第1話『異世界でコンビニ始めました』
「一ノ瀬くん、異世界に転勤できる?」
深夜二時、突然そんなことを言われた。
言ったのは、うちの店長――三浦店長。
白髪まじりのオールバックに、無駄に渋い声。年齢不詳で、どこか胡散臭いけど妙に説得力がある人だ。
店長ってより、忍び隠れの隠居武将って感じ。
「……それ、冗談ですよね?」
「冗談だったら、わざわざ棚の補充しながら言わないよ」
「えーと、なんか遠征販売とか……?」
「異世界勤務、半年だけ。お試し転勤。店長バイトってことで。帰ってきたら、現実じゃ12時間しか経ってない」
「は……?」
「時給は2000円、夜間3000円、寮あり、食事補助あり」
「…………行きます」
お金と時間に弱い俺は、気づいたら前のめりになってた。
「ちなみに、俺さ、20年前に異世界に召喚されてね。帰る前に一軒、コンビニを造っておいたんだ」
「店長が……? 異世界に?」
「そう。でも最近、行くのがめんどくさくなっちゃてね」
そんな理由かよと、俺は思ったが、三浦店長は続けて話す、、
「文明格差は商機だよ。いい勉強になる」
その目に浮かぶのは、経営者のそれだった。
「ま、1ヶ月だけだから。困ったら迎えに行く」
「……え、ちゃんと帰れるんです?」
「俺を誰だと思ってる」
あまりにも頼もしくて、逆に不安になる。
◇◇◇◇◇
翌日
レジ奥のストックルーム。
店長が「じゃ、行ってらっしゃい」と軽く手をかざした瞬間、
空間がねじれ、光が爆ぜた。
視界が白に染まって、身体が浮かぶ感覚――
俺は確かに、“どこか”へ連れていかれた。
⸻
目を開けた瞬間、空の色が違った。
そこはファンタジー世界みたいな景色。だけど、目の前に立っていたのは――
見慣れたガラスのドア。明るい照明。いつもの看板。
《夜明け堂・異世界支店》
「……ほんとに来ちまった……」
でも、意外と悪くないかもしれない。
店長によると、この異世界支店は最近休業していたらしく、掃除と品出しから始めてくれのこと
「よし、いっちょやりますか」
こうして、俺「一ノ瀬蓮」は開店準備のため、異世界初日は掃除と品出しに追われ、やっと開店した時には空は暗くなっていた。
「元々、俺、夜勤シフトだったし、ちょうどいいや」
ひとりでつぶやくレン。
そんなレンに、異世界で最初のお客が近ずいているのだった。異世界コンビニのはじまり(開店)です。