第37話「静かなる騎士と、炭酸の誘惑」
夜明け堂に、一人の騎士が現れた。
全身黒銀の甲冑に身を包み、顔もヘルムで覆われたその姿は、異世界のどの戦士よりも重厚。
だが、その存在感に反して――彼は、何も言わない。
「……いらっしゃいませ?」
レンの声にも無反応。
そのまま、ゆっくりと店内を歩き、向かったのは――ドリンク棚。
まさかまさか……飲み物、買いに来ただけ?
騎士は無言のまま、炭酸飲料の缶をひとつ手に取り、じっと見つめた。
次にジュース、次にスポーツドリンク、次に水。
「……悩んでる!?」
レンが小声でツッコむ中、騎士は結局炭酸飲料を12本カゴに入れた。
「思いっきりまとめ買いするじゃん……」
レジに向かってくる騎士。
カツン、カツンと金属音が店内に響く。
緊張しながらも会計を済ませたレンに、騎士は無言でうなずくと、
背中のマントにドリンクを包んで背負い、ゆっくりと店を出ていった。
ドアが閉まり、静寂が戻る――と思いきや。
その騎士が、ドアの前でくるりと振り返る。
「……この炭酸、よく冷えていた」
くぐもった声でそう呟き、また一歩、また一歩と遠ざかっていく。
レンとスラは顔を見合わせた。
「……めっちゃ普通の感想だったな」
「ぷる…………ぷる」(訳:かっこいい)