第33話 勇者ガルアド
いや、三人が飛び降りてきた、というのは正確じゃない。
二人を両脇に抱えた男が、一人で飛び降りてきたのだ。
そいつはすごい高さから飛び降りてきて、ずぅんと音をたてて着地した。
でかい。
身長2メートルくらいあるんじゃないか?
ムキムキのゴリマッチョだ。
まるでヘビー級の格闘家をさらにひとまわりデカくしたみたいだ。
この身長でこの体格だと、体重140キロくらいありそうだな。
ひげ面で青色に輝くガラス質の肩あてと肘あてを身に着けている。
腰にぶら下げているのは、普通の人間には扱えなそうな巨大な剣。
そいつは、両脇に抱えていた男二人をぽいと地面に投げ捨てる。
その二人の男もけっこういい身体をしているけど、さすがにゴリマッチョほどじゃない。
そしてふたりとも、胸に奴隷の刻印が彫られているのが見えた。
馬上のデールが目を見開いて驚いている。
「あなたは……。勇者ガルアド殿ではないか。勇者の称号の授与式でお会いしたことがある」
ガルアドはニィッと不敵な笑みを浮かべて、
「ほう……。俺は覚えていないが、授与式で俺とあったということは貴族……この土地の領主殿かな? そうだ、俺が勇者ガルアドだ」
その頭上にはステータスが見えた。
身体能力 S
▲ S
■ S
魔力 A
信仰心 E
そしてガルアドは俺の方を見て言った。
「そこの魔法使い! さきほどの魔法、見たぞ! なかなかやるな! 俺の見たところ、お前の魔法の威力はこの国随一だろう! だがな、あんなザコモンスター相手には魔力がもったいないぞ。ザコは兵卒どもにまかせ、魔王軍の幹部クラスのために魔力をとっておけ!」
俺の頭の中で警報が鳴り響いていた。
勇者……。
この世界での勇者ってのがどんな立ち位置なのかは知らない。
だが、こいつはやばい奴だ、という直感がしたのだ。
「お前のような魔法使いは貴重だ。強大な敵でもその魔法で打ち倒せるからな。だが、魔力に頼る魔法使いは魔法の連発ができない。汎用性に欠ける。やはりな、戦場では俺のような勇者がもっとも強い! 見ていろ!」
しかし、ガルアドのステータスは……たとえば、ダークドラゴンのステータスだと信仰心以外すべてSSSだった。
そりゃ一般の兵士よりは強いのだろうが、ダークドラゴンクラスに比べると低いのでは?
そう思ったときだった。
「領主殿! モンスターからこの土地を守るため! 俺はこの土地の奴隷全員を買い受けるぞ! 金品は支払う! 相場の5倍払おう! いいか?」
「うむ……私もあなたの力は知っている。奴隷でこの土地が守れるならばいいだろう。皆の者! 領主として命じる! 奴隷たちを勇者殿に差し渡せ! その代わり、奴隷の値段の5倍の支払いを約束する!」
いったい、何が起こっているんだ?
奴隷を集めて何をしようとしているんだ?
ガルアドはニヤリと笑って、
「では集めておいてもらおう。その間に、ひとまずあいつらを殺してくるぞ」
そして、自分が連れてきた男の奴隷の髪をひっつかんで立たせた。
二十代くらいの、腰布しかつけていない奴隷。
彼は俺の方を見て、口を動かした。
「助けて……」
次の瞬間、ガルアドがその太い腕で奴隷のみぞおちにパンチを入れた。
髪をつかまれてぶら下がるようになっていた彼は、その打撃の勢いで身体ごとサンドバッグのように揺れた。
「ごああああっ!」
吐しゃ物を吐き散らしながら苦しむ奴隷。
「や、やめ……ゆる……」
「世界平和のために犠牲になれぃ!」
ガルアドがもう一発奴隷にボディブローをくらわす。
なんだよ、いったいなにが起こっているんだ!?
奴隷のステータスが変化する。
身体能力 A⇒N/A
▲ B⇒N/A
■ B⇒N/A
魔力 D⇒N/A
信仰心 C⇒N/A
は? は? は?
死んだ?
死んだぞ?
殺したのか、勇者が、奴隷を殺した?
そして次の瞬間、キュイーン! と音が鳴り、ガルアドのステータスが変化した。
身体能力 S
▲ S
■ S⇒SSSSS
魔力 A
信仰心 E
こいつ!
こいつの能力は……。
まさか……?
「くくく……ははははは! この俺、勇者ガルアドが! 魔王を倒し、この世界を救うのだぁ! 来い、我が友、センリューダよ!」
上空を旋回していたブレイブドラゴンがガルアドの前に舞い降りると、ガルアドはその背に乗った。
「見ておけ、田舎者どもよ! これが勇者の力だ!」




