第43話「冷蔵庫の奥で」
夜明け堂・深夜。
レンは冷蔵庫の在庫整理中。
冷凍シュウマイを奥から取り出そうとして、ふと気づいた。
「……おーい、ユノ。いつまで寝てるんだよ。商品に霜ついてきてる」
冷気の奥からひょっこり顔を出したのは、冷気の精霊ユノ。
白銀の髪、淡い光をまとった彼女は、相変わらず無表情。
「……何時だと思ってるのよ。こっちは“夜”の時間なの」
「いや、コンビニは24時間営業だし、夜勤は俺の仕事だし」
「……知ってる。でも、うるさいと眠れないの」
「ごめんごめん、静かにするって」
ユノは冷蔵庫の棚にちょこんと座り、じっとレンを見つめる。
「……今日、魔法学園の女子たちが言ってた。あなたのこと、“優しい”って」
「そうなの?」
「“そうなの?”って……」
冷蔵庫の中で、ユノの声が一瞬だけ小さくなる。
「……“優しい男子はモテる”らしいわよ」
「へえ」
レンはポカンとしたまま、何も深く考えずにシュウマイを並べ続ける。
ユノは目を細め、ほんのり吐息のような冷気を漏らした。
「……そういうの、興味ないの?」
「え? 何に?」
「……いいわ、別に。聞いた私がバカだった」
そのままひゅるりと冷蔵庫の奥に引っ込んでいく。
「……あ、ユノ。冷気、もう少し抑えてくれると助かる」
「……検討するわ」
⸻
扉が閉まり、静寂が戻る。
「……なんだったんだろう、今の会話」
レンは肩をすくめ、霜のついた手をこすり合わせながら、いつものように業務に戻った。
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冷蔵庫の奥。
ユノは、ひんやりした毛布に包まりながら、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「……やっぱり、鈍感」
◇◇◇◇
翌日。
ラティナがぽつりとつぶやいた。
「ユノって、レンのことだけちょっと冷気が弱い気がするのよね……」
グレンはカップ麺をすすりながら呟いた。
「……まさかな」