第90話 夢
夢を、見た。
目の前にいるのは、 蛍光ピンク色の長い髪の女。
白いドレスを着ているそいつが、目の前でトウモロコシにかぶりついていた。
ぽろぽろと粒をドレスにこぼしている、食い方が汚いなあ。
背中には、こぢんまりとした翼が生えている。
女神テネスだ。
「あら。久しぶりね、コバヤシトモキ。ってほどでもないかしら。まだ数か月ですものね」
「いいけど、またトウモロコシかよ……太るぞ」
「言わないで。そのうちダイエットするから、そのうち」
丸のままゆでたトウモロコシをしゃくしゃくと食べているテネス。
手なんかべたべたじゃねえか。
そこで、俺はふとあることに気づいた。
「雲に乗ってる……。翼があるのに」
「あんただって足があるのに馬車に乗るでしょうよ」
「……まあな」
なんだ、雲に乗っているのも正解じゃないか。
「で、どう? この世界は。案外楽しくやってるようだけど」
「楽しく……そうだな、どうだろう。前の人生よりは全然ましだけどな。救世主だなんて持ち上げられてさ」
「そうね、あんたはよくやってくれたわ。叔父さんなんか、勇者を殺されて顔を真っ赤にして悔しがってたしね。っていうか、私、女の子をドンドン攻略して落としていけるようにステータスを見えるようにしたげたのに、あんたって戦いにしか使わないんだから……」
「え、そういう趣旨の能力だったんかこれ」
「そうそう。女の子の好感度が見えたら攻略難易度がさがるでしょ? でも一度やった女につきまとわれるのも面倒じゃない? だから好感度も吸い取れるようにして自由自在に捨てられるようにしといたの」
「まて、女のあんたがそんなことしていいのか」
「まあ男に都合がよすぎるなーとは思ったけど、私のミスであんたを殺しちゃったし、おわびとしてしょうがないかーて思ってさ。そしたらあんたったら……。ハーレム作るのかなーって思ってたら、案外一人の女の子に執着しちゃってさ」
「そうだ。ココは? ココはどうなった?」
好感度がENPを飛び越えてN/Aになっていた。
テネスは、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「ふふーん。私ね、思ったの。やっぱり恋愛ってさー。相手の心がわからないからキュンキュンしちゃうわけじゃん? 好感度が見えるって、つまんないわよねー」
「いやだからココは……?」
「だからね、これからは好感度が見えないようにしたげる。愛の確信って、そういうものじゃないものね」
「へ?」
「だからね、これからは、一から女の子攻略、頑張ってね! あんたは救世主なんだから、女の子攻略のための下駄ははいてるんだから、ちゃんと頑張りなさいよー!」
そう言って、テネスはトウモロコシを手に持ったまま、雲に乗って向こうへと飛び去って行った。




