第19話 なにがほしい?
広いウッドデッキテラスで、俺たちはお茶を飲んでいた。
俺の向かい側にはシュリアとミラリスが座っている。
俺の隣にはココも座っている。
いつでもココと手をつなげる距離にいたいからな。
いつなんどき、またあのダークドラゴンみたいなのが村を襲ってくるかわからんし。
ガルニは渋い顔をしていたが、シュリアは、
「たまには奴隷ちゃんとお茶するのも悪くないわ」
とか言って許してくれた。
ココの椅子だけちょっと粗末なもので、そこはやはり区別をつけるということだろう。
そう。
俺はあれから一ヶ月かけて、シュリアの屋敷はもちろん、村の家々も直して回った。
いまじゃ、ドラゴンの襲撃前と変わらない程に復興している。
焼かれた畑も、作物まではさすがに再生できなかったが、ドラゴンのブレス攻撃に含まれていた可燃性のなにかを土から除去することができた。
そんなわけで救世主としての俺の名声は村の中でうなぎのぼりだ。
「それで……トウモロコシをかじった女神様? その方は、自分でテネスと名乗ったのね?」
シュリアの問いに、俺は答える。
「ああ。俺は別の世界で一度死んだんだ。そのテネスって女神のミスとか言ってたけど……。で、あの湖の上に転生させられたんだ」
「そう……。聖典に書かれている通りね……。『世が乱れるとき、女神が他の世界の人間を蘇生させ、この世に顕現させるだろう。彼は空中から湖に入り、水で身体を清めたあと、人々の前に現れる。彼はまさに救世主である』って、聖典にあるわ」
それはガルニも前に言っていたな。
「じゃあほんとにトモキは救世主なのね……。あの力を目の当たりにしたら、そうとしか思えない。この家も元通りになっているし、ほんと、嘘みたい……」
ま、この家は馬小屋と違って大きかったから、ココの魔力をもってしても数日かかったけどね。
「トモキ、あなたがいなかったらこの村はおしまいだったわ。いえ、この村だけじゃない。ほら、あの山を見て」
シュリアが東の方向を指差す。
小麦畑の向こう側には高い山脈が連なっている。
「あの山があるでしょう? あそこまでの土地は、全部お父様のものなの。ここだけじゃなく、たくさんの村があるわ。あなたがあのダークドラゴンを倒してくれなかったら……きっと、お父様の土地は全部焼き払われてたかもしれない……。お礼のしようがないわよ」
「お礼なんかいいよ。俺はただみんなを助けたかっただけだ」
ほんと、そうなんだよな。
誰かを助けられたときってさ、なんかすごい達成感がある。
そしてそれは、俺の力だけで成し遂げたことじゃない。
「ココの魔力のおかげだ。ココだけじゃない、シュリアにも手伝ってもらったし、ほかの村の人たちにも魔力をわけてもらった。だから、ここまで村が復興できたんだと思う」
「魔力があっても魔法技術がなければなんの意味もないわ。トモキの力があってこそよ」
そこに、ココが力強く言った。
「そのとおりです! 救世主様……じゃなかった、トモキさんの力のおかげです! 私の魔力なんていくらでも使っていいですわ。トモキさん、ご領主様がお戻りになったらたくさん報奨をもらうべきですわ!」
シュリアも頷く。
「そうね、私からもお父様に言っておくわ。ね、トモキ、なにがほしい?」
「そうだな……」
俺は考えるフリをする。
実は、そういう話になったらねだるモノと言ったら一つしかないと決めていたのだ。
「ココをくれ」
そう言って、チラッとココの顔を窺う。
ココの表情は、まったく予想外のものだった。