第50話 今、ボク、裸なんだけど……!?
「ええ!? 今、ボク、裸なんだけど……!? っていうかなにが起こっているのこれ? わけわかんないよ!」
「いいから来い!」
「でも……」
「あとでカジノでも競馬でもなんでも連れて行ってやるから!」
この世界に競馬があるのかどうか知らんが、ぶっちゃけないわけないと思ったので俺はそう言った。
軍馬がいる世界には競馬は絶対あると思うし、カジノみたいな賭場も絶対あるだろう。
実際、俺がそう言ったとたん、手で胸と股間を隠しながら、アリアがジャブジャブとお湯をかきわけてやってきた。
「お金貸してくれる?」
「銀貨十枚」
「よし、のった!」
アリアは、水色のツインテールを今はおろしている。
髪を洗ったばかりだったのか、その髪の毛は濡れている。
「戦場におなごを呼ぶか……。ふふふ、テネスの使いとは思えぬな」
じいさんが馬鹿にしたように笑う。
俺は無視して、
「アリア、俺の手を握れ!」
「え、やだ」
「は?」
「見えちゃうじゃん。ってか、あのおじいさんだれ?」
「敵だ、ってか早く俺の手を……」
「やだってば。こっちは裸なの!」
じいさんが光る剣を振りかぶった。
「痴れ者め! おなごもろとも真っ二つになれい!」
くそ、アリアのやつ、ちょっと裸だからって恥ずかしがりやがって。
俺はアリアに飛びつくように抱き着いた。
「うひゃっ!? うそっ!?」
「銀貨二十枚!」
俺は叫びながら、魔法を発動させる。
アリア
魔力 S⇒A
キュイン!
魔法が発動して、魔法障壁がじいさんの攻撃を防ぐ。
くそ、防ぐだけじゃラチがあかねえぞ。
でも、アリアの魔力だけでこいつを倒せるか?
好感度も犠牲にしなきゃいけねえかもしれん。
いや、やるしかねえ!
「待って、ご主人様、待って、ボク、ボク……ちょ、ちょっと……」
俺の腕の中でモゾモゾするアリア、こいつ、小柄で痩せてるけど柔らかくあったけえな、とにかくやるしかねえ。
「ノルニルハンマー!」
キュイーン!
アリア
身体能力 D
▲ A
戦闘能力 D
魔力 A⇒ENP
好感度 S⇒F
俺の手から、青く輝くミョルニル弾が5つ、発射された。
それぞれ別方向からじいさんに襲い掛かる。
だが、じいさんもさすが達人だった。
その攻撃のすべてを、剣ではじき返している。
これで倒せなかったら……。
もう、アリアの魔力も好感度も使い果たした。
くそ、いまこの瞬間にこいつを倒せなかったら……。
ここで俺たちは皆殺しだ。
俺は両手を前に突き出し、ミョルニル弾の操作に集中する。
5つの光弾をあの手この手でじいさんにぶつけようとするのだが、じいさんはとんでもないスピードの剣でそれを防ぎ続ける。
やばい、もう光弾が消えてしまう――。
その時だった。
とても柔らかいなにかが、いや、誰かが、背中から俺に抱き着いてきた。
聞きなれたその声が耳もとでささやいた。
「私の力を使って。振り向いたら、私、死ぬからね」
シュリアの声だった。
貴族の令嬢たる女性が、裸のまま、裸の俺に抱き着いたのだ。
「ああ、ありがたい。行くぞ! ロンギヌス!」
キュイーーン!
シュリア
身体能力 C
▲ A
戦闘能力 A⇒F
魔力 A⇒ENP
好感度 S
その途端、俺の手に赤く光る槍が出現した。
じいさんはミョルニル弾を防ぐので精一杯だ。
俺は狙いを定めて――槍をぶん投げた。
「ぬおおおお!」
じいさんは光弾をはじき返すその合間に、槍の攻撃すら剣で叩き落した。
ギュイーーーーン!
という不快な音ともに槍の軌道が逸れ、湯舟の中に突き刺さる。
さらに、すべてのミョルニル弾をも叩き落す。
光弾はまるで湯に溶けたかのように消滅した。
凄みのある笑みを浮かべるじいさん。
「ワシの勝ちじゃ。戦いの神、リューン様の御心に――」
その瞬間だった。
なにかが、俺の頭上を飛んでいった。
「は!?」
思わず声が出た。
なんだあれ。
まるで――。
裸の女性が俺の頭の上を飛んで行っているように見える。
その女性は向こう側の壁に両足で『着地』し――。
三角跳びでじいさんに向かって飛びかかり――。
固く握りしめたこぶしで身体ごと殴りかかろうとする。
そちらに向きを変えて剣を構えるじいさん、つっこんでいくのはすごい形相をした黒髪ショートの女性――ニッキーだ。
まずい、斬られるぞ!
「ミョルニルハンマー!」
キュイーン!
シュリア
身体能力 C
▲ A
戦闘能力 F
魔力 ENP
好感度 S⇒F
ニッキーに気を取られ、俺に背を向けていたじいさんの後頭部に、青い光弾が直撃した。




