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第12話 疑惑

 安堵した俺だったが、ケイ子さんは疑念の目を俺に向け始めていた。


「それにしても君、E級の割に強いね? あの川口ってガキは一応D級なんだけど。そもそも地竜との戦いで生き残ったのも驚愕だ。普通なら最初の一撃で死んでいる」


 ……マズいな。何とか誤魔化さないと。


「……地竜の時は無我夢中でした。あと川口は俺に気づいていませんでしたから不意を突かれたんでしょう」

「君の言い分は分からなくもないが、2度も格上に勝つのは不自然だ」


 彼女の追及は止まらない。

 困った俺を助けようとでもしたのか、琴美が叫んだ。


「私が悪いんです! もうこうなったら腹を切――」

「甘ったれたことを言うな!」


 天然なのか計算なのかは不明だが、切腹騒動を起こそうとした琴美をケイ子さんが叱りつける。


「前回もそう言って職員を困らせたそうだね? 謝罪のために腹を切る? アンタら子供たちを守るために大人は必死に戦ってるんだ! 軽々しく死ぬなんて言うんじゃない!」


 その説教に琴美は随分とショックを受けたのか、顔が真っ青になっている。

 クソ! やはり高位探索者は隙が無い!


「……で、話の続きだ。とにかく、君の強さは等級と釣り合っていない。これはどういう事かな?」


 そう言って、彼女は俺をじっと見つめる。

 その威圧感に思わず俺は目を背けそうになるが、シルヴィの叱咤が俺を支えてくれた。


(ざぁこ。そんなんでビビるんじゃないわよ! 何も悪いことはしてないんだから堂々としてなさい!)


 俺は黙ってケイ子さんの目を見つめ返した。自分には何もやましいところはない。

 シルヴィの言う通り、恐れることなど何もないのだ。


「……」

「……」


 沈黙が続いた。長い長い沈黙だ。

 先に口を開いたのはケイ子さんだった。


「……ま、いいでしょ。何か思惑があるようだけど、別に力を隠すのは犯罪じゃないしね」


(彼女、アンタが密かに努力して力を付けていると勘違いしてるわよ。サイキックが空想の世界にしかない文明だから無理も無いけどね)


 ほっとした。俺は正真正銘の無能力者だが、シルヴィは俺のデータを改ざんしている。下位適合者が密かに魔物狩りに精を出し、レベルアップを隠していると思ったのだろう。


「とにかく、君たちももう行きなさい。力の使い方、見誤るんじゃないよ」 

「はい。助けて頂きありがとうございました。……琴美、行くぞ」

「……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


 安堵する俺に対して琴美はしょげかえったままだ。よほど説教が堪えたらしい。

 俺たちは足早にダンジョンを抜け出すと、家路についた。

 琴美は電車の中でも黙ったままだった。


● SIDE:リコ


 事情聴取は少し時間がかかったけど、警察の人は私の話を全面的に信用してくれた。


 川口は似たようなことを何度か行っていたらしく、私のような被害者が何人もいたそうだ。


 元々は栗田君に勧められて探索者になったけど、彼に借りていた装備を壊してしまって弁償する必要が出てきてしまった。その装備は思った以上に高額で、私は目の前が真っ暗になった。


 彼は川口のサポートをしてくれれば、お金は返さなくてもいいと言ってくれたけど、いつしか引き返すことが出来なくなっていた。川口に半ば強制的にギャル風のイメチェンをさせられたのだ。


 ハッキリ言ってこんな格好、趣味じゃなかった。

 渋谷にいくのも憂鬱だった。


 そんな時に、大友君に出会ったのだ。

 

 大友君とは一年の時同じクラスで、彼は私同様に目立たない子でいつも物静かに本を読んでいた。


 昔から引っ込み思案で大人しかった私は、密かにシンパシーを感じていたのだ。

 勿論、彼に話しかける勇気はなかったけど、一度だけ大友君が話しかけてくれたことがある。


「……その本、フレデリカのワープゲートでしょ? 黒田さんもSF好きなの?」

「え!? ええと、私、たまに普段読まないジャンルを読むことがって適当に……」

「そうなんだ。それ面白いよ。いつかワープ技術が実用化できたら宇宙人を探しに行けるんだけどな」

「……大友君ってすごいこと考えるんだね」

「そうかな? あ、ごめんね。読書の邪魔をして。つい先の展開を言いたくなっちゃうからもう行くよ」


 結局、大友君と話したのはそれっきりだ。

 彼はどこか大人びていて、クラスでも浮いた存在。でも私は彼から目が離せない。


 進級してクラスは違ってしまっても、変わらずに廊下で彼の姿を探していた。


 彼に話しかける勇気も無く、鬱屈していた気持ちを抱える日々。

 そんな自分を変えたくて、思い切って探索者の適合試験を受けてみた。

 でも、無能力者ではなかったけど、適合率は低かった。


 私は探索者としても落ちこぼれの部類だったのだ。

 そんな私に、どうやって知ったのか、栗田君がパーティーへの参加を打診してきた。


「適合率が低くても、成長できないわけじゃない。人より多く魔物を沢山倒せばいいだけだよ」

「で、でも私グズだから殺されちゃうかも……」

「安心して! 僕が強い装備を貸してあげるから。レンタル費用は出世払いでいいからさ!」


 栗田君は熱心に私を誘ってきた。魔物を倒していけば強くなれるし勇気も出ると。

 そうして、彼の口車に乗って探索者としてデビューしたのだ。


 私が探索者になった経緯を聞いて、警察の人は血相を変えた。 

 どうも栗田君が主犯なのではないかと疑ったらしい。


 私も今思えば最初から仕組まれているように感じる。

 どうして私が適合検査を受けたのを知っていたのかも謎だ。


 警察の人は栗田君には今後近寄らず、もし彼が接触して来たら連絡するように言って私を家に送ってくれた。


 学校に行くのが怖かったが、翌日登校しても栗田に会う事はなかった。

 彼は川口が逮捕されてから姿を消していたのだ。

 警察からの連絡で、私はそれを知った。

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