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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第62話 身体を重ね合わせる夜

 ココが、ベッドの上の俺の隣に潜り込んできた。


「お、おい、まずいぞ……。一応、男と女なんだからな……」


 俺はベッドからおりようとしたが、ココは俺の腕に抱き着いてきてそうさせない。

 女性特有の、やわらかい身体が俺の腕に押し付けられる。

 温かった。

 それに、甘くてふわふわするような、やさしい香り。


「トモキさん、こっちをむいて……」


 ココの大きくて碧い目が、俺をじっと見つめていた。

 俺と目が合うと、ココは、「ふふふ」と嬉しそうに笑って、俺の腕にさらに強く抱き着いてきた。

 ココは俺の腕に顔を押し付けると、すーっと大きく息を吸い、


「トモキさんの匂い……。ふふふ」


 と笑った。


「私はライラネック家の令嬢……。でも、間違って奴隷の刻印を彫られてしまって――。トモキさんが私を必要としてくださるから、私は私でいられるんですわ……」


 そして俺の腕に顔をうずめるココ。

 俺はなにも言うことができなかった。


「もし……あのとき、トモキさんが湖から現れてくれなかったら……。私は、奴隷だって勘違いされたまま、今頃まだ水汲みをしていて……。いえ、きっとあのダークドラゴンの襲撃で死んでましたわね……。

 トモキさん……。私がシーネ村に預けられた時……。持っていたのは絵本だけでした。とても豪華な絵本で……でも、おかしいの、中身はね、手描きの絵だったのですわ……。雲にのった女神テネス様が……モンスターに襲われているライラネック家の令嬢を見つけるの。そして、救世主様を遣わして、令嬢を助けてくださるの。最後にはライラネック家の令嬢は救世主様と心を通じ合わせて幸せな結婚をするの……」


「………………」

「あの頃は、私、四歳か五歳くらいだと思いますわ……。毎晩、養父にベッドに連れ込まれて……いろんなところを触られたり、舐められたりして……。アリアさんが教えてくれましたわ……。そういうことは、好きな男性とするものだって……。ふふふ、アリアさんておかしいのですのよ、『お股は? お股は無事だったの?』って聞くの。ふふふ。『なにか入れられた?』って。アリアさん、馬鹿みたい。あの頃はまだ小さかったし、お股は触られたりしましたけど……でも、なにかをいれられたってことはないですわ……」


「………………」


 俺は抱き着かれてる方とは別の手で、ココの肩のあたりを撫でてやった。


「ふふふ。アリアさんっておかしいですわよね。変なこと聞くんだから……。ふふふ。不思議。養父に触られていたときは、すっごく嫌な気分だったのに……トモキさんにナデナデされると、胸のあたりがあったかくなって、とてもいい気分ですわ……。トモキさん、この世界に来てくれて、ありがとう……。

 私ね、いつも言っていたの。

 今は奴隷だって勘違いされてるけど、私はライラネック家の令嬢なんだって。

 いつか、女神テネス様が間違いをただしに来てくださるんだって。

 だって、夢の中でいつもテネス様が言ってたんですもの。

 トウモロコシを食べながら……。

 テネス様もおかしいわ、いつもトウモロコシの粒をぼろぼろこぼして……。

 ふふふ。

 みんなに笑われていたわ。

 でも、私は信じていた。

 いつか、テネス様か、テネス様が遣わした救世主様が、私を助けに来てくださるんだって。

 湖からトモキさんが出てきたとき……。とっても嬉しかったんですのよ。

 ほーら来た、って。

 来てくださったんだって。

 世界と私を救いに、救世主様が……私のもとに来てくれたんだって……。信じていてよかった、って」


 最後の方は、ココの声は涙声になっていた。


「トモキさん、ありがとう。ありがとう。ありがとう」


 俺はそこで、やっと口を開いた。


「いいさ。心配するな、ココのことは俺が守ってやる。そのかわり、俺に協力してくれよ。お前は、この世界で一番最初に俺を見つけた、俺の一番最初の使徒なんだからな」

「……今まで、人生で、……誰かに守られるだなんて、一度もなかったですわ……。トモキさんは、私を守ってくださるのね……」


 ココが、俺に覆いかぶさるようにして抱き着いてきた。

 大きな胸が俺の胸に押し付けられる。

 ほっぺたとほっぺたがくっついた。

 ぐーっとココが俺に体重をかけてくる。

 軽い女の子とはいえ、この体勢は……。

 息が苦しいぞ。

 俺はココの背中に腕を回して抱き寄せ、グルンと横を向いた。

 ココの碧い目がそこにあった。


「アリアさんが言っていたんですの……。好きな男の人と……。くっつくと、とても幸せなんだって……。私、今幸せ……。あなたが……いれば……もう私は寂しくない……ねえ、トモキさ……」


 ココは、続きを言うことができなかった。

 俺がその口をふさいだからだった。

 

 言葉の代わりに、俺たちはただお互いを抱きしめあった。


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