第41話 人質
屋敷の執務室。
俺とテーブルを挟んで向こう側のデールが渋い顔をして言った。
「うーむ、これは、政治の話になるぞ」
「政治?」
「うむ。勇者殿は王国から正式に認められた人物なのだ。戦いの神、リューン様のみ使いとしてな。元奴隷ながら、貴族としての格式も認められ、女王陛下より領地も賜っておる。そんな人物を殴り倒したのだ。これは、政治問題になるぞ」
「政治問題……」
「そうだ。トモキ殿と、そのトモキ殿を庇護している私。どちらも、女王陛下の認めた勇者殿と敵対した人物となる。私にも政敵はいる。そいつらを巻き込んで政治闘争になる。……いや、闘争になればまだよい。国家への反逆と思われるかもしれない。女王陛下の勘気に触れれば、そのまま領土を取り上げられたり、貧しい土地に移動させられたり、最悪、取りつぶしということもある」
うう……。
俺のせいで、デールやシュリアに迷惑をかけることになるのか。
「申し訳ございません」
俺は素直に頭を下げる。
謝ったところで、なにがどうなるわけでもないのだが……。
「ダークドラゴンとあの伝説のモンスター、セレスティアを倒したのだ。魔王も馬鹿ではない。攻めがたい土地、つまり我がキャルル領をこれ以上は狙ってこないと思う。そこでトモキ殿、頼みがあるのだ」
もちろん、頼みを断る理由もない。
「はい、なんでもおっしゃってください」
「私の後継者はシュリアであると国家へすでに届け出をすませておる。そのシュリアを、女王陛下の元へ預けようと思う。名目は領土経営を学ぶため。しかし、つまりそれは……」
デールの暗い顔を見ればわかる。
俺にもすぐわかった。
「女王陛下に嫡子を人質に出すということですね……」
「そういうことだ。これで私が女王陛下に反逆の意志がないことを示したい。とはいえ、それでも万が一、我が領土を女王陛下が奪おうというのなら……」
デールの目がギラリと光った。
おっと。
ただのお人よしの領主様、ってわけでもなかったみたいだ。
この人、最悪の事態になったら国家に反旗をひるがえすつもりだぞ。
その場合、人質のシュリアがどういう扱いを受けるか。
「トモキ殿。頼みというのは、王都までシュリアを送って行ってもらいたいのだ。もちろんほかにも護衛はつける。だが、安全な道ばかりでもない。トモキ殿に一緒に行ってもらえれば安心だ」
なるほどな。
シュリアを人質に出すついでに俺という人間の処分もできるし、ってわけもありそうだ。
なにしろ、勇者をぶっとばした真犯人は俺だしな。
王都に着いた途端、俺が処刑されるってこともありそうな話ではある。
でもまあそうするしかないか。
ほかに取りうる選択肢としては、俺がこの力を使って目の前にいるデールをぶっとばし、この土地を占拠、シュリアを傀儡の領主として実験を握り、王国に対抗する。
……うーん、長期的に見てあんまりいい結果にならなそう。
しゃーないなあ。
「わかりました。デール卿の言う通りにしましょう。とすると、あの馬車では小さい」
「わかっておる。シュリアが乗るのだ、もっともよい馬車を用意しよう。城塞都市イマルまでの道と違って、王都までの道は整備されているからな」
俺がデールとの話を終え、執務室を出ると、そこにはココが待っていた。
さて、もう一つの問題はこれだ。
ココは俺に目も向けずにツーンとしている。
「あら、お話合いは終わったのですの。で、どうすることにしたのですか」
いつもよりちょっと声のトーンが低い。
信仰心がFになったからなあ。
どうしようかなー。