第3話『魔王の娘、ポイントカードに本気』
「ポイントカードはお持ちですか?」
「もちろんだッ!!!」
バァン!! とカウンターにたたきつけられたのは――真っ赤な革製の手帳。
それに貼られているのは、まるで魔方陣のように並べられた夜明け堂のスタンプ。
「え、もう10個たまってる……!? 昨日来たばっかでしょ!?」
彼女の名はラティナ=ノクト=バロル。
異世界の魔王の一人娘。
種族:サキュバス寄りの魔族。見た目は中学三年くらい、無邪気でいたずら好き。
でも――
めっっっちゃポイントカードにうるさい。
「これは運命なのだ。あと90個ためれば、景品の“夜明け堂オリジナルトートバッグ”がもらえるのだろう?」
「いや、そこまで本気なのラティナだけだからね!? あれ、適当に始めたノリ企画だからね!?」
「わたし、こういうの、初めてなんだ……誰かと、何かを“ためていく”の」
「……ちょっと切ないセリフ混ぜてくるのズルいな!?」
ラティナは、毎回必ず店に来ては買う。
・メロンパン
・スナック菓子
・チョコアイス(親にバレないよう魔法で冷凍保存)
・そして、スタンプ
「じゃあ今日のスタンプな。……って、また2回分? 何食べたの?」
「買った。焼きそばパン10個と、謎の飲み物『ブルーハワイコーラ』。これがまた……ッ!」
「いや食べすぎじゃない!? 胃袋どうなってんの!?」
そんなラティナとの日々のやり取りの中で、レンは少しずつ気づき始めていた。
この店に集まるお客たちは、
――皆、ちょっとずつ“何か”が壊れていて、だけど“何か”を求めて来ている。
食べ物? 癒やし? 暖かさ? それとも……、居場所?
ラティナが帰り際、スタンプカードを両手で大事そうに抱えて言った。
「……あのな、レン。この世界の人間、魔族、精霊、みんな敵とか味方とか言うけど……」
「うん?」
「パンの前じゃ、みんな平等だな」
「なんだその名言」
その日、「夜明け堂」のレジ横に設置されたガチャガチャ(景品未定)が、またひとつまわされた。
ラティナのガチャの中から出てきたのは――謎のアイテム《つまようじ(きらきらver)》だった。
「なにこれ、使い道あるの……?」
「ない」