第53話 ▲の意味
馬車の中。
窓の外をのどかな田園風景が流れていく。
上り坂に差し掛かると、
「ハイッ! ハイッ!」
アリアが馬にムチをいれながら声をあげた。
魔法のサスペンションによって馬車内の揺れは少ない。
だれもかれも、無口だった。
座り順も今までとは変わっている。
3列目シートに俺とココが並んで座り、2列目シートにシュリアが一人で座っている。
1番前にニッキーだ。
うーん、きまずい。
ぶっちゃけ、アリアは簡単だった。
一晩中ギャンブルに付き合ってやったら好感度はあっさりSに戻った。
カイジで覚えたチンチロリンのルールを教えてやったら、大喜びではまっていた。
俺とココと三人でやったのだが、俺とココが勝ちまくり、俺はパンツまでもらってしまったし、
あ、さすがにパンツを脱がすのはやばかったので抵当権を設定するだけにしておいた。
今アリアがはいているパンツは俺のものなのだ。
ちなみにココはアリアの初夜権まで獲得していた。
「ショヤってなんですか?」
とか言って困惑の表情をしているココの顔を思い出すと笑えてくる。
まじでアリアってアホだろ。
さて。
問題はシュリアだ。
この子はアリアほど単純じゃない。
何度か話しかけてみたけど、めちゃくちゃ塩対応だ。
「シュリア、今晩はどこの街に泊まるんだ?」
「………………」
無視である。
傷つく。
つらい。
俺はつややかなシュリアの赤髪を眺めながら、
「うーん。なあ、シュリア。今、俺のこと、どう思ってる?」
「…………」
「じゃあ、まあ、話すよ。俺の能力のすべてを。俺は触れた人間の魔力を吸い取って強力な魔法を実現する力がある」
「………………」
「で、な。俺って、実は他の人間の能力値が見えるんだ。これは他のやつらには秘密だぞ。俺たちだけの秘密だ」
「能力値……」
やっと、シュリアが口を開いた。
「そうだ。魔力をどのくらい持っているとか、体力がどのくらいあるとか、戦闘能力の高さとか」
「じゃあ、私の能力も見えているの?」
お、興味を持ったようだな。
「ああ。体力は普通。でも、魔力は普通の人よりずっと高い。そのせいか、戦闘力もガルニと同じくらい。ちなみにニッキーの戦闘力はそれ以上だ」
ニッキーも会話を聞いていたのだろう、
「当然です。毎日鍛錬していますからね」
すごいいい身体していたからなあ。
アスリート体型だった。
「その分、ニッキーにはあんまり魔力はないみたいだったけどな」
「そうですか。残念です。道理で、いくら修行しても魔法は使えるようになりませんでした。でも、仕方がないですね。私は貴族ではありませんから。その分、筋肉ですべてを解決しますよ」
それもどうかとは思うけど。
「ふーん、じゃ、トモキ、あなたに見えているその能力って、その3つだけ?」
「そうだな、身体能力、魔力、戦闘能力。あともうひとつ、なんだかわかんないけど、見えるな」
さすがに好感度のことは伏せておく。
コミュニケーションが大事といっても、聞いたら不快になるかもしれないことまで言うことはないだろう。
「じゃあ、あなたに見えてる私の能力を教えて」
「そうだな、身体能力は中の下ってとこか。魔力は上の下、戦闘能力も上の下だ。あともうひとつ、わからないやつが上の下」
「ふーん。悪くないじゃない。じゃあ、ココちゃんは?」
「ココの身体能力は下、魔力は上の上、戦闘能力は下。あとひとつは下だな」
「へー……。ニッキーとアリアちゃんのも教えてよ」
「ニッキーの身体能力は上、魔力は下、戦闘能力は上の中くらい。あとひとつは中くらいだな。アリアは……身体能力と戦闘力が下、魔力は上はあるな。もうひとつは上の下か」
「そう……」
しばらく考え込むシュリア。
五分ほど、馬車内に静寂が流れる。
そして、シュリアは言った。
「消去法だけど、もう一つのはわかったわ」




