「その剣は、心を守るために」
「今日の授業は“実戦演習”だ」
そう教室で告げると、案の定、うちの生徒たちはそれぞれマイペースに反応を返してきた。
「おっ、マジっスか!? よっしゃー、今日のために胸筋追い込んできたっスよ!」
ガルドは腕をぐるぐる回しながら謎のアピールを始める。お前の筋肉、今日は出番ないかもな。
「また変な仕掛けでもしてるんじゃないの?」
リシェルは眉をひそめながらも、しっかり杖を抱えてるあたり、わりと乗り気だ。
「面白そうね。……で、今回は誰と誰が組むの?」
ユーフェリアは静かに笑って、俺を見た。
その中で――ティナだけは、席の上で小さく肩をすぼめていた。
昨日の出来事、まだ引きずってるんだろうな。無理もない。
いじめられた記憶なんて、そう簡単に消えるもんじゃない。
だからこそ、今日の演習は、ティナのために用意した。
「ペアを組んで、水晶を奪取してこい。……敵は俺だ」
そう告げると、教室が一瞬ざわついた。
「せ、先生が敵って……それズルくないっスか!?」
「ふぅん……でも面白そう」
「つまり、戦術の授業ってわけね」
「そして、ひとつだけペアを俺が決める」
俺はティナを見た。
「ティナ。お前は俺と組め」
「え……えぇっ!? わ、私!?」
目を丸くしたティナが、明らかに動揺していた。
「わ、私……その、足引っ張っちゃいますし……む、無理です……!」
「無理じゃない。“できるかどうか”じゃなくて、“やるかどうか”だ」
ティナの小さな手が、机の端をぎゅっと掴むのが見えた。
「昨日、お前は“逃げるしかなかった”。でも、今日は違う。“選べる”」
ティナの視線が、少しだけ俺に向いた。
「怖いままでいい。震えたままでいい。だけど、前に出るんだ。
その一歩が、“強くなる”ってことだ」
……さあ、行こうか。
※
演習場は、学園裏の模擬フィールド。
俺が簡易の結界を張って、安全な実戦空間を用意した。
「水晶は、あの丘の上だ。制限時間内に奪え。俺は途中で“敵”として出るからな」
俺がそう言い終わる前に、ガルドとユーフェリアがもう走り出していた。
リシェルは相変わらず警戒心MAXの顔で、そそくさと戦略的ルートを選びに行く。
そして――俺とティナも、森の中へと足を踏み入れた。
「……だ、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だ。お前の“戦い方”は、俺が教えた。魔力の流し方、詠唱の呼吸、間合いの取り方――全部できてる」
ティナは、俺の言葉に小さく頷いた。だけど、その手はまだ震えてる。
その震えは、臆病の証じゃない。
“覚悟しようとしている証拠”だ。
「来るぞ。正面、魔力反応。模擬魔物だ」
「っ……!」
ティナが身を強ばらせる。
黒い影が草むらから飛び出した。鋭い牙、唸る低い声。よくできた訓練用の魔物だ。
「ティナ!」
「……!」
――ここで、逃げるか。
それとも。
「……う、うああああああっ!」
ティナが叫んだ。全力で、走った。
杖を構えて、魔力を込める。足はもつれそうだ。それでも止まらない。
「――光よ、私に力を……ホーリー・バインド!」
放たれた魔法が、光の鎖となって魔物を拘束した。
魔物の動きが止まった瞬間、俺は叫ぶ。
「今だ、ティナ! ゴールまで一直線だ!」
「はいっ!」
ティナが全力で走る。砂埃を蹴って、小さな身体が一直線に丘を駆け上がる。
そして――
「……やった……!」
彼女の手が、水晶に触れた瞬間、結界が解除され、演習は終了した。
※
「ティナ、マジですごかったぜ!」
「見直したわ。次の演習では、あんたと組んでもいいかなって思えたもの」
「成長、著しいわね。ふふ。嬉しい」
演習後、ティナの周りには、仲間たちの声が集まっていた。
ティナは真っ赤な顔で、でも満面の笑みで、何度も何度も頷いていた。
あの子は、自分の足で“恐怖”を越えたんだ。
それだけで十分すぎるほど価値のある一歩だった。
俺は、教室の隅からその様子を静かに見ていた。
(その手はまだ震えてた。けど、次はきっと、“剣”を持てるだろう)
そして――このクラスは、確実に強くなっていく。
“あの連中”が何を仕掛けてこようと。
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