月の話
知り合い数人で「月をテーマにお話を書こう」ということになり、これができました。
眠りの底からゆっくりと浮き上がってくる。ああ、また喚ばれている。無意識の底でそう感じて、意識が覚醒へと寄っていく。ああ、わたしはまだこの微睡の中を漂っていたいのに。微かに、でも確かに私を喚ぶ声がする。冷たい明るさを瞼に感じ、うっすらと目を開ける。僅かに空いたカーテンの隙間から硬質な白い光が覗く。
窓際によって僅かにカーテンを開ける。月は皓皓としている。
「 」
ああ、まただ。私を喚んでいる。ゆらり。月がその形を揺らす。見上げれば、月は徐々にその色を青く変えていく。ふわり。心が浮かぶ。月の光が揺れるにつれ心も揺れる。そうして月が青一色になったとき、私は自分の部屋ではない場所にいることに気づく。
「来たな」
貴方が言う。青い月光に貴方の青銀の髪が光る。その麗しい外見に思わず心が跳ねる。ああ、貴方がこんなにも美しいから、私は来たくなかったのに。それなのに喚ばれてうれしいと感じてしまう自分がいる。喜んでいることを知られているけれど、表面には出さないようにしてぶっきらぼうに問いかける。
「今度は何?」
貴方は面白そうに言葉をかけてくる。
「随分な挨拶だな。召喚獣の分際で。」
カッとなって思わず言い返してしまう。
「それよ、それ。召喚獣ってなんなのよ。召喚獣って。私はれっきとした人間だわ。」
言い募る私をなだめるように彼は言う。
「仕方ないだろう。召喚したものは召喚獣としか呼ばれないんだ。人間が喚ばれるなど、聞いたことが無い。」
私は苛立ちをにじませながら応える。
「ええ、ええ。何度も聞いたわ。それでも、納得できない。」
彼はそんな私の葛藤など知らぬ風で、私を喚んだ訳を告げる。
「今日喚んだのは他でもない。前回の出来が良かったから、更にもう一歩踏み込んだものを頼みたい。」
私はとうとう我慢しきれずに大きな声を上げてしまう。
「だから、どうして召喚されてやることがあんたの課題のレポートなのよ。召喚って言ったら聖女として浄化するとか勇者として魔王を倒すとかじゃないの!?」
彼は笑って言う。
「そんな御伽噺みたいなこと、あるわけないだろう?随分と君は夢想家なのだな。」
「召喚自体がファンタジーでしょうが!」
だが何を言っても召喚に浮かれ、彼の顔に惹かれ契約を結んでしまった自分が悪いのだ。今日も又社会福祉に関するレポートを仕上げ、気づけば部屋に戻っている。二度と行くものか。そう思うが、喚ばれれば行かざるをえないことを私は知っている。
どうしてこうなった……