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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もう一度

BLです。最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

 高校受験が終わって、進学先が決まった頃。僕は幼馴染に告白された。

「ずっと好きだった」

って言われて

「僕も」

と答えた。

今思えば、幼馴染のようちゃんは、告白しただけで付き合おうとは言わなかった。


 高校の入学式で、陽ちゃんと同じ高校だって知った。クラスは別々で、なかなか会いに行けない。入学前の休みにも、何だか恥ずかしくて連絡が取れなくて、あっと言う間に学校が始まってしまった。

 もし、高校が違ったら、僕達はそのまま何も無かったと思う。

 学校での陽ちゃんは僕を避けている。そう言うのって、何と無くわかるじゃない?だから、僕も陽ちゃんの近くには行かない様にしている。朝の登校時間も、ちょっとズレているからなかなか会えない。たまに、どちらかが早かったり、遅かったりすると駅の改札で会えるけど、電車の中でちょっと話すだけで、車両から降りると友達を見つけて、僕は置いてけぼりになる。

「おはよう、横山」

「おはようございます、加藤先輩」

加藤先輩は弓道部の先輩で、背が高く、短髪でかっこいい。寡黙でいつもあまり喋らないけど、よく人を見ているのか、何かあると声を掛けてくれる。

 僕は、ちょっと先を歩く陽ちゃんを見る。友達と楽しそうに笑ってる。肩なんて組んで仲が良いんだなって思う。昔は僕と陽ちゃんもあんな感じだったけど、今は全然だ。いいな、と思う。僕も陽ちゃんとあんな風になりたいのに、どうして陽ちゃんは僕を避けるんだろう、、、。



 僕は高校から弓道を始めた。理由は簡単、何かカッコいいから。高校見学の時期に、文化祭に来て弓道部の見学をした。先輩達がみんな凛々しくて憧れた。加藤先輩はその時まだ一年生だったけど、僕にレクチャーしてくれた人。大きな手が印象的で、弓道部に入ったら、また会いたいなと思った。

 

 弓道部は毎週金曜日が休みなので、いつもより早く帰って来れる。陽ちゃんは、毎週金曜日の夜に遊びに来て、僕の部屋でゲームをしたり、漫画を読んで2時間位過ごす。夜9時になると

「じゃぁ、また来るわ」

と言って帰って行く。僕は最近この時間を疑問に思う。必要かな?



*****



 横山 そうが好きだった。小学生の頃からずっと。中学校に入ってからもずっと。小学校の頃は毎日一緒に遊んだ。中学校に入って部活が始まると、少しずつ距離が出来た。3年生で同じクラスになって、修学旅行は同じ班になれた。旅行が楽しくてたまらなかった。

 高校進学で、違う学校になったらもう会えないと思うと、自分の気持ちを伝えたくなった。付き合いたいとかじゃ無くて、ただ知っていて欲しかった。

 桜が咲く前の、3月の公園で颯に

「ずっと好きだった」

って告白したら

「僕も」

と言ってくれた。嬉しかった。でも、俺は付き合うとか考えて無かったから、その日はそれで別れてしまった。春休み中は、どう連絡を取ればいいか分からずに終わった。


 颯と同じ高校だってわかったのは入学式で、颯の名前が呼ばれたからだ。まさかと思った。でも、

「はいっ」

と返事をした声は颯の声だった。同じ高校で嬉しかったのに、俺はどうしたらいいのかわからなくて、、、。つい、距離を取った。



*****



 1年が経ち、高校2年生になった。陽ちゃんと同じクラスになり、僕は陽ちゃんとどう接していいかわからなかった。陽ちゃんは、1年生の間ずっと、学校では距離を置いていた。今更同じクラスだからと言って、急に距離を縮める事は難しい。僕が陽ちゃんの近くに行っても、陽ちゃんの友達がいて、何か変な空気になるから、、、。

 1年生の時、陽ちゃんは2〜3人の女子から告白されていた。付き合ったとは聞いていないから、断ったみたいだけど、僕がいるからなのかはわからなかった。相変わらず、僕達は付き合っているのか、ただの親友なのか不明なんだ。



*****


「ねぇ、横山っていっつも俺らの後ろ、歩いてね?」

村瀬くんが言った。

「アイツ、俺の幼馴染なんだ。だからかな?」

陽ちゃんは笑いながら返事をした。僕は何だか突き放されたみたいでイヤだった。それからは、同じ教室でも側に行くのをやめた。また、誰かに何か言われたく無かった。



「あのさ、、、」

「んー?」

陽ちゃんは漫画を読んだまま返事をする。 

「どうして、いつも来るの?」

「、、、イヤなの?」

「イヤじゃないけど、何でかな?って」

「来たいから」

「僕達ってさ、、、」

陽ちゃんが漫画を閉じてこっちを見た。

「、、、何でも無い、、、」

あんなにじっと見られたら

「付き合ってるの?」

なんて聞けない。もう、1年以上経つのに、今更だ。



 颯が珍しく話しかけて来た。どうしたんだろうと思って、何を言うのか待っていた。

「どうして、いつも来るの?」

なんて言われてつい

「イヤなの?」

って聞いてしまった。本当は

「会いたくて来てる」

「一緒にいたいから」

「もっと、たくさん話したい」

いっぱい言いたい事があるのに、何故か言えなくなってしまう。

「僕達ってさ」

と言われた時も

「付き合ってるの?」

って聞かれたら

「そうだよ」

って言えたのに、、、。

 1年以上経ってしまって、

「付き合おう」

って言うのも変だ。どうして俺はあの時、付き合おうって言わなかったんだろう。クラスが同じになって、やっと距離が縮んだと思ったのに、最近、急に近くに来なくなったし、、、。


 小学生の頃はこんなじゃなかった。いつもゲラゲ

ラ笑って、たくさん走って、喧嘩してもすぐ仲直り出来た。1本のアイスを2人で半分ずつしたり、体操着の貸し借りもした。今はどんどん距離が離れる。

 俺は今でも、颯が好きだけど、颯には他に好きな人が出来たのかな?1年の時、隣の席の女子が

「三組の横山君、かっこいいと思わない?」

って言っていた。

「弓道の袴姿見た事ある?」

と話しているのを聞いて、放課後弓道部を見に行った。颯は、まだ新人だったから、先輩が横に立って教えていた。矢は持たずに、弓の引き方を習っていた。真剣な顔はカッコ良かった。

 


*****



 最近は陽ちゃんの事を考えて、あんまり眠れない。試験もあったし、寝不足気味で体育祭を迎えてしまった。うちの体育祭は、1人最低1競技出ればいい、でもみんな2競技かな?人数合わせで3競技出る人もいる。僕は全員参加の100メートル走と次の種目の障害物競走に出れば終わり。陽ちゃんは100メートル走と騎馬戦、部活対抗リレーに出る。陽ちゃんはサッカー部で、昔から足が早かった。うちの高校のサッカー部はすごく強いわけでは無く、運が良ければ県大会出場位。



 100メートル走は1年生から始まり、2年、3年と続く、兎に角人数が多いから、1組目が走り終わると、すぐ2組目が走る。リズムよく進み、あっという間に陽ちゃんの番が来た。陽ちゃんはスタートダッシュも様になっていて、大差を付けて1位だった。同じクラスの村瀬くんに頭をガシガシと撫でられ、女子には肩を叩かれて喜んでいた。やっぱりカッコいいなと思いながら、自分の番になった。結果はフツーの4位。誰にも、何も言われず、これが僕と陽ちゃんの違いなんだと実感した。

 せめて、陽ちゃんは見てくれたかな?と思って陽ちゃんを探したら、テントの下の結果掲示板の横で女子と話していた。僕の事は見て無いんだな、と悲しくなりながら、次の競技の列に並んだ。

 この時から少し体調が良くなかった。水分を取りたかったけど、次の競技の準備で並ばないといけないし、その後で飲めばいいかと後回しにした。


 障害物競走は思った以上に辛かった。体調がイマイチだったからか、最初の平均台は何とかなったけど、網をくぐったり、麻袋に入ってジャンプしたり、でっかい輪っかで縄跳びしたりと大変だった。ゴールまで走って競技が終わるまで待っていたら、ちょっと頭が痛くなって来た。

 漸く、最後の人達が終わり、自分のクラスまで戻りに行く。早く水筒の水が飲みたくて、座りたくて辛い。



 今日は大きめの水筒にして良かった。水を一気に飲んで一息つく。頭はまだ痛いけど、最近睡眠不足だったから、ちょっとここでゆっくりしよう。自分の競技は終わったし、後は自由行動なんだ。

 結構みんな自分の席を離れて、応援に行ったり、トイレに行ったり、日陰で友達と話していたりする。陽ちゃんを探すと村瀬くんとトイレに行くらしく、ゆるい坂道を上がって行く。

 この人数なので、体育祭は第二グランドを使う。駐車場に簡易トイレを設置してあるけど、長蛇の列でちょっと時間が掛かる。自販機も近くにあるから、みんなそこでジュースを買って戻ってくる。トイレに行ったという事は、もうすぐ騎馬戦の準備かな?騎馬戦は午前の部の5番目の競技で、その後お昼休憩になる。

 頭痛がまだ引かないから、頭からタオルを被ってじっとしている。最近の女子は日傘持参をしているから、たまに日傘をさしている子もいる。いいな、アレ。今日は僕も日傘が欲しいよ。

 女子の日傘に男子が一緒に入っていると、大抵付き合っているみたいで、体育祭で誰と誰が付き合ってるか、みんなにわかってしまうらしい。それも一つのイベントなのかな?と思う。

 トイレの方を見ると陽ちゃんが戻って来た。村瀬くんと女子が2人。4人で仲良く歩いて来る。1人の女子が陽ちゃんに日傘を差し、一緒に入っていた。村瀬くんがもう1人の女子に入れてもらっていた。まるで、2組のカップルだった。

 僕もそろそろトイレに行こうと思って立ち上がる。ちょっと気持ち悪いな、帰りにスポーツドリンクでも買って来ようと財布を持つ。トイレに行きながら、陽ちゃんを見ると騎馬戦の列に並んでいた。今の競技が終われば、騎馬戦だ。トイレの長い列に並び、 

「騎馬戦に出場する選手は入場門前に並んで下さい」

と言う放送を聞く。

 トイレには長い列があったけど、数がたくさんあるから思った以上に早かった。たまに回ってくる、救護班の人が

「熱中症にならないように、水分を取って下さーい!」

と叫んでいた。そうだ、そうだ、スポーツドリンクを買わなくちゃと思って、自販機まで行く。2本買ってゆるい坂道を下る。冷たいペットボトルを首に当てると気持ち良い。坂道は両側から木が生い茂り、日影が出来ていて涼しかった。丁度騎馬戦が始まって、ここからなら見やすいなと思って、路肩にある大きな石に座る。

(陽ちゃんだ)

陽ちゃんは背が高いけど、以外と体重が少ないから上に乗っている。笛の合図でみんなが

「おーっ!」

とか

「ヤーっ!」

とか叫んで戦が始まる。一回戦目、陽ちゃんは自分の帽子を押さえながら、次々帽子を取りに行く。二つ帽子を取った所で、笛が鳴り騎馬が元の位置に戻って行く。陽ちゃんがこっちに向かって、取った帽子を掲げた気がする。戦は三回戦、帽子を一度返却して二回戦目が始まる。陽ちゃん達は、狙われているのか必死に逃げる。逃げながら、陽ちゃんが指示を出して帽子を取りに行く。狙った相手の後ろから回り込み、帽子を取る。陽ちゃんを狙い、敵の手が横から伸びて来て、陽ちゃんが身体を捻った。バランスを崩して落ちそうになるけど、ギリギリ落ちなかった。良かった〜。僕はスポーツドリンクを飲みながら応援した。また、陽ちゃんが僕の方を見て、取った帽子を高く掲げた。

 陽ちゃん達が、元の場所に戻って行く。ホッとしたら、気分が悪くなって来た。後一戦みたら、ちょっと寝ようかな?

 大将騎はまだ3騎残っていた。3学年合同でやるから、大将騎は3年生だ。6騎の大将騎の内、半分が残っている事になる。僕達の大将騎も残っているらしく、陽ちゃん達は敵の大将騎を狙いに行った。他の騎馬に邪魔されて大将騎に近寄れなかったけど、帽子を取られる事なく終わった。最後はなかなか前に進めなかったけど、近くの騎馬から帽子を一つ取って、陣地に戻って行った。

 僕は本格的に気分が悪くなって来て、その場で靴を脱いで、石の上にちょっと横になった。


*****



 最後の騎馬戦で取った帽子を、颯に見せたくて坂道の方を見た。

「え?」

颯が倒れてる。救護班が近くを歩いていたから、気付いて欲しいとずっと見ていた。最後の合図で退場門を出ると、俺は走って颯の所に行く。途中で話し掛けられたけど、何も聞こえない。

「颯っ!」

救護班の人が

「友達?熱中症みたいだから、手伝って」

と言う。

「颯?」

「陽ちゃん、気持ち悪い、頭、痛い」

こんなにぐったりしている颯は初めてだ。俺は颯の腕を引き、背中に手を回して身体を起こした。

「背負うから、乗って」

と言って、背中を向けると何も言わずに体重を掛けて来た。口もきけない位辛いのかと思うと、心配でたまらない。

「君、横山君と朝、たまに来てる子だよね?」

え?と思って顔を見る。颯の部活の先輩だった。俺は朝、颯より早く出てるから、颯が先輩と一緒に学校に来るのを知っている。

 俺はいつも早く行って、颯が校門を入って来るのを眺めているからだ。極稀に寝坊をして駅で会うと一緒の電車に乗るけど、駅で降りて村瀬を見つけると、ついついアイツの方に行ってしまう。前に

(颯に悪い事したな)

と思って、こっそり振り向いたら、この先輩と一緒に歩いていた。アレ以来、颯はこの先輩と一緒に来る様になり、最近では毎朝一緒だ。

 チラリと名前を見る。

「加藤、先輩が救護班だったんですね」

加藤先輩は、静かに笑った。



*****



 後輩の横山が悩んでいるのはわかっていた。ただ、何を悩んでいるかはわからない。

 静かな子だなと思っていた。人に八つ当たりしたり、声を荒げて怒る所が想像出来ない。朝、同じ電車に乗って来る。車両が違うから、ホームで合流する。俺は元々話しをするのが得意ではないけど、横山も静かな方なので、朝は部活の話しをしたり、勉強の話しを少ししながら来る。今年の1月辺りだった、部活の帰りに珍しく横山が

「先輩は付き合ってる人、いますか?」

と聞いて来た。俺は部活三昧だし、大学も今の自分のレベルでは、ちょっと手が届かない所を狙っていたから、恋愛は二の次だった。

「いないな」

と言うと、横山はボソッと

「相談に乗ってもらってもいいですか?」

と言って来た。

「いいよ」

「僕、付き合ってるか、付き合ってないかわからない人がいるんです。高校に入る前に告白されました。僕も好きだったから、気持ちを伝えたんですけど、その時付き合って欲しいと言われた訳では無くて、、、。でも、毎週金曜日に遊びに来るんです」

(金曜日?部活の定休日か)

「そして、ゲームをするか漫画を読んで帰って行くんです」

 駅ビルでは、バレンタインのチョコレートが並び始めていた。2人でチョコレートを見ながら、横山は

「本当は、自分から付き合ってるのか聞けばいいんですけど、違うって言われたらどうしたらいいかわからなくて、聞けません、、、」

「、、、」

「でもこのままじゃ、お互いの為に良くないと思うんです」

俺は、うーんと考えた。正直恋愛話しは畑違いで、悩んだ所で良い解決方法が見つかるとは思えない。取り敢えず、目の前にあるチョコレートを一つ取って

「チョコレートあげれば?」

と言ってみた。横山はフワッと笑い。

「そうしようかな?」

と言った。それから、2人でチョコレートを見て回り、何日か掛けて気に入ったのを選んだ。そのチョコレートに合ったメッセージカードを探し、小さなカードを買っていった。

 チョコレートを選びながら、

「僕の好きな人、男の人なんです、、、。男の僕からチョコレートもらっても、喜んでくれるかな?」

と言って来た。

「その人から告白して来たんだろ?大丈夫」

横山はチョコレートを選びながら

「そうだといいな」

と呟いた。


あのチョコレート、ちゃんと渡せたんだろうか、、、。



*****



 救護室は臨時で作ってある部屋だった。中は狭くて何人も入れる広さでは無かった。他にも具合の悪い生徒がいたので、俺はもちろん救護班の加藤先輩も外に出た。


 救護室に行ってる間に昼休憩になっていたから、俺は少し遅れて弁当を食べた。俺の次の競技は最後の部活対抗リレーだし、お握り片手に応援合戦を見た。たまに、救護室を見ながら颯が出て来ないかチェックする。

「横山、大丈夫なの?」

「熱中症だろうって、救護室で休んでる。他にも倒れたヤツいたみたいで、俺は追い出された」

「田辺、横山と仲良かったんだね」

女子に言われてドキッとする。

「幼馴染なんだ」

「へぇ〜意外」

「紹介しないよ」

咄嗟に断る。颯本人はどう思っているか知らないけど、颯はモテる。1年の時、隣の席だった彼女を始め何人かが

「横山、良いよね」

と言っているのを聞いた事がある。袴姿が良いらしい。俺以外にも、颯を褒めるヤツがいると嬉しい反面、いつ颯を取られるか心配になる。



*****



 颯は、救護室で処置を受けて、しばらくしてから戻って来た。今日はもう、颯が出る競技は無いから、無理しない様にして見学出来る事になった。もし具合が悪いなら、すぐ救護室に来る様に言われた。颯が加藤先輩にも報告に行きたいと言うから、俺も着いて行く事にした。

「田辺くん、僕1人でも平気だよ」

一瞬、苗字で呼ばれて

(何で?)

と思った。

「加藤先輩、探すんだろ?途中でまた気分悪くなると心配だから」

「でも、友達が待ってるんじゃない?」

俺の今までの行いが、今、俺を苦しめているのか、、、。

「いいから」

と言って、颯の腕を引く。颯は俺の顔を見て、不思議そうな顔をする。


「加藤先輩!」

「横山、平気なのか?」

「まだ、ちょっと本調子では無いんですけど、何とか」

颯、俺には大丈夫って笑って言ったのに、加藤先輩には本当の事言うんだ、、、。俺の中で加藤先輩がただの先輩では無くなった。

 


 部活対抗リレーで、サッカー部のアンカーは俺、弓道部のアンカーは加藤先輩だった。運動部は運動部で競い、文化部と先生チームが争う。まずは文化部と先生チーム、書道部は袴を履いて大きな筆をバトンに走る。美術部は制服でカンバスを持つ、吹奏楽部は各自の楽器でバトンは無し、科学部は白衣に三角フラスコ、、、割りそうだ、、、。先生チームは校長先生を始め、ジャージを着て走る。よくこんな色のジャージがあったな、と言う感じの戦隊モノカラー、、、。しかも、校長先生がピンク、、、似合ってる。文化部はお笑い担当か?運動部女子の部が終わり、次は男子の部が始まる。

 最後の最後の競技。圧巻は陸上部だろうから、俺は加藤先輩に勝つ為に走りたい。大幅にリードされていたら、出来るだけ近づきたいし、弓道部より早ければ、更に差をつけたい。

 第一走者は、やっぱり陸上部が早かった、コーナーの曲がり方も上手いし、野球部もやばい。意外なのが剣道部で3位に着いてる。弓道部とサッカー部、水泳部が少し遅れて走って来る。陸上部と野球部が接戦で、剣道部は離れたり、追いついたりしている。1/4週の差で弓道、サッカー、水泳部が走って来る。第4走者が走り出し、バトンを受け取る準備をする。コース内に出ると、加藤先輩が

「俺、第2走者からアンカーに変わってもらったんだ。そう言えば、2月にチョコもらった?」

と言って、ニヤリと笑った。

一瞬なんの事か理解できず、頭の中身が

「???」

になっている内に、第4走者が来た。弓道部の方が少し早い、ちょっとの差で加藤先輩が走り出し、俺はバトンを受け取ると、今までで1番真剣に走った。

(チョコレートってなんだ?チョコレートってなんだ?二月?チョコレート?バレンタインか!)

加藤先輩はめちゃくちゃ足が早かった。あんなに冷静で落ち着いたイメージなのに、走ったらあんなに熱いのかよ!反則だろっ!

訳のわからない事を考えながら、必死に走る。追いつかない、150メートルがキツい!

 結局、俺は加藤先輩に引き離されて終わった、、、。水泳部は途中でコケたらしく、順位は変わらなかった。


「加藤先輩、チョコレートって何ですか?」

息を切らせながら聞いた。

「2月に横山からチョコレート貰わなかった?俺は貰ったけど、美味かったよな、アレ」

と言い残し、加藤先輩は他の弓道部部員と合流した。



*****



 体育祭の後は、みんな打ち上げの予定を立て始めた。村瀬に決まったら連絡する様に頼んで、颯と2人で先に帰る事にした。



「体調は?」

「まぁ、何とか。大丈夫だと思うよ」

「今日、家に行って良い?」

「良いよ」

(陽ちゃんと一緒に帰るの、いつぶりかな?)

「今日は色々ありがとう。最近、寝不足だったから、自分でもびっくりしちゃったよ」

「俺も、見たら颯がぶっ倒れてるから、びっくりした。試験勉強頑張ってたの?」

「うん、それもあるし、他にも色々とね」

「加藤先輩、第2走者からアンカーに変えたって言ってた」

「え?そうなの?何でかな?」

「、、、あのさ、颯。2月に加藤先輩にチョコレートあげたの?」

バレンタインデーとは口が裂けても言いたくない、、、

「うん、あげたよ」

「何で?」

「何で?、、、お世話になったからかな?」

「お世話?」

「うん、色々買い物に付き合ってもらったんだ」

「そっか、、、」

そう言えば、俺達、いつも金曜日の夜ばかりで買い物とか行って無かったな。

「俺もデートしたい、、、」

「え?」

「加藤先輩とは、一緒に買い物行ったんでしょ?」

「うん、、、」

「俺はちゃんとデートしたい」

「そっか、、、」

「颯、後で相談しよう」

「わかった」

「じゃあ、飯食ったら行くわ」

「僕も準備して待ってる」



「今日は泊めて」

「ええ?どうしたの?」

「今まで、ちゃんと話して無かったから、今日はたくさん話そうと思って」

陽ちゃんは家でお風呂に入って来たらしく、サッサとパジャマに着替えた。

「か、母さんに一応話して来るね」

颯は慌ててリビングに行った。

しばらくして、水とお菓子を持って来て

「母さんが朝ごはん、何がいい?って」

と言うから、

「好き嫌いないから、何でも大丈夫」

と返事をした。颯はまたパタパタと出て行き、少し話しをして戻って来た。


「あのさ、、、」

颯はポテトチップスの袋と格闘していた。なかなか開かない、、、。俺は手を伸ばして袋を開けた。

「ありがとう。えっと、ごめんね、ジュース無くて。もし飲みたかったら、下の自販機に買いに行くけど、、、。あ、でも、何があったかな?オレンジジュースはあったはずだけど、、、」

颯は話しを聞くのが怖いのか、緊張しているのか、関係無い話しをしようとする。

「颯、今日さ、なんで田辺くんって言ったの?」

「えっと、、、僕達、学校であんまり親しくしてないでしょ?」

「うん」

「だから、陽ちゃんってみんなの前で呼ばない方が良いかなって、、、」

「、、、ごめん、それって俺の所為だよね」

「、、、」

「俺がいつも颯といたら、そんな遠慮しなかったでしょ?」

颯は、ちょっと困った顔をした。

「えっと、困らせたい訳じゃないんだ。陽ちゃんの気持ちも何となくわかるし、僕もどうしたらいいかわからなくて、、、」

「同じ高校になると思わなかったんだ」

もう、何から話したらいいのかわからないから、最初から順番に話そうと思った。

「颯の事、小学生の時から好きだった。中学の時もずっと。3年生で同じクラスになった時は、ズルしてでも修学旅行で同じ班になりたかった。卒業の時、高校は違うと思ったから、自分の気持ちだけ伝えようと思って、公園に呼び出した」

颯は、小さな音を立ててポテトチップスを食べ続ける。

「告白して、颯も好きだってわかって、嬉しくて舞い上がっちゃったんだ。そしたら、肝心の付き合ってって言うの忘れちゃって」

颯はポテトチップスを食べながら、ふふっと笑ってた。

「毎日連絡したかったけど、何て誘ったらいいかわからないし、颯の学校は春季講座があるかも知れないとか考えて、連絡出来なかった」

「僕もそうだったよ。すごく連絡したかったけど、恥ずかしくて「明日は絶対連絡しよう」って思ってたら、学校が始まっちゃった」

「入学式前に、颯に付き合いたいって言って無かった事に気がついたんだ。高校もわからないし、颯からも連絡が無かったから、もうダメかな?って思ってた。本当は頑張って連絡すれば良かったのに」

「僕も、連絡すれば良かった」

「入学式で「横山 颯くん」って呼ばれた時、聞き間違えかと思ったけど、返事の声が颯だったからびっくりしちゃって、、、。嬉しいのに、クラスが離れていたから会いに行けないし、どうしようか迷って家に行ったんだ」

「ゲーム、、、しに来た」

「うん、どうしたらいいかわからなくて、とりあえず颯の家に行って、、、。颯がいたからゲームしに行った事にした」

「そっか、、、」

「本当は、その時ちゃんと付き合ってって言おうと思ってたんだけど、颯も何も聞かないし、俺もどうやって言ったら良いかわからなくて、そのままズルズルしたんだ」

颯が水を一口飲む。

「学校でなかなか会わないから、急に颯に会うとどうやって声を掛けたらいいかわからなくなって、朝、たまに電車で会っても、友達見かけると友達の方に逃げちゃうし、自分でもイヤな事してるってわかってたんだけど、、、。本当はもっと一緒にいたかったし、話もたくさんしたかった。だから、颯の部活の無い、金曜日だけは絶対颯の家に行きたかった。何、話したら良いかいつも悩んでいたけど」

「それで、いつもゲームしたり、漫画読んでたの?」

「学校の話、クラスが違うから颯のわからない話しになっちゃうなって思うと何話したら良いかわからなかった、、、」

「なんでも良かったのに、陽ちゃん全然話ししないから、、、。最初は来てくれるの嬉しかったのに、段々、陽ちゃんがどうして金曜日になると来るのか、わからなくなって、、、。金曜日に会う事に意味があるのかな?って悩んでたんだ」

「ごめん」

「陽ちゃん、僕、これからどうしたら良い?」

「ん?」

「同じクラスになっちゃったでしょ?」

「うん」

「今までみたいに、ちょっと距離置いた方が良いかな?」

「イヤだ」

「でも、村瀬くんとかびっくりしない?」

「しても良いよ」

「友達でしょ?」

「颯の方が大事」

「村瀬は、颯が幼馴染だって知ってる」

(あの時教えたのかな、、、)

「村瀬が、いつも横山が後ろからついて来るから、雛鳥が親鳥を追いかけるみたいでウケるって笑ってた。颯、俺に刷り込みされちゃったの?」

(そんな話し出たんだ。僕はてっきり嫌われてるのかと思った、、、)

「でも、最近、教室でも離れてるよね、、、。颯、他に好きな人出来た?、、、加藤先輩とか、カッコいいと思う?」

「加藤先輩はカッコいいよ。僕、加藤先輩に憧れて弓道部に入ったんだもん」

「マジか、、、。今日の部活対抗リレー、加藤先輩に負けて悔しかった」

「陽ちゃん、カッコよかったよ。周りの女子もキャアキャア言ってた」

「周りの女子は関係無いでしょ?俺は颯にカッコいいって言われれば良いんだ」

颯は、ちょっと恥ずかしくなったのか、自分のほっぺたをムニムニ弄った。

「そう言えば、加藤先輩、どうしてアンカーに変わったんだろう」

「俺にチョコレート貰ったか聞いて来た」

「えっ?」

「加藤先輩はチョコレート美味しかったって」

「、、、」

「俺も欲しかった、、、」

颯は、しばらく考えてテーブルを前に押し出す。俺達は颯のベッドを背もたれにして、床に座っていた。颯は黙って立ち上がり、机の引き出しを開けた。

「買ってあったんだ、、、」

見た事のある、白い小さな紙袋。金の筆記体で文字が書いてある。

「バレンタインデーに陽ちゃんと会ったでしょ?」

「うん。その紙袋持ってた、、、。え?マジか?」

「うん、本当は僕が買ったの、陽ちゃんに渡せなかったけど、、、」

あの日、颯が珍しく駅で声を掛けて来た。2月14日の夕方は寒かった。流石に雪は降らなかったけど、冷たい雨だった。

「陽ちゃんに、「颯もチョコレート貰ったの?」って聞かれて、つい「うん」って答えちゃったんだ」

「俺のだったの?」

「うん」

「ごめん、俺、、、」

「陽ちゃんに女の子から貰ったチョコレート、一緒に食べようって言われて、もっと渡せなくなっちゃって、、、。僕のあげたチョコレート、村瀬くんと食べたらイヤだなって、、、」

颯は俺の横で膝を抱えていた。

「渡せなくて、ごめんね」

小さく笑った。はあぁぁ〜とため息が出た。

「俺、本当にダメだな、、、」

「ううん、僕がちゃんと言えば良かったんだ」

颯がちょっと俺に寄り掛かって来た。いつもの金曜日は、颯がベッドの上にいて、俺はいつもこの場所だった。今日は2人で並んで床に座っている。肩がちょっと当たるだけで嬉しくなる。

「チョコレート貰ってもいいの?」

「もちろん、あ、賞味期限大丈夫かな?」

俺は賞味期限を確認しようとチョコレートを取り出した。底に一枚、メッセージカードが入っている。

「あ!待って!」

颯が紙袋を取り返そうと手を伸ばすから、反対側に身体を捻り取られない様に隠した。

「待って待って!」

と言いながら、俺とテーブルの間に入り紙袋を取ろうとする。肩が当たっただけで嬉しかったんだから、こんなジャレ合い最高でしょ?

「わかった、わかった」

俺はニヤニヤが止まらない。

「ね、何の為にカード書いたの?」

「、、、陽ちゃんに読んで貰いたいから、、、」

「それなのに、俺が読んじゃダメなの?」

颯が困ってる。可愛い。

「だって!直接言えないからカードにしたのに、今読まれたら恥ずかしいでしょ?」

ちょっと、上目遣いで睨んで来る。そんな顔しても可愛いだけなのに、、、。

「読まれたく無いの?」

「読んで欲しいけど、今は、イヤ」

「今、読みたい」

俺は颯の手を引いてベッドに上がる。俺が壁際に寄り掛かかると、颯は俺の前にちょこんと座る。本当に恥ずかしいらしくて、顔は赤いしちょっと涙目になってる。

「もっと来て?」

颯は更に赤くなり、俺の脚と脚の間に入って来た。

「うぅ〜、、、。これでいいの?」

不満そうな顔。

「おいで」

と言って、颯を抱きしめる。

「本当に今、読むの?」

颯が素直だと、俺まで素直になれるみたいだ。

颯の体温が気持ち良い。

「読むよ、、、。読みたい」

颯が、俺の胸に顔を押し付けて、パジャマをギュッと握る。俺は一度、颯を抱きしめる。

 紙袋からカードを取り出し、封筒から抜く。小さな音と気配で、颯は緊張している。


陽ちゃん、大好きです。

付き合って下さい。  颯


「読んだ?」

「読んだよ」

「付き合ってくれる?」

「当たり前だよ。2人でデートしよ」

颯が背中に腕を回してくれた。

「ありがとう、大好き」

ハッピーエンドに出来てホッとしています。

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