第39話 ひっぺがす
「うう……」
俺に魔力を吸い取られた人たちが、頭を押さえてみなうずくまる。
魔力を使い果たしたことの副作用だ。
俺はそれを無視して、人差し指に心を集中させる。
人差し指の先に、直径五センチくらいの球体が形作られた。
それはキラキラと青く光っている。
狙いをしっかり定める。
FPSをやっていたこともあるので、弾道を頭の中で予測して、セレスティアの頭上、すこし上のあたりを狙い――!
「行けぇ! モルムムハンマー!」
噛んだ瞬間、バシュッ! という音とともにそれは発射された。
彗星のように尾を引いて飛んでいくそれは、セレスティアにまっすぐ向かっていく。
セレスティアはちょうど俺に対して背を向けていた。
ガルアドの攻撃を受け流し、コールドブレスを吐こうとしていたところだった。
だが、俺の攻撃に気づいていたのだろう、セレスティアはグルンと人形のように首だけ180°回転させ、
「クワァァァッ!」
と、俺の発射したミョルニルハンマ―弾をブレスで迎え撃とうとする。
「隙を見せたなあ!」
ガルアドがそのチャンスに斬りかかる。
が、なんとセレスティアは両腕を交差させクロスガード、つまりその剣を小手もつけていない腕で受け止めた。
同時に、
「ガハァァァァァッ!」
と、凍てつく吐息を弾丸に向かって吐く。
くそ、もしかしたらこの攻撃、防がれるのか?
防がれたとして追撃できるか? ほかに誰か魔力の残っている奴はいないか?
瞬時のうちにいろいろな考えが頭の中をめぐる。
ほとんど無意識のうちに、俺は叫んでいた。
「跳ねろぉぉぉぉ!」
とたんにミョルニルハンマー弾は対戦車ミサイルのようにポップアップ、急角度で上方へと軌道を変える。
ものすごい勢いのコールドブレスは、ギリギリのところで弾丸にあたらず、そのまま俺たちの方へと向かってくる。
やべ、もう魔法障壁が……。
と、そこで、俺に抱き着いてくる誰かがいた。
ココか?
そう思ったが、押し付けられる胸の大きさから言って別人だ。
「トモキ! 私の魔力を使って!」
シュリアだった。
彼女は馬上の人だったので、さっきの人の輪には加わっていなかったのだ。
「助かるぜ! シャイニングアンブレラ!」
これは噛まずに言えた!
そのおかげか、俺の目の前に巨大な光の傘が出現した。
コールドブレスをなんなく防ぐ。
その間にも俺は発射した弾丸は空高く上空まで飛び――そしてほぼ垂直にものすごい勢いで落ちてくる。
「クァァァ!」
セレスティアはガルアドを弾き飛ばすと、またクロスガード。
俺の弾丸を腕で防ごうとするが。
ガギョオン!
という不快な音ともに、光球はセレスティアの腕を貫き、頭頂部を砕き、身体の正中線を通って股間まで貫通し、ズボッ! と地面に突き刺さった。
「………………」
声もなくゆっくりと倒れていくセレスティア。
身体能力 SSS⇒N/A
▲ S⇒N/A
■ SSSS⇒N/A
魔力 SS⇒N/A
信仰心 K⇒N/A
死んだっ!
殺したっ!
よし、やったぜ!
それを見て、ダグロヌやキラーウルフのようなザコモンスターたちは慌てて穴の中へと退却を始める。
「勝った……」
だが、戦いはまだ終わっていない。
そのことは、俺も、ヤツもわかっていた。
ブレイブドラゴンの背に乗ったガルアドが、今度は俺めがけて一直線に飛んできたのだ。
「やはり貴様は生かしておけん! 我が覇道の邪魔となるッ! オオオオオォォォォッ!」
ガルアドは大声で咆哮する。
「奇遇だな! 俺もそう思っていたぜ!」
奴隷を殺してパワーアップする勇者など、奴隷ごと世界を救いたい俺の目的の邪魔にしかならない。
ここで再起不能にしておきたかった。
「ココ! 出番だ、来い!」
「はい!」
ココはまだ俺に抱き着いてきていたシュリアをひっぺがすと、思い切り俺を抱きしめてきた。
さあ、もうひと勝負だ!




