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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第67話 女王を我が妻にしてやる

 とある都市の、とある貴族の屋敷。

 その執務室。

 齢70を越してまだ若々しさを残す男。

 筆頭宮廷魔術師にして、白金等級貴族である、シャイア・ネブリブル・ケルリアは、部下に笑って言った。


「くっくっく、思い通りだ。あの小娘、メールエを自称救世主の元へと派遣したようだぞ」


 40歳ほどの部下の男はシャイアの前で直立不動で答えた。


「それはよかった。さすがシャイア閣下。計算通りですね。しかし、女王陛下を小娘呼ばわりとは……誰かに聞かれたら、問題になりますぞ」


「かまわぬよ。誰が問題にするのかね? くっくっく。あの小娘が頼りにするのは、メールエとあの自称救世主くらいしかおらぬと思ったのだが、こちらの思惑どおりに動いてくれたな。もともとは我が部下ながら、メールエの奴の魔法はあなどれない。なにしろ、国家の歴史上最高の天才といわれた女だからな。私から見ても、メールエは本物だ」


「確かに……。ありとあらゆる魔法を実現できるあの才能はすさまじいものがあります。無尽蔵ともいえる魔力、戦場でも敵をなぎ倒せるほどの攻撃魔法……。一度、戦いにおいてメールエ殿の魔法を目の当たりにしたことがありますが、味方ながら背筋が震えたものです」


「ふふふ。そのメールエが小娘のそばにいるあいだは、なかなか手が出せなかったが……。メールエが今、救世主の元へ行き、小娘を守るのは貧弱な近衛兵だけだ。しかも、テラル村にガルアドがいるという噂を流してやったら、まんまとひっかかりおったようだ。救世主とメールエはテラル村に向かっているらしいぞ」


 部下の男は追従するように笑みを浮かべる。


「さすがシャイア閣下です。これから、どうするのです?」

「もちろん、あの小娘を殺す。今、ガルアドを小娘の元へと向かわせておる」


「そんなことをさせて、世論は動揺しませんか?」

「ふふふ。自らを勇者と認めた女王陛下その人を殺すのだ。ガルアドの評判は地に落ちるだろう。国民の支持を失った勇者など、ものの数ではない。そのあとゆっくり始末すればよい。ガルアドは強いが、頭が弱い。あんなのはなんとでもなる。それより、あの小娘だ。近くにメールエのいない今、あの小娘を守るものはいない。勇者ガルアドなら、すぐにでも小娘を殺せるだろう。後継者は私のひ孫を据える。これで、この国は私のものになる……」


 シャイアは、心底楽しそうに、くっくっく、と笑うのだった。


     ★


 ガルアドは、ブレイブドラゴンの背に乗って空を飛んでいた。

 目指すは王都である。

 女王リリアーナ・オーレリア・テネスティアを暗殺せよ、との指令をシャイアから受けていた。


 ――あのじじい、この俺を手駒に使って利用しようとしてやがるな。


 勇者ガルアドには、シャイアの狙いがわかっていた。

 自分を使い捨てにするつもりなのだ。

 だが、ガルアドは、シャイアが思うほど愚かな人間ではなかった。

 その指令を受けたとき、別の狙いを思いついたのだ。


 女王を殺すのはたやすいだろう。

 だがその後はどうなる?

 シャイアが約束したとおり、ガルアドが重用され、白金貴族と認められ、領土を与えられる、となればよい。

 だが、シャイアの立場からすると、その逆だろう。

 女王を(しい)したガルアドを国家の反逆者として追討するだろう。

 女王暗殺ののち、のこのことシャイアの元へと帰れば、そのまま捕縛されることもありうる。

 

 ガルアドの人生の目的は、世界の覇者となることであった。

 奴隷の身分に生まれ、迫害されて生きてきた。

 ガルアドの母親も奴隷だった。

 彼がまだ7歳くらいのとき、母親とともに持ち主の貴族に呼ばれた。

 そこには貴族とその友人たちが複数いて、ガルアドの目の前で、母親は無理やりに犯された。

 ガルアドの命を救うのと引き換えに、母親は貴族のどんな要求にもこたえ、最後には挿入されながら首を絞められて死んだ。


 ガルアドはその後もその貴族の元で労働させられた。

 あるとき、魔王軍が襲来し、貴族とその一族を皆殺しにしたとき――実際には、魔王軍の仕業に見せかけてガルアドが貴族どもを殺した時――ガルアドの能力が開花したのだ。

 他者の命と引き換えに強さを手に入れ、どんな敵でも倒せるようになってからは、世界への復讐が生きる目的となっていた。

 奴隷制などというものを肯定しているこの世界など、滅んでしまえばよい。

 いや、この俺があるべき世界に変えてやるのだ。


 ――いつまでもシャイアのじじいの手下をやってやるほど、俺の器は小さくないぞ。


 ドラゴンの背にまたがりながら、ガルアドはひとり笑みを浮かべた。

 力ですべてを手に入れてやる。

 女王を殺す必要などない。

 13歳の小娘など、脅して俺の言うことを聞かせられればそれでいい。

 いや、それだけではなく。

 力でその純潔を奪い、俺の子供を産ませ、王位を継がせればよい。


「ふふふふ。ははははは。女王を我が妻にしてやろうぞ!」


 遠くに、王都の明かりが見えてきた。


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