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第50話「リュミエル、田舎村の祈りを聞く①」
「レン。私、ちょっと旅に出るわ」
いつもの冷蔵庫の前で突然そう言ったリュミエルに、レンは思わずレジを打つ手を止めた。
「……え、なんで急に?」
「神殿から依頼が来たの。どうやら、“天の光”が村に降りなくなったとかで、儀式がうまくいかないらしいの」
「あー……なんか聖女っぽい」
「元ね。だからこそ、最後にもう一度、神のために祈ってくるわ」
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向かった先は、小さな山間の村。
草の香りと虫の声、そしてどこか寂しげな雰囲気。
村人たちは困っていた。
「今年は光が射さなんのじゃ……祭壇が沈黙しとる」
「リュミエル様……ほんとに来てくれたんじゃな」
小さな女の子が、すがるように手を握ってくる。
「ねえ、天の光って、ほんとうに戻ってくるの……?」
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夜、彼女は静かに村の祭壇に立ち、
手を合わせて、何年かぶりに──祈った。
「どうか……この小さな村に、希望を」
でも、空は雲に覆われ、何も起きない。
それでもリュミエルは、そこでひとり、朝まで祈り続けた。