第26話 永久不妊魔法
アリアの信仰心はC。
正直、条件には合わない。
ただ、この信仰心ってステータスは可変で、魔力は俺が知る限り不変だ。
魔力はアリアの方が高い。
もし、アリアときちんと人間関係を結んで、俺への信仰心がSになれば、強力な味方となってくれるだろう。
でもなー。
必ずそうできるとも限らないし。
だったら、魔力Sのアリアじゃなくて、魔力Aだけど信仰心がすでにSのアルドルを選ぶべきか?
でも魔力の大きさはなー。
それは素質だってシュリアが言ってた。
ってことはきっとこの先も変わることはそうないだろうし。
この先、もし長く一緒にいるのなら、魔力は高い方がいいよな。
ただ、身体能力は間違いなくアルドルの方が高い。
なにか危難があったとき、物理で役に立ってくれるのはアルドルだろう。
うーん……。
でも魔力が……。
「デール卿、二人っていうのは……?」
「それだと馬車の大きさが足りない。コバヤシ殿が今から行く道はそれ以上の大きさの馬車だと厳しい場所がある。馬車を使わないとなると徒歩か馬だが……」
もちろん、俺は馬には乗れない。
こっちに来てからちょっとは練習してるけどさ。
で、徒歩か。
徒歩だと、荷物も背負うことになるよな。
そんな状態で徒歩で320キロ……?
自衛隊かよ。
正直、一番最初に脱落するのは俺な気がするなあ。
じゃあ、一人だけ選ぶしかないか。
デールが俺に言う。
「一つ、アドバイスはしておこう。馬は、軽い方が疲れない。そして、食糧を消費する量は身体が小さい方が当然少ない。だから、小柄な女性の御者方が長旅には有利だ。しかし、今このご時勢だからな。道中なんの危険もないとは言えない。山賊や野盗がいるかもしれない。奴隷は魔法を使えないのだから、戦力としては身体を鍛えている男の方がよい。どちらを選ぶかは、コバヤシ殿の判断だな」
「ちょっと、悩ませてください」
うーん、どうするか……。
そうだ、これも聞いておこう。
「俺が女の方を選んだら、デール卿は男の方を買うんですか……?」
「そうだな、使えそうじゃないか。ただ、私がコバヤシ殿であったなら男の方を選ぶがな」
「じゃあ、俺が男の方を選んだら? 女の方を買いますか?」
「いや、今欲しいのは力仕事できる奴隷だからな。小間使いは、ほら、こないだ買った三人の子供の奴隷たちにやらせればいいし、足りてるのだ」
と、なると……。
ふと、とある村人が奴隷商人に話しかけているのが聞こえてきた。
地主で、村人の中でも裕福な方の腹の突き出たおっさんだ。
「おい、もしあの水色の髪の奴隷……売れ残ったら、あとで裸見せてもらえるか? ……あいつ、あれか、処女か?」
「はい、処女ですぜ……。げっへっへ……」
「オプションで永久不妊魔法をかけられるか?」
「もちろん、おまかせください……げへへ……追加で金貨一枚いただきますぜ……」
ふーん。
なるほどなあ。
なるほどね。
そういうことね。
へー、永久不妊魔法なんてものもあるのか。
ほー、それを女性の奴隷にかけるのか。
……なんの目的だろーなー。
まだ十代の俺にはさっぱりわからんぜ。
デールに買われれば……まあ、奴隷に寛大なシュリアもいるし。
シュリアの奴隷だったココはひもじそうなとこみたことないし。
労働はきついみたいだけど、ココのあのようすからして、悪いようにはされないよなー。
キャルル家にはほかにも奴隷がいるけど、男女ともみんな元気そうだったしな。
ふーん。
ま、そんなことは俺の判断材料にはならないけど。
俺自身が得する選択をすべきだ。
と思っていたのに、勝手に口が動いていた。
「よし、こっちの女の方を買おう。アリア、お前は今から俺の奴隷だぞ」
地主の男がチッ、と舌打ちをした。
うるせえ、お前ごときの性処理道具にさせてたまるかよ。
デールも欲しかった男の奴隷が手に入ることになって嬉しそうだ。
さっそく書類にサインをしている。
そして、俺は選択する前にすべきだった質問を、買うことが決まってからアリアに聞いてみた。
「で、お前は生まれながらの奴隷か?」
「違う。ボクは自由民だった」
女性にしては少しハスキーな声で答えるアリア。
おっと、こいつボクっこか。それに、自由民だったのか。
「なぜ奴隷に?」
「ギャンブルにはまって家も土地も全部失って自分を売った」
「ギャンブル?」
「カードゲーム……サイコロ……ふふ……最高に楽しかったなあ……。楽しすぎて死んでもいいと思ってずっとやってたら死ななかったけど奴隷になった」
俺はデールに言った。
「あの、やっぱ変えていいですか?」
「もう駄目だ、金も払ったしサインもしてしまったぞ」
やばい、失敗したかもしれん……。