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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第78話 演説

 同じころ、王都、王城の正門前。

 そこからはまだ宮殿から立ち上る黒い煙が見えていた。

 王都の中から野次馬たちが集まってきて、思い思いの噂話をしていた。


「おい、女王陛下が殺されたってよ」

「勇者ガルアドが襲ってきたって?」

「女王陛下が亡くなったってことは……どうなるんだ?」

「決まってんだろ、ほら、シャイアとかいう貴族の孫が王位に就くんじゃないのか」

「じゃあこの騒動もシャイアの差し金か」

「まあ俺ら庶民は誰が王様になっても関係ねえけどよお」

「しかし、女王陛下ってまだ13歳だったよな? それを殺すなんて」

「上のやつらの考えそうなことさ。邪魔者はこどもでも殺すんだ」

「魔王軍との戦争も終わってないのにこんなことしていていいのか?」


 その正門の裏には、まだ傷が癒えてないメールエがいた。

 着ているものはぼろぼろで、その生地はメールエ自身のどす黒く固まった血で汚れている。


「あの……大丈夫ですか、メールエ殿?」


 傍らの近衛兵が聞く。


「まったく……片目と内臓をやられてしまいました……。応急処置の魔法で一応の治癒はしましたが、まだ痛いですよ」

「まだ休んでいた方がよいのでは?」

「そんな暇はありません。国民に女王陛下が健在なことを広く知らしめる、それが今一番必要なことです」


 そう言って、メールエは両手を大きく掲げ、両手で複雑な印を結ぶ。


「女神テネス様。月は遠くにあれども我らに光をくださる。稲妻は遠くにあれどもその音を響かせる。その力を貸し与えたまえ。遠きにある我が主君、我が盟友の姿を見せたもう。遠きにある我が主君、我が盟友の声を聞かせたもう。テネスティアの名によって我が魔力を具現化させたまえ!」 


 そして、魔法を発動させた。


映像具現ファンタズマゴリア!!」


 その瞬間、野次馬の群衆たちの前に、巨大な画像が出現した。


「おお!? いったいなんだ? 空中に額縁が!?」

「魔法か? ん? 誰かが映っているぞ」

「あれ、女王陛下じゃないか!?」


 そう、城塞都市イマルでいままさに行われようとしている女王リリアーナの演説を、メールエの魔法によって生中継しようとしているのだ。


 画面の中のリリアーナは、満面の笑みを浮かべている。


『うひゃひゃ! 臣民のみなさん、元気ですかー? 私は元気です! うひゃひゃ! 私はリリアーナ・オーレリア・テネスティア、この国の君主だよ! 今日は11月7日、私はイマルにいる。こっちは天気がいいよ。王都も天気がいいって聞いた。さて、私は……ええとなんだっけ』


 リリアーナは手元のカンペをちらりと見る。


『そうそう、私は暗殺の危険を感じ、身代わりを置いてこっちに来てたんだよ。そしたら案の定! 勇者ガルアドが国家に反逆し、私の命を狙って宮殿を襲ってきた! 撃退したし、私はイマルにいたから無事だよ!』


 群衆がどよめく。


「女王陛下は無事だったのか!」

「つまり、クーデター失敗ってことか?」


 リリアーナはさらに続ける。


『ここで私は宣言する。先だって認定したガルアドの勇者の称号をはく奪する! 同時に、ガルアドを私に差し向けた貴族がいる! そいつは国家への反逆者だ。我が王国軍の総力をあげてそいつを処分するよ! 臣民のみなさんにも、国家平和のため、協力してほしい。反逆者を滅し、国家をふたたび一つにまとめあげ、魔王軍と対峙する! 国家臣民の力を底上げするために、臣民のみなさんには、今年一年間、奴隷売買税をはじめとした国税を半額にすることを約束しよう! そして協力してくれた貴族や領主にはもちろんそれ相応の知行を与えるよ! 与える土地はたくさんあるからね! ……これから、反逆者シャイアとその一派にお仕置きして土地をとりあげるから!』


 群衆が口々に言う。


「やはり反逆者はシャイアか……」

「しかし、女王陛下には手持ちの軍がいないんじゃないか?」

「近衛兵くらいだぞ。あとはだいたいシャイアの息がかかってる」

「いや、東の貴族は女王派が多い」

「ってことは国を二分しての内乱か……俺たちも王都から逃げた方がいいかもな」

「軍事力で言えばシャイアの方が上だろ。これ、結局女王が負けるんじゃないか?」

「勇者ガルアドもいるしな……」


 そこで、リリアーナはいったん画面から消える。

 ほどなくして、一人の男性の袖をひっぱって再び画面に現れた。


『うひゃひゃひゃ! 我が国はみんなも知っている通り、女神テネスさまの祝福のもとにある! 私自身、テネス様の子孫である! そして、この国難を予想して、テネス様は聖典にある通り、救世主を遣わしてくれた! それが、この方、トモキ・コバヤシである! みんなも噂は知っているよね?』


 国中に伝書ハルトによる通信網が整備されており、全国で売られている新聞によって救世主の誕生、そしてその救世主が勇者と闘って勝ったことは国民で知らぬものはいないという状態だった。


「確かに……。見たことない人種だな」

「まだ若いが……」

「あれが噂の救世主か……」


 

『うひゃひゃ! 私はこの国の元首として、このトモキ・コバヤシを正式に救世主として認定する! 彼はありとあらゆる奇跡を実現するまさに神の御使(みつか)いである! 彼が私とともにあるということは、女神テネス様が私に味方してくださっているということだ! 臣民のみなさんは安心して私が反逆者をシバくのを見ていてくれよな!」


 女王が健在であること、そしてその女王が救世主を伴って反逆者を討伐する、との情報は瞬く間に王国全土へと知れ渡ることになった。


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