第44話 ■の正体
俺たちは宿場町にたどり着く。
さすが王都へと続く街道の宿場町、けっこう賑わっていた。
と言っても、旅人相手の商売をする町だ、おしゃれなブティックやセレクトショップがあるわけじゃない。
それでも、その服屋に来ると、ココとアリアは大興奮だった。
元自由民だったアリアはともかく、小さなころから奴隷だったココは、自分で服を選べる、ということがはじめてだったらしく、その青い瞳をキラキラさせている。
店の女主人に俺は最初に金を渡す。
とりあえず銀貨二十枚。
「こいつらに合う服を選んでやってくれ。上品なのがいいな。足りなかったらもっと払うから。頼むぞ。あ、これはチップな。丁寧な接客で頼む」
さらに銀貨一枚を追加で渡す。
「はい、おまかせください!」
女主人も金を見て目をキラキラさせてる。
ビゴンッと好感度がCからAまであがったぞ。
人間ってやつは……。
「これ! これどうですか?」
「うーん、ボクはこっちのが好み」
「ほら見てほら見て! アリアさん、これが似合いますわよ!」
「なかなかいいね。ココにはこれが似合うと思うよ」
お互いに服を当ててキャッキャッと喜んでいる二人。
「お客様はブロンドですからこちらの色が似合うと思いますよ」
ココに服をすすめる女主人。
なるほど、そういう青の差し色が入ってるブラウスが似合うなあ。
ついでに言うと。
「ね、ね、トモキ、これどうかな?」
シュリアまで一緒になって服を選んでいる。
「姫様、これがいいですわ!」
ついでにニッキーも。
女の子ってこういうの、好きだよなー。
永遠に続く服選びに飽きて、俺はいったん外に出る。
そこではガルニが町の人と会話している。
「おお、トモキ殿。今いろいろ噂を聞いていたのだが」
「なにか変わったことでもありましたか?」
まあシュリアの供人とはいえ、ガルニは還暦近くのおっさんだ。
俺は敬語で接することにしている。
俺が聞くと、ガルニが答えた。
「ああ。我々がキャルル領を出た後、やはり女王陛下からデール卿に弁明を求めてきたそうだ。そして、救世主と名乗る者と会わせろ、と。なにしろあの勇者と互角以上……いや、圧倒したのだからな。本物の救世主である可能性もお考えなのだろう。トモキ殿、女王陛下と謁見することになるかもしれん。心の準備をしておく必要がある」
女王陛下と謁見、か。
そこでしくじれば処刑の可能性まである。
だけど。
逆に、女王陛下に俺の力を認めさせることができれば……。
この世界の奴隷制、というものになにか楔が打てるかもしれない。
「俺もなにかちゃんとした服をあつらえた方がいいですかね」
なにしろ、着ているものはパーカーとチノパンだ。
一張羅だし、ずっと来ているので生地がけばだっている。
「そうだな。だが、こんな町では正装は揃わない。王都についてすぐ謁見というわけではないだろうから、王都で準備するのがいいだろうな」
なるほど、その通りだろう。
その時、一人の老人が通りがかった。
どこにでもいそうな、普通の恰好をしている、普通の老人だ。
だけど、俺の目を引いたのは、そのステータス。
老人
身体能力 D
▲ B
■ S
魔力 D
好感度 C
■だけがSだ。
勇者ガルアドのステータスも、■だけが突出していた。
それを見たときから、俺はある程度予測をしていたことがある。
■ってもしかしたら……。
「あの」
俺は老人に話しかけた。
「ん? なんじゃ? 旅の人かの?」
「そうです。あの、一つお聞きしたいのですが」
「ああ、宿の場所がわからんのか? なんていう宿じゃ?」
「いや、そうではなく。もしかしたらあなたは……なにかの武術か魔法をおさめてらっしゃる?」
それを聞いた途端、老人は目をすがめた。
「ほう……なぜわかる?」
「見た瞬間に、ピンと来たのです」
そう、勇者ガルアドが奴隷を殺した時、アップしたステータスは■だった。
その後、ガルアドは超絶な攻撃力でモンスターどもを蹂躙したのだ。
この老人は魔力がD。
高いとは言えない。
すると……。
「剣、ですか?」
「ふぉふぉふぉ! よくわかるのお」
「達人だとお見受けしましたが」
「そうはいっても老いぼれじゃ。三十年前ならまだ戦えたが、今はの……。腰も膝も痛くて……。だが……。そこの若いの」
老人が声をかけたのはガルニだった。
「若いのとは……私は来年60になりますぞ、ご老人」
「わしに比べれば若造よ。ちょっとその剣を抜いてもらえんかの」
「……こんな往来で?」
「そうじゃ。抜くだけでよい」
ガルニは少し迷った後、
「衛兵に通報されぬだろうな……?」
などと言いながら剣を抜こうと――。
と思ったら。
老人がとんでもない俊敏さでガルニの手首と手の甲を押さえたかと思うと、クイッとひねってその剣を奪い取ってしまった。
「ほれ。このくらいの芸当ならまだできる」
そしてすぐに剣をガルニに返す。
「すげえ……」
「おみそれしました」
俺とガルニは感心しきりだ。
「いやいや。昔、剣を教えていたこともあったでの。しかし、わしが剣術の師範だということを、あんたはよく一瞬でわかったの。こんなよぼよぼのじじぃなのに」
「いえ、すぐにわかりました。立ち居振る舞いがほかの人と違いましたから」
などと俺ははったりかましながら、確信した。
奴隷からパワーを吸い取って上昇した、勇者ガルアドの■。
俺は記憶力がいいからおぼえているけど、たとえば少年奴隷のタルミの■はE、ナニーニはE、ミーシャもE。ガルニは身体能力がAだったけど■はBだった。
シュリアの■がAで、勇者とこの老人をのぞけばそれが最高か。
シュリアの身体能力はCにすぎず、でも魔力がAあって、▲(これはまだ謎だ)もA。
さらには、シュリアは魔法を扱える。
聞いたところによると、防御魔法だけじゃなくてある程度の攻撃魔法も使えるらしい。
総合して考えると。
もしかしたら、■って戦闘能力を表すんじゃないか?
物理と魔法の総合的な戦闘能力。
それなら、なんとなくしっくりくる気がする。
うーん、どうだろう。
信仰心と好感度のときみたいに勘違いしている可能性もあるけど、一応今後はそう読み替えておくことにしよう。
「ところでご老人。エージーという者がやっている宿は、ここから近くかな?」
「ふぉふぉ。やはり宿を探しておったのか。うむ。そこはわしの息子が経営している宿じゃ。わしはもう隠居だがの。お客様だったとは、わしもちょっと調子にのって粗相してしまいましたな。さあお客様、案内しますぞ」
そこに、ココやシュリアたちが店から出てきた。
あんまり似合っていたので、俺の心臓がドキンとした。
だって……。