第28話 34連勝
「ココ、いる? トモキ様が来たわ。開けるよ?」
部屋にドアはなく、入り口には粗末なカーテンが掛けられていた。
少しでもかわいく見せようとしているのか、カーテンにはかわいらしい花の刺繍がいくつも縫い付けてあった。
奴隷相手だからだろうか、ニッキーは返事も聞かず、無造作にカーテンを開ける。
着替え中とかだったらどうすんだ、と思ったけど、つまりこの世界で奴隷には人権がないんだから着替え中だろうがどうだろうが関係ないんだろうな。
この価値観に染まってしまわないようにしたいなあ。
そこは、とても狭い部屋だった。
畳三畳分くらいの、細長い部屋だ。
動画でこういう部屋を見たことある。
ドヤ街の一泊500円の安宿とそっくりな間取り。
こんなとこに暮らしていたのか……。
ドアはなく、カーテンのようなもので仕切られているだけ。
隣の部屋と仕切る壁は、ベニヤ板みたいに薄い。
こんなんじゃ、プライバシーなんてなにもないに等しいな。
壁には何か絵が描いてある。
あまり上手じゃないが、女性の絵だ。
手にはトウモロコシみたいなのを持っている。
ココが描いたんだろうな。
トウモロコシ女神の夢を何度も見たと言ってたからな。
それだけがココの心のよりどころだったんだろう。
そしてこの部屋の主、つまりココは。
粗末な布団の上で正座して、困惑の表情を浮かべていた。
ちなみに俺も困惑した。
だって、ココの向かいにはもう一人の少女――水色の髪の毛をした、アリアが同じように座っていて、彼女は素っ裸だったからだ。
ココとアリアの間には、古ぼけた紅茶のカップが一つ、置いてある。
そしてアリアは両手で顔を覆って「うっうっ……」と泣いている。
いやまで、それだと全裸が丸見えなんだが……。
いろいろと出るところが出ているココと違って、小柄でなんかしゅっとしてる体型だな。
胸とかなめらかな曲線を描いてはいるけど、大きさはほんのり膨らんでるかな? くらいで、なんつーか十七歳には見えない。小学生みたいな体つきだな。
まー、さきほども言ったが俺は普通にスケベなのでガン見してしまった。
ここで瞬時に顔を背けるほど俺の情欲は弱くないのだ、残念なことに。
とはいえまあ少しは倫理観は持っているので、俺は5秒間ほど凝視してその姿を脳内SSDに保存したあと、後ろを向いた。
「……なにしてんの?」
俺の問いに、ココが困ったような声で答える。
「あの……この方が、サイコロ遊びしようって……。勝った方が自分の持ち物を相手に一つ上げるってルールで……。そしたら、私、34連勝してしまって……。あのこれ、どうしましょう?」
これと言われても俺は後ろを向いているのでわからん。
と、ニッキーがそれを受け取って、俺の目の前でピラピラと振って見せた。
「これだそうですよ。……あきれたもんです……」
それを見て俺もあきれた。
どう見ても、それは、女物のショーツだったからだ。
奴隷のものにしてはまあまあ綺麗だな。
リボンの飾りまでついちゃって。
っていうか。
「ココ、もらったもの全部返せ。アリア、服を着ろ」
ギャンブル狂いの奴隷、アリアは、最高にギャンブルが弱いようだった。
アリアが服を着てくれたので、やっとまともに話ができるようになった。
「ここが、お前の部屋か」
俺はココの部屋の中を見回す。
壁には女神の絵、けっこう几帳面な性格みたいで、狭いながらもよく片付いている。
ま、片付くも何も、荷物といえば着替えくらいなものだけど。
北向きの部屋で窓もなく、日光が当たらないからか、少しカビくさいな。
奴隷の部屋としては上等なのかもしれないが……。
「恥ずかしいですわ……。貴族の娘としてはやや狭い部屋ですから……」
アリアがまた顔を覆った。
「うっうっ……奴隷のくせに自分を貴族とか言って……。こんな頭がどうかしてる子、絶対勝てると思ったのに……。まさかパンツまで取られるとは……」




