第47話 花を売るお店
温泉、好きなんだよなあ。
異世界に来てまで温泉に入れるとは。
この世界に温泉を楽しむ文化があってほんとに感謝だぜ。
というわけで、俺は浴槽にゆったりとつかっていた。
ガルニたち護衛は、俺たちが寝てから交代で風呂に入ると言っていた。
今は女風呂の更衣室の前で見張りをしているはずだ。
貴族の護衛って仕事も大変だなあ。
壁一枚隔てて隣は女風呂になっているらしく、シュリアやココやアリアやニッキーがキャッキャはしゃいでる声が聞こえる。
女の子っておしゃべりが好きだよなあ。
よくもまあしゃべる内容が尽きないもんだ。
しっかし、この宿、浴場の作りがさー。
男風呂と女風呂は、出入り口が全然別の場所になっていて、風呂上がりの男と女が出会わないような作りになっている。
風紀の乱れを嫌ったからこういうつくりにしてるのかな?
それとも建物の形に合わせてつくったらたまたまこうなっただけなのかも。
ま、どうでもいっか。
甘くて柔らかい香りの温泉につかりながら、
「ぐはぁぁぁぁ~~~~」
と息を吐く。
こっちの世界に来てからいろいろあったからな。
ほんと、リラックスできて最高だぜ。
いやー、しかしこの壁、薄い板でできてるだけじゃねーか。
うーん、この壁一枚向こうに裸のココやシュリアがいるのか。
ん?
よく見ると、浴槽の壁、その下の方に二十センチくらいの隙間があって、となりの女風呂とつながっている。
つまり!
このお湯は女風呂と共有されているのだ!
俺はお湯を両手ですくった。
……飲むか?
…………飲んじゃうか?
ココとシュリアとアリアとニッキーの煮汁だぞ。
飲んでもバチは当たらないんじゃないか?
しばらく逡巡してから、さすがに飲むのはやめ、それでばしゃばしゃと顔を洗った。
うーむ。
女の子の煮汁……。
と、そこに誰かが浴場に入ってきた。
ほかの客かな? と思ったが、服を着ている。
んー。
よく見ると、この宿の隠居、剣の達人のじいさんだった。
浴槽の点検か浴場の片づけにでも来たのかな?
隠居とか言ってたけど、しっかり働いてるんだなー。
とか思いながら、目が合ったので会釈しておく。
じいさんは棒みたいなものを持っている。着脱式のモップかなにかかな?
ってことは、掃除か。
掃除は大事だけど、俺が風呂からあがってからにしてほしいかな。
じいさんが話しかけてくる。
「ほっほっほ、お客さま、うちの温泉はどうですかな?」
「いやー、最高ですよ!」
「肌がきれいになると評判の温泉なのですぞ。ほっほっほ、それに……」
そして声をひそめるじいさん。
「お湯はほれ、おなごのお風呂とつながっておる……。女性の肌から出る成分は男を元気にしますぞ」
「はあ……」
じいさんになっても男ってやつはあれだな、死ぬまでスケベだな。
この性欲に感情が支配されてる感じ、これと闘うのが男の人生だよな。
「ところでお客様。お客様は女、買われますか?」
「は?」
「いや、この宿を出たところに、花を売るお店がありますぞ。お若いし、ぜひ行ってみてください」
花を売るって……つまり、ええと、現代日本風に言うと、エッチな風俗店ってことか?
く~~~!
行きたいけど、なーんか救世主様とか言われてる俺がそんなことしたら、みんなに悪い気がする。
「いや、やめておきますよ」
と答えながら、俺はふとじいさんの頭上にあるステータスを見た。
身体能力 D
▲ B
戦闘能力 S
魔力 D
好感度 K
ん?
好感度K?
Kってなんだ?
じいさんは穏やかな笑みのままで、持っていた棒のようなもの――仕込み杖――から剣を引き抜いた。
「ほっほっほ、一応確認しますが、お客様は我が敬愛する戦いの神、リューン様に認められた勇者ガルアド様の敵……ということでよろしいか?」