第48話 信仰を同じにする同志
俺もこの世界に来てから一か月以上たつし、それなりに修羅場もくぐってきた。
だから、俺の身体は瞬時に反応してくれた。
湯舟からたちあがり、じいさんを睨みながらゆっくりと移動しようとする。
水の抵抗があるから、湯舟の中にいるのは不利だ。
男湯と女湯を隔てる壁を背に、俺は浴槽からあがろうとするが。
じいさんは剣の切っ先をピクッと動かして俺に斬りかかる動きを見せる。
俺は身構えて、手の平をじいさんに向けた。
魔法を発動するフリだ。
警戒したのか、じいさんは攻撃してこない。
じっと俺を見つめている。
さすが戦闘能力Sの達人だ、その動きには隙がない。
じいさんはどのくらいまで俺の能力を知っているだろう?
勇者ガルアドから俺のことを直接聞いただろうか?
いずれにせよ、俺のことを『魔法使い』だと思っているかもしれない。
しかし、俺は単体では魔法を使えない。
はったりだけでこの状況を切り抜けられるか?
「……勇者ガルアドの部下かなにかか?」
俺が聞くと、じいさんは無表情のまま答える。
「勇者様の部下ではない。ただ、信仰を同じにする同志じゃよ。この乱世は、力によってでなくては終わらぬ。平和のためにガルアド様のような絶対的な力を持つ存在が必要なのじゃ」
「俺も、絶対的な力を持っているぜ?」
「女どもをはべらせているようだな。軟弱なお前になど、この世界の平和は勝ち取れぬ。女神テネスは戦いの神ではない。生と死を司る女神じゃ。殺しあうな、産めよ増やせよがその教義。そんな軟弱女神では、この地獄のような世界は救えぬ」
「だからといって俺を殺す理由にはならないぜ?」
「勇者ガルアド様とお前は殺し合いをしたと聞く。ならば聞くが、お前は勇者ガルアド様に協力する意志があるとでもいうのか?」
あるわけがない。
奴隷を殺しまくってその力を吸い取るのが勇者ガルアドの能力だ。
それも、女子供関係なく。
どうあっても、協力関係にはなれない。
俺が黙っていると、じいさんは半眼で俺をにらみながら、
「勇者様とお前の戦いは、お前が勝ったと聞いた。にわかには信じられぬが。おそらく、お前の魔法と勇者様の能力との相性が悪かったのだろう。勇者様の邪魔をするものは……」
そしてじいさんが「むんっ」と気合を入れる。
その手に持っている剣が発光し始める。
俺は。
背にしている一枚板の壁をこぶしでガツンと叩いた。
「ココ!」
「え、はい!?」
壁の向こうで、ココがびっくりしたような声を上げる。
よかった、聞こえるみたいだな。
「ココ、浴槽の下がつながっている! 俺の足に触れ!」
すると、シュリアとニッキーが黄色い悲鳴をあげた。
「キャーッ! えっちぃこと言ってますよ、シュリア様」
「ちょ、やめてよ、トモキ、あんた何を言い出してるの? ここはお風呂よ?」
だけど、ココだけは俺の意図をくみ取ってくれたみたいだった。
「はい! 敵なんですね!」
バシャン、とココがお湯の中に潜る音が聞こえた。
男湯と女湯を隔てている壁の下部分に、わずか二十センチほどの隙間がある。
そこからココの手が伸びてくる。
指先が俺の足に触れる。
その瞬間、俺は魔法を発動した。