第66話 自慰行為
豪華絢爛な寝室。
調度品すべてが一級の材料を使って一流の職人によってつくられている、広い部屋だった。
天井は高く、眩しいほどの光を放つシャンデリア。
真夜中にもかかわらず、魔法によって光るそれは、部屋の中を輝く光であふれさせている。 壁は精微な模様で織られているタペストリーが壁紙のように使われており、さらには歴代の王や女王の肖像画、それに女神テネスを描いた絵画が飾られている。
ほかにもテネス神やリューン神を現した見事な彫像。
寝室とはいっても、それはいくつかの部屋が組み合わさったひとつながりの空間となっており、ベッドのある部屋とは別に、ドレッシングルームも併設されている。
ドアひとつ向こうには、百を超える衣装が用意されているクローゼットと呼ぶには広すぎる部屋もある。
彼女は、鏡台の前に座っていた。
人払いをしているので、ほかに人影はない。
鏡の中に映し出されている一人の少女。
テネスティア王国を統べるこの国の女王、リリアーナ・オーレリア・テネスティア。
リリアーナは鏡に映る自分の姿を見て、ほうっと息をついた。
なんて美しいのだろう。
青みのかかった金髪のショートカットは艶がありサラサラで、見るだけでうっとりする。
宝石がちりばめられたドレスに包まれているのは華奢な肩と腕。
なんて可憐なんだろう。
長いまつ毛が彩る碧い瞳の輝きはどこまでも深く輝いていて、小さな鼻、薄い紅色の唇と合わせてみても完璧なバランスだ。
「こんな美しい人間が、この世にいるというのは、まさに女神様の奇跡ですね……」
鏡の中の自分に話しかける。
今日も、夕食に毒が入れられていた。
昨日などは、貴族の子供にプレゼントされた花の鉢植えに、毒ガスが仕込まれていた。
数日前には、なぜか宮廷の中にモンスターが解き放たれていて、リリアーナに襲い掛かってきた。
今、この部屋には魔法で結界が張られているが、その外にはリリアーナの命を狙う暗殺者がうようよいるだろう。
「普通の人間だったら、百回は殺されてますよね、私。女王をやるっていうのも、大変ですね」
もはや王都に彼女の味方は少ない。
多くの貴族は、シャイアによる買収を受け、女王から離反し始めていた。
シャイアは国家の徴税を司る役職にあり、特に奴隷売買から得られる税金は莫大なもので、その資金力を背景にして、国家で暗躍していた。
女王の母親は、等級なしの貧乏貴族の身分で、前王の妾にすぎなかった。
リリアーナには、金等級の貴族だった正妃から産まれた兄がいた。
本来ならば彼が王位を継ぐはずだったのだが、流行の疫病にかかり、前王とともに病没してしまった。
なしくずし的に王位を継いだリリアーナの後見人になったのは、母親の縁戚だという金等級の貴族だったが、それもあまり力をもたない貴族で、しかも最近病気で伏せっている。
いまや、本当の意味で頼りになるのは、幼少のころから彼女を守ってきた近衛兵たちくらいのものだ。
リリアーナは自分の頬に手をあてる。
鏡を見て、自らの姿をさらに眺める。
あまりにも完璧な美少女だと思った。
「王位だとか、権力だとかに興味はありませんが……。この美貌がこの世から失われるのは、阻止せねばなりませんね……」
少女は、鏡を見つめながら、着ている衣装をゆっくりと脱ぎ捨てた。
ああ、なんという。
完全無欠な美少女の身体をしているのだろうか。
ほのかに膨らむ胸部、細い腰、高い位置の腰から伸びるすらりとした足。
つやつやとした桃色の胸の突起を、そっと指でつまむ。
もう一方の手を下腹部にそろそろと伸ばした。
「自分の裸で……自慰行為するのは……女神テネス様に、叱られますね……。でも……。我慢できない……」
自らの秘部からあふれ出るとろりとした蜜が、指にからみつく。
リリアーナは自らの欲望に従い、鏡に映る自分の裸体を呆けたように眺めながら、指を細かく動かした。
わずか13歳の幼い少女が、本能に導かれるまま自堕落な行為にふけるその姿。
見ているものは誰もいない。
いや。
棚に飾られている手描きの絵本。
その表紙に描かれている、雲に乗った女神テネスだけが、その姿を見ていた。




