第38話 そうだ、それでいい
俺の叫びは混乱した戦列や奴隷たちの声にかき消されそうになったが。
そこで、シュリアも叫んだ。
「みんな! 聞いて! 聞いて! トモキ……救世主様が、テネスの女神様から神託を受けた救世主様が! みなに命じているわ! キャルル領が信じるべき神はテネス様よ! 勇者の称号を与えたリューン様じゃないわ! みんな! テネス様のお言葉よ!」
途端に、みな口をつぐんでシンとなった。
そしていっせいに俺の顔を見る。
いくつもの目が、怒りや驚きや恐怖や不安や悲嘆、さらにはほんの少しの希望の感情が入り混じった目が、百を超える数の目が、俺を見た。
こんな大勢になにかを語りかけた経験なんてない。
一瞬、心臓がドキンとした。
だけど。
俺はみんなの、奴隷たちも含めたみんなの命を救わなければならない。
その責任と力が、俺にはある。
「みんな、聞いてくれ! 生と死を司る女神、テネス様は! 奴隷も含めた誰の死も望んでいない! だから、テネス様は俺に力をくれた! 誰も死なずにすむ力を!」
この村において、俺は数々の奇跡を起こした。
ダークドラゴンを倒し、瀕死の村人を何人も救い、倒壊した家々すら直した。
今もまさにセレスティアの攻撃からみんなを守っている。
俺の言葉を疑うものなどだれもいなかった。
皆は俺の顔を見ている。
俺もみんなの顔を見まわす。一人一人の顔をしっかり見つめて、そしてその頭上を見た。
並ぶステータス。
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
信仰心 S
……
…………
………………
ほぼ全員だ。
ほとんど全員の信仰心がSだ。
ならば、いけるはず。
一人一人の魔力はココよりもはるかに低い。
だけど、それが何十人も直列に連なれば。
きっと。
「みんな、手をつないでくれ! 騎馬以外の人たち全員だ! 決して離すな! アリア、俺の手を握れ! そこの人、アリアの手を握ってくれ! そうやって全員の手を握るんだ!」
騎馬を除いたのは。
この領地の領主、デールとそのお付きの騎兵だけが、
信仰心 A
だったからだ。
彼らはダークドラゴンの襲撃の際、俺の力を間近には見ていない。
だから、仕方のないことだ。
ま、3分後にはSになっていると思うぜ。
だってさ。
こんなにもたくさんの人が手をつないでいる。
「奴隷もだ! 奴隷も自由民も関係ない! 全員だ! 全員手をつなげ!」
奴隷も含めると百人を越える人数が、手を握り合った。
タルミたちを前に押し出してきた村人が、今はタルミの手を握っている。
「そうだ、それでいい」
そうだ、それでいい。
俺は右手をいまだガルアドと闘っているセレスティアに向ける。
「ちょっと待ってくださいませ! なぜ私はのけ者なんですの? 私もトモキさんと手をつなぎたいですわ!」
ココは困惑の表情で言う。
「いや、お前は俺の切り札だ。なんならそこに横になって昼寝でもしておいてもらいたいくらいだ。お前の力は別で使うからな」
そう、俺の敵は一人だけじゃないからな。
俺は50メートル先のセレスティアを指さし、狙いを定める。
ええと、どうしようかな。
なんかこう、かっこいい呪文の名前ないかな。
えーとえーと。
そうだ、ミョルニルハンマーとかかっこいいよな。
これで行こう。
そして叫んだ。
「ミョリュミリュ……」
噛んだ。
だが。
キュキュキュキュイーーーーーン!!
鼓膜が破れるほどの音がして、村人たちのステータスが一気に変化した。
魔力 S⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 E⇒ENP
魔力 C⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 E⇒ENP
魔力 E⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 E⇒ENP
魔力 F⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 E⇒ENP
魔力 F⇒ENP
魔力 F⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 F⇒ENP
魔力 D⇒ENP
魔力 C⇒ENP
魔力 D⇒ENP
……
…………
………………
……………………




