第2話『元聖女、焼きそばパンで浄化される』
「――そこのお店、開いてますか?」
扉の前に立っていたのは、白いフードを目深にかぶった女性だった。声には気だるさと、どこか“やさぐれ感”が混じっている。
「一応24時間営業なんで、どうぞ」
レンは笑顔で手招きした。だが入ってきた女の足取りは、どこか異様に重い。
「……あんた、死にかけてます?」
「……ちょっと生きるのに疲れただけよ」
フードの中から現れた顔は――すごかった。ものすごく美人。でも目の下にクマ、髪ボサボサ、どこかで見たことある制服のような聖衣は血と泥で汚れていた。
「えーっと……もしかして、あなた……」
「元・聖女、です。はい。浄化と祈りと、裏切りの人生でした」
サラッと重いこと言ってくる。
「……とりあえず焼きそばパン食べます?」
「なに、それ?」
「まぁ、食べてみなって」
レンはホットスナックケースからあったかい焼きそばパンを取り出し、そっと手渡す。女はそれをじっと見つめ、そして――
「……なんで、こんな……う、ま……いっ……のに……ッ!!」
――涙、出た。
「えっ、泣く!? 焼きそばパンで泣く!? 魔法少女が変身解除するくらいの勢いで泣いてるんだけど!?」
「……私、最後の祈りのあと、仲間に裏切られて……王国から追放されて……でも……このパン、あったかくて……もちもちで……」
聖女、号泣。
「浄化って……こういうことだったのね……」
「ちがう。パンです、それ。パンの力です」
それから彼女は、毎晩コンビニに現れた。
焼きそばパン、メロンパン、おでん。日によって変わる“癒やし”を求めて。
「……ところで名前、聞いていい?」
「リュミエル。元・聖女にして、今は……ただの“焼きそばパン信者”よ」
「いや、その肩書き、どうなん?」
こうして、異世界コンビニ「夜明け堂」は、常連客を迎えることになった。
ちなみにこの夜――リュミエルの後ろで、そっとパン棚を覗いていた金髪の少女。
後に“魔王の娘”と判明し、さらにコンビニがカオスになるとは、このときのレンはまだ知らない――