第59話 そういう魔法、使えるんだよ。
メールエの言っていた件についてはとりあえず保留にした。
すぐに答えを出せるようなことじゃなかったからだ。
俺はともかく、シュリアには立場ってものがあるからな。
シュリアの父親であるデールはシャイア派だということだった。
そういや、親しくさせていただいてる、とかなんとか言っていた。
ということは当然、シュリアは女王陛下よりもシャイアに与すべき理由があることになる。
だからといって、今回のメールエの申し出を断るってことは、女王陛下の協力要請をことわるってことだ。
一応現在の国家元首は当然ながら女王陛下なわけで、その勘気を被るってのは避けたい。
だが、父親の立場を無視してシュリアだけが女王陛下に協力するってのも……。
うーむ、難しいぞ。
「で、だ。保留ってことなんだが」
俺が言うと、メールエは眉を片方だけ上げた。
「まーねー。そうなるよねー。とりあえず伝書ハルトを飛ばしてデール卿に聞いてみてよ」
メールエの言葉に、シュリアは頷く。
「もちろんそうするわ。ただ、ここからだと私が手紙を出して戻ってくるまで、丸一日はかかるわ」
この世界、通信はほとんどこの伝書ハルトに頼っているっぽい。
地球における伝書バトよりも高速で正確、しかもかなりの量の文書を運べるらしい。
少なくとも人力や馬で伝達するよりは早いけど、そうは言っても現代日本みたいにリアルタイム通信とはいかない。
しかし、それしか方法がないならそうするほかないよな。
シュリアは早速ペンをとった。
「と、言っても私、文章書くのはそんなに得意じゃないのよね……」
真っ白な紙を前に、シュリアはどう書くべきか迷っているようだ。
「ま、ゆっくり書いてもいいよ。しばらくここに逗留するしさ」
メールエは、ここがまるで自分の部屋であるかのようにくつろいでいた。
ニッキーにお菓子をもってこさせて、
「はい、お姉さんも食べなよ」
などと言ってココに渡している。
ココがそれをおいしそうに食べるのを心底嬉しそうにニコニコと笑って見ていた。
どうやら、ココがお気に入りになったみたいだな。
「まあ、待つよ。いやさー。私も手ぶらじゃ帰れないわけよ。女王陛下もさ、後ろ盾だった白金貴族の方が最近病気がちでさー。その跡取り娘はあんまりアテにならない性格だし……。女王陛下自身、正妃のお子様ではないし……。いろいろ宮廷のパワーバランスが崩れているわけよ」
そういう政治の話は俺も得意じゃないんだけどな。
そんな会話をしているとき、ふと俺はおもいついたことがあった。
このメールエ、天才魔術師とか呼ばれているらしい。
なら、通信の魔法も使えたりしないのか?
「メールエさんは……」
俺が話しかけると、メールエは笑って言った。
「メールエでいいよ。女王陛下に協力してもらえれば救世主様――トモキって名前だっけ? トモキも白金等級の貴族様になるんだからね!」
「じゃあ、メールエ。なんかこう、遠くにいる人と直接会話できるような魔法、使えないか?」
「あー、ねー。うん。使えると思う。でもなー。いろいろ制限があるんだよねー。うーん。私はねー。使えるんだよねー。そういう魔法、使えるんだよ。でもね、今は使えない。ちょっといろいろあってさ。それよりも。トモキは使えないの?」
「いや、使えないだろ……多分」
「使えるんじゃないのー? 私はそういう魔法、使えるんだし。ってことはそういう魔法は存在してるってことだよ。女神テネス様に選ばれたトモキなら、そういう超一流魔法、使えるんじゃないかなー」
なーんか、メールエのやつ、言い方に含みがあるよな。
なにか隠してるっぽいけど、それがなにかはさっぱりわからん。
それはともかく、メールエの言う通り、試したことがないだけで、そういう魔法が使えるのかもしれない。
なにしろ瀕死の人間を完全に治癒させたり、倒壊した家屋を元に戻したり、とんでもないことができるんだしな。
「よし、試してみよう」




