第71話 戦闘
女王の姿をしたメールエは言った。
「こんな宮殿にいたら、女王陛下の命はいくつあっても足りません。そこで、容姿を入れ替えたうえで、より安全なところに避難させたのです。そして女王陛下の顔をした私が、女王陛下の生命を狙うクズを殺すためにここで待ち構えていたのです。毒やら毒ガスやらモンスターやら……いろいろありましたが、そんなもの私の魔法の前ではなんの意味もない。もっと大物がこないかと思っていたんですがね。勇者ガルアド。あなたはその第一候補でしたが、やはり来ましたね」
「ははは。騙されたのは認めるが、この俺を殺すだと? この勇者ガルアドを?」
「私のことを嫌っているじじい……シャイアですら、私のことをこう言っていましたよ。『有史以来の天才』と。あなた一人、始末するのはたやすいものです」
「ははははは! 面白いことを言う! お前の首をとり、その頭蓋骨で酒を飲んでやるわ!」
金髪ショートカットの小柄な女性と、身長2メートルを超える大男が対峙する。
メールエが少し杖を振ると、彼女の小さな身体はふわりと宙に浮いた。
視線の高さが合う。
しばらくにらみ合ったあと。
最初に動いたのは、ガルアドだった。
「ぬおおおおおおおお!」
常人では扱えぬほど巨大な大剣を振りかぶり、メールエへと突っ込んでいく。
大広間全体の空気が震えた。
今までありとあらゆる人間やモンスターを真っ二つにしてきた斬撃がメールエを襲う。
しかし、メールエがぽつりとつぶやく。
「迅雷の盾」
その瞬間、メールエの目の前に、稲妻で『編まれ』た壁が出現した。
耳をつんざくような音をたてて、ガルアドの剣をその壁が阻む。
「むううううん!」
ガルアドは二の太刀でもう一度その壁に大剣を叩きつける。
ゴワッ! という音をたてて、壁が崩れ落ちた。
メールエに向けて剣を振るうガルアド。
だが、それより早く、メールエは魔法を発動させた。
「女神の一撃」
杖の魔石から青く光る光線がバシュッ! とガルアドに向けて発射される。
「ぬおっ!」
剣でそれを防ぐガルアド。
攻撃は防いだが、軽く数メートルはふっとばされ、なんとか着地する。
「うおおおおお! 小娘がぁぁっ!」
地を蹴ってガルアドは再びメールエに向かう、とみせかけてフェイント、横っ飛びに飛ぶ。
ガルアドのいた地点に、またもや発射された光線が着弾した。それは高価な絨毯の下の石材ごと破壊し、焼けこげた大きな穴が開く。
「行くぞぉぉぉ!」
強靭な筋力でばねのように飛び上がったガルアドは、空中で角度を変え、一直線にメールエに向かってとびかかる。
「迅雷の盾」
ふたたび雷で編まれた壁が出現するが、
「そんなもんで俺の攻撃が防げるかぁ!」
今度はその壁をものともせずに突破し、ガルアドの剣先がメールエの首先に届こうとしたとき――。
シュパッ!
軽い音とともに、宙に浮いていたメールエの身体が物理法則に反したような動きで瞬時に平行移動する。
「逃がすか!」
さらに空中で向きを変えるガルアド、
「女神の稲妻」
メールエの杖から青白い雷が放出され、ガルアドの身体に直撃する。
「こんなもの!」
全身に電流を走らせながら、なおもガルアドは剣を止めない。
ついにガルアドの剣がメールエの頭頂を捉えようとした。
だが即座にそれを杖で受けるメールエ。
ギャリギャリッ!
力と力がせめぎあう音が鳴る。
至近距離でにらみ合う二人。
「ふん!」
「クッ!」
二人がそれぞれ相手を押し返そうとすると、力のぶつかり合いが小爆発を起こした。
ガルアドの大きな身体とメールエの小さな身体が反発するように逆方向へと吹き飛ばされる。
「くそがっ!」
ガルアドは二回転して地面に着地する。
「くっ……」
メールエは壁に叩きつけられた。
痛みに顔をゆがめるメールエの手から離れた杖が床に転がる。
それを見たガルアドがニヤリと笑った。




