第75話 裸の抱擁
休憩用の部屋として教会が個室を用意してくれた。
ダブルベッドのある部屋。
隣にはなぜかココがいて。
ダブルベッド、個室、ご休憩……。
そして女の子……。
「どういうことだよ!」
おもわず一人で突っ込んでしまった。
「あら! シャワー室までついてますわ! しかも温水シャワー! 高価な魔石がいるのに! 至れり尽くせりですわね、うふふ! トモキさん、ご厚意に甘えて休憩いたしましょう、……一緒に。うふふ」
「まじでどういうことだよ!」
また突っ込んでしまった。
さすがは産めよ増やせよの教義を持つテネス派の教会だな……。
いちおう愛を誓い合った相手としか『いたして』はいけないらしいが……。
「ではトモキさん、お先にシャワーをどうぞ」
俺はココに無理やりシャワー室に押し込まれた。
まあしょうがない、せっかくだからきちんと体を洗うとするか。
ええと、大事な息子もよく洗っといたほうが……いいよな?
俺がシャワー室からでてくると。
ココは実際疲れ切っていたのだろう、ベッドの上で寝息を立てていた。
「ま、寝かせといてやるか」
ココに毛布をそっとかけてやる。
長い金色の髪がシーツの上になだらかな曲線の模様を描いていた。
かわいい顔してるよなあ。
そのリラックスしきった寝顔を眺めていたら、俺も眠気がやってきた。
俺もココの隣に横になり、ココの寝息を聞いていたら、そのまま眠り込んでしまった。
★
ふっと目が覚めると、ココが俺にくっついていた。
俺の胸のあたりに顔をうずめ、くーくーと気持ちよさそうに眠っている。
あったかくて柔らかい。
なんだか、石鹸のいい匂いもする。
よく見てみると、え、これなんだ、毛布をかぶっているからわからなかったけど、ココの奴、裸だぞ……?
どうやら、俺が寝ていたあいだに置きだしてシャワーを浴びたっぽいな。
と、その時、ココがパッと目を覚ました。
俺と目が合うと、
「ふふふー」
と笑って俺の首筋に顔を突っ込んでくる。
そしてクンクンと鼻を鳴らすと、
「トモキさん、いい匂いがしますわ……」
「多分同じ石鹸の匂いだぞ……」
「いえ、トモキさんの匂いがしますわ」
言っとくが、俺もシャワー上がりでバスタオル一枚腰に巻いていただけだ。
寝ている間にそれもいつのまにか外れちゃってる。
つまり、今俺たちは一枚の毛布の下で、素っ裸でくっつきあってる。
ココの肌の柔らかさと温かさが心地よすぎて、俺の脳みそがとろけそうになってしまってるぞ。
俺はココの背中に手をまわして、ゆっくりとなでてやった。
感動するほどすべすべの肌だ。
「くふふ。トモキさん、もっと……もっと撫でてください……」
ココは猫みたいに目をつむると、俺のなすがままにされてる。
そしてポツリと言った。
「トモキさん、私、ライラネック家の令嬢じゃ、なかったみたいですわ……」
「いや、女王陛下が認めたんだ、お前はライラネック家の令嬢だぞ」
「はい……。トモキさんと出会ってから、いろんなことがありましたけど……生きているのがどんどん楽しくなってくるの……それまでは、ほんとはいつ死んでもいいって思ってたのに……。このまま、奴隷として一生を終えるんだろうかと思って、そう思ったら、あの部屋のあの絵の前でいつも泣いてしまってましたわ。……これ、見てください」
ココは俺から少し身体を離す。
そして、胸に彫られた奴隷の刻印を俺に見せた。




