第49話 言いやすいからな
キュイーン!
音が鳴る。
壁があるのでココのステータスは見えない。
俺は狙いを定め、
「モルニウハンマー!」
そう叫ぶと、俺の手から青く輝く球体がバシュッ! と放出された。
だが、じいさんの動きは素早かった。
俺の視線を見極めたのか、信じられない足さばきでそれをよける。
ミョルニルハンマー弾を操作しようとするが、それよりもじいさんの動きが早かった。
あっという間に距離を詰められる。
じいさんの瞳は俺をしっかりとらえていた。
まばゆく輝く剣を振りかぶると、
「ふんっ!」
とそれを振り下ろす。
まったく目に見えないスピードだった。
中身はただのおっさんである俺に、それをよけるすべはまったくなかった。
だけど。
まだココの手が俺の足首をつかんでいる。
「イージスアンブレラ!」
叫ぶと同時に俺の目の前に傘の形をしたバリアが張られた。
ギィィィン!
という大きな音とともにバリアは剣戟を防ぐ。
じいさんは一歩下がり、にやっと笑った。
「この一撃を防ぐとは、やるではないか。さすが勇者様に勝った男」
「ミョルニルよりは言いやすいからな」
イージスって響きがかっこいいしな。
と、その時、俺の足首を握っていたココの手が離れた。
というより、ココの手から力が抜けて離してしまった、という感じか。
壁の向こうから、シュリアの声が聞こえる。
「ココちゃん! ちょっと大丈夫? ニッキー、ちょっと来て、ココちゃんが溺れちゃった! 意識がないわ、ちょっと手伝って!」
ココ、ありがとうな。
苦しかったろうに、溺れるまで湯舟に潜っていてくれたのか。
しかし、これで俺の魔力の供給源がなくなってしまった。
じいさんは俺の隙を狙おうと、剣先をゆらゆら揺らしている。
隙もなにも、今の俺はなんの力もないただの男だ。
だけど、そんな事情は知らないじいさんから見れば、俺は得体のしれない魔法を使う高位魔法使いに見えているのだ。
だが、いずれは俺に攻撃を仕掛けてくるだろう。
真っ二つになる自分の姿を想像した。
ココの力を失った俺はこのまま切り殺されるしかないのだろうか。
いや、まだ手はある。
さっき放出したミョルニル弾はまだ浴室の中で浮いている。
俺のコントロールはまだ効いているようだ。
今現在の俺の魔力でコントロールしているのではなく、放出したときにミョルニル弾に込めた魔力がまだ残っている、という感覚。
俺に気を取られている間に後ろから攻撃しようと思っていたが。
じいさんは俺から目を離さず、しかし顔の方向をわずかに動かしてミョルニル弾を視界に入れているようだ。
さすがだな、達人だわこいつ。
だけど、俺はじいさんの予想を超えた動きをミョルニル弾にさせた。
それは、空中ですーっと俺たちから離れたところを動いていく。
その動きにあわせてじいさんも身体の向きをわずかに変える。
俺はミョルニル弾を――。
壁に向けてそっとぶつけた。
バキィッと壁が壊れる。
ココは意識を失っているという。
聞こえてくる声からすると、今、シュリアが治癒魔法をかけているっぽい。
だから、俺はもう一人の、俺の奴隷に向けて叫んだ。
「アリア! こっちに来い!」




