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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第23話 身分制度

「ないわ」


 シュリアは言った。

 次の日のお茶の時間、さっそく俺はシュリアに聞きに行ったのだ。

 


「奴隷の刻印ってのは、魔法と一緒に身体に彫り込むものなの。それを消せる方法なんて、聞いたことないわ」


 熱い紅茶をフーフー拭きながらシュリアが言う。


「ケーキをどうぞ」


 メイドのニッキーがケーキを持ってくる。

 あれ?

 シュリアのより、俺のケーキのほうがでかくてクリームがたっぷりだ。


 ニッキーは「ふふふ」と笑うと、


「命を救っていただけたんですもの。救世主様には特別製のケーキです」

「えーずるい!」


 シュリアは駄々をこねるように言うと、ニッキーはやさしく笑った。


「いいえ、姫様。やはり、救世主様は私にとって特別な方ですもの。姫様も、魔法の勉強をもっといっぱい頑張ったら特別製のケーキをつくりますよ」


 俺はケーキを一口ほおばる。

 うん、うまい。

 ニッキーの料理の腕は一流だからなあ。


「なあ、ニッキー。実は、お前を治療したのは俺の力だけじゃなくて、ココにも協力してもらったんだ。だから、これからは、ココにも今まで以上に優しくしてやってくれ」

「聞いてますわ。だから、ココにはたまにお菓子を差し入れてますわ。奴隷の身だと、お菓子なんてめったに食べられませんからね」


 まあ、それなら良かった。

 あの年齢の少女なら、甘いものは大好物だろう。


「で、シュリア。奴隷のことなんだが」

「そうね、トモキはこの国にきたばかりで、奴隷制度についてよくわかってないわよね。説明してあげるわよ。まず、この国の身分制度からよね。この国の元首はもちろん女王陛下よ。女神様の子孫である血筋の方が代々王座を継いでらっしゃるわ」


「それって、男系? 女系?」


 一応この国の基礎知識だからな。いろいろ聞いておきたい。


「どちらも認められているけど、女系のものが王座に座るにはその父系が王に連なっている必要があるわ。臣籍降下された貴族もいらっしゃるからね」


 ここで言う臣籍降下とは、王族を離れて臣下の身分になるってことだ。

 日本でも源氏とか平氏とかがそれにあたる。もともとは天皇の子孫なのだ。

 つまり、女王の子どもが王になるには、その父親、つまり女王の配偶者が、父系で王の血を引いている必要がある、ということだな。それは王族に限らず、王を男系の祖先に持つ貴族ならOKってことだな。


「じゃあ、今の女王陛下の王配殿下も王を祖先に持つ貴族様ってこと?」


 王配殿下ってのは女王の旦那さんのことだ。

 俺の質問に、シュリアはおかしそうに笑い始めた。


「あはははは! 女王陛下はまだ13歳でいらっしゃるわ。即位してからちょうど一年だけど、まだまだご結婚なんてお話は聞いてないわよ」


 そうか、まだ女王陛下は幼いんだな。


「それで、女王陛下の次に、王族がいらっしゃって、その下に貴族がいるわ。白金等級、金等級、銀等級、銅等級、そして等級なしの五つの段階に分かれてるの。私の家は銀等級よ。もともと、魔法が使える者で国家に貢献した者が貴族として認められていたのだけど、それは歴史の最初の方だけで、今はほとんど世襲ね。といっても、結局は魔法の才能ってほとんど遺伝だから、貴族には魔法を使える者が多くいるわ。魔法教育も貴族の方がしっかり受けられるしね。もちろん、庶民の中にも魔法を使える者は少数だけどいるのよ」


 そうだな、俺が村人たちのステータスを見たときも、魔力Bの人は何人かいた。

 そもそもガルニだって魔法を使ってたけど魔力はDだったしな。


「で、奴隷。これはもう、奴隷の刻印を彫られた者、ってことに尽きるわね。昔なら国家に叛逆した人間とその子孫とか、今だとお金に困って自分を自分で売って奴隷になる者までいるわ。そして……奴隷ちゃんみたいに孤児になった人とかね。奴隷は物品と同じ扱いだから、その処分権は所有者にあるの」


「刻印って具体的にどういうものなんだ?」


「そうね、魔法を込められた特殊なインクで胸に魔法文字で彫られるのよ。魔封じの刻印とも呼ばれて、それを彫られた人間は魔法を使えなくなる。国家への反逆を封じるために始まったものだけど。だから、あの奴隷ちゃんも魔法は絶対に使えないの」


「で、奴隷も世襲?」


「そうね。奴隷の子は奴隷よ。当たり前のことだわ」


 21世紀の日本国民だった俺には全然当たり前のことじゃないぞ。


「奴隷の身分から離れるにはどうしたらいいんだ? その刻印は消せないのか?」


「無理ね。かなり昔に確立された、すごく強固な魔法だもん。あの刻印を消せたなんて聞いたことないわよ。あれ、胸の皮膚を剥いでも、また別の場所に浮かび上がるのよ。死ぬまで逃げられない、永遠の刻印なのよ」


 ふーん、ひどい話もあるもんだ。


「絶対に絶対に消せないのか?」

「いや、そこまで言われたら……。世の中に絶対はないかもだけど……。たとえば、筆頭宮廷魔術師のシャイア閣下とか、その部下の天才魔術師の……なんだっけ、メールエさん? だったかしら、そういう国家の超一流魔術師なら、どんな呪いの魔法でも解けるっていうから、可能なんじゃないかしら。そんな身分の高い人がわざわざ奴隷ごときの刻印を消すなんてことしたことないとは思うけど」


 奴隷ごとき、か。

 まあその辺の価値観は今はどうこう言わないでおこう。

 今は、な。


「じゃあ、その宮廷魔術師に会えないかな? シュリアや、父上のデール卿のツテでなんとかならないかな」


「まさか……あの奴隷ちゃんの刻印を消そうとしてるの!? べつにいいじゃない、今、あの子はあんたのもんなんだし。別にどうしようがトモキのしたい放題だし、あのままでいいんじゃないの。邪魔になったら殺しちゃう人までいるくらいなんだから。……ま、もしそうなったら私が買い戻すから、簡単に殺すとかしないでね」


「そんなことは絶対しないよ。約束する。あの子を俺が傷つけるなんて絶対しない」


 シュリアはジトッと俺の目をしばらく眺めてから、


「ふーん。いいこと言うじゃない。私も、奴隷をいじめるのは好きじゃないのよ。好きじゃないのを通り越して嫌いなの。あの子だって、変なとこはあるけど、昼間は一生懸命働いてくれてたわけだし、ね」


 シュリアの優しさと、その差別意識の強固さが同居している状態を見て、俺は改めて『世界を変えてやる』と決心した。


「ちょっとお父様にお願いするだけしてみるわ。なんたって、トモキは村の英雄なんですもの」


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