第87話 最終決戦③
「ふはははは! 貴様ら馬鹿どもが潰しあうのはいい眺めだったぞ! さあ、救世主よ! 先日の意趣返しをさせてもらうぞ!」
身長2メートルに及ぼうかというひげ面の大男。
並みの人間では持ち上げることも難しそうな大剣を手に持ち、俺たちを余裕の笑みでねめつけている。
そのステータス。
ガルアド
身体能力 S
教養 S
戦闘能力 SSSSSS
魔力 A
好感度 K
くそ、なんて戦闘能力だ。
こいつがこれだけの戦闘能力を持つということは……。
俺はガルアドに言った。
「何人の奴隷を殺してきた?」
「ふはははは! 奴隷? 10匹ほど殺してきてやったわ! いちいち数える価値もないやつらだ! それだけではないぞ!」
遅れて、空からブレイブドラゴンがテラスに降り立った。
そのドラゴンは、口にバカでかい袋のようなものをくわえている。
「メールエのやつには不覚をとったが……。おかげで俺も学んだぞ! 戦闘の最中でもマナを取り込めるようにな! 見ろ!」
ガルアドが袋を剣で切り裂く。
中からまろびでてきたのは――。
子供だった。
まだ、5歳くらいの男女の、子供たち。
全員裸で、後ろ手に縛られている。
その胸には奴隷の刻印。
それが、……十人も。
全員目隠しされていて、ぐったりしている。
「な……ガルアド、お前!」
「ふははは! ガキの方が軽いから、たくさん運べるというものよ! これだけいれば、我が力が尽きることもそうそうないだろう……」
ガルアドは、子供たちのうち、一人の女の子の髪の毛をひっつかむと持ち上げる。
じたばたと暴れる女の子、ガルアドはニヤリと笑った。
「な……やめろ!」
俺には叫ぶことくらいしかできない、なにしろここにいる全員の魔力はENPだ。
そんなことしなくても俺にはもうガルアドに対抗する力などない。
だが、ガルアドはそんなことは知らないのだ。
「ふはははははは! 哀れで無力なガキよ! 世界平和と繁栄のための、礎になれい!」
そして、ガルアドはその大剣で、女の子の首を切り取った。
ブシュッ! と血が噴き出て、返り血がガルアドの顔にかかる。
首を失った女の子の身体はくたっと床に崩れ落ちた。
ガルアドの持つ小さな首から、ポタポタと血がしたたり落ちている。
「なんてことを! このクソ野郎がぁぁぁぁぁぁ!」
「世界平和のためならこんな命ひとつ、犠牲のうちにも入らぬわ! ふははは!」
ガルアドは生首をぽいと投げ捨てる。
女の子の首はゴロゴロと床を転がった。
ペロリと返り血をなめるガルアド。
ビゴン!
音が鳴って、ガルアドのステータスが変化する。
ガルアド
身体能力 S
教養 S
戦闘能力 SSSSSS⇒SSSSSSS
魔力 A
好感度 K
くそ、こいつ!
子供を!
女の子を!
あっさり殺しやがった!
くそ!
頭に血が上りすぎて、俺はくらっとするほどの怒りに全身を支配される。
目の血管が切れでもしたのか、視界が真っ赤になった。
「くっ、はぁ、はぁ……」
脳内に怒りが満ち、アドレナリンが充満して息をするのも苦しい。
「ふはははは! さあ、あの時の再戦と行こうではないか、救世主よ! 俺はお前を殺し、そのマナを取り込む! そうしたら――」
ガルアドはリリアーナを指さす。
「女王よ。お前は我が妻になり、次期国王を産むのだ。俺が国父となり、この国を平和に導いて見せる!」
リリアーナが目を見開いて絶叫する。
「子供の命を奪ってなにが平和だ! この痴れ者が!」
「ふははは! 気の強い女は好きだぞ! 屈服させがいがあるからな! 抗え、抗え! 怒りに燃える女を犯すのもおもしろい!」
シュリアとアリアがリリアーナを守るように前にでる。
シュリアはガルアドを睨みつけているが、怯えの表情を隠しきれず、真っ青になっている。
アリアも、全身を恐怖でカタカタと震わせているが、その目はしっかりとガルアドを睨んでいた。
メールエはまだ床に横たわっている。
ニッキーは意識を取り戻したが、まだ床に膝をついたままだ。
ココは……。
ずっと俺の腕に抱き着くようにしている。
「ふはははは! さあ、救世主よ、世界平和のために、我が贄となれい!」
ガルアドが大剣を両手で握り、凄みのある笑みを浮かべて、俺に斬りかかってきた。




