの花卉魔術は「生物と芸術を媒介にした錬金術の応用」であり、近年は医療分野でも注目されているという。
【所感】
ヴァレンホイム領は、スティレ領の職人的・実務的な文化に比べ、はるかに華やかで美学的な領である。
共和国調査員としては、実用度よりも象徴性や文化的価値を強調する王国的発想にやや違和を覚えるが、一方で魔術を文化芸術と結びつける姿勢は新鮮であり、記録に値する。
明日は、ここからさらに西進し、国境地帯を経て共和国方面へ帰路を取る予定である。




