第4話『元勇者、冷凍シューマイに敗北す』
「はぁ……今日も売れなかったな」
レンが店内で在庫の整理をしていると、ドアがギィィ……と静かに開いた。
現れたのは、フードを深く被った長身の男。
鋭い目つきに、肩からかけたボロボロの剣――でも足元はサンダル。
絶妙にダサい。
「……いらっしゃいませ?」
「……冷凍シューマイ、まだあるか?」
「あ、はい。そこに――」
男は無言でそれを取り、レンの前に置くと、財布の中身を確認し――
「……3リル足りん」
「いや、こっち見てもまけませんよ?」
「そこをなんとか」
「冷凍シューマイで情け攻撃してくるのやめてもらっていいすか!?」
男の名はグレン・グランス。
かつて“伝説の勇者”と呼ばれた男。
しかし今は――
「……パーティに捨てられた。魔王を倒して平和になったら、“お前の役目は終わった”と」
「うわ……中間管理職みたいな扱いされたな」
彼は誰にも頼られず、誰からも感謝されず、ただ一人コンビニに来た。
「……この冷凍シューマイだけは、俺のことを裏切らない……」
「だから泣くなって、こっちが凍るわ」
それからグレンは、毎日やってきては同じシューマイを買っていく。
戦士なのに武器より保冷バッグの方が重そうだった。
「……あの、勇者さん。うち、電子レンジもあるんですけど」
「……食べるのは、家で。ちゃんと……一人でやるって、決めたから」
ひとりで背負うのが、彼の“勇者らしさ”なんだと、レンは思った。
ちなみにグレンが持ってるポイントカード、
**「冷凍食品限定スタンプカード(非公式)」**だった。
「それ作ったのお前だろラティナ!!!」
「正義とは、自由! サービスとは、愛!」