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「その剣は、心を守るために」

「今日の授業は“実戦演習”だ」


 そう教室で告げると、案の定、うちの生徒たちはそれぞれマイペースに反応を返してきた。


「おっ、マジっスか!? よっしゃー、今日のために胸筋追い込んできたっスよ!」


 ガルドは腕をぐるぐる回しながら謎のアピールを始める。お前の筋肉、今日は出番ないかもな。


「また変な仕掛けでもしてるんじゃないの?」


 リシェルは眉をひそめながらも、しっかり杖を抱えてるあたり、わりと乗り気だ。


「面白そうね。……で、今回は誰と誰が組むの?」


 ユーフェリアは静かに笑って、俺を見た。


 その中で――ティナだけは、席の上で小さく肩をすぼめていた。


 昨日の出来事、まだ引きずってるんだろうな。無理もない。

 いじめられた記憶なんて、そう簡単に消えるもんじゃない。


 だからこそ、今日の演習は、ティナのために用意した。


「ペアを組んで、水晶を奪取してこい。……敵は俺だ」


 そう告げると、教室が一瞬ざわついた。


「せ、先生が敵って……それズルくないっスか!?」


「ふぅん……でも面白そう」


「つまり、戦術の授業ってわけね」


「そして、ひとつだけペアを俺が決める」


 俺はティナを見た。


「ティナ。お前は俺と組め」


「え……えぇっ!? わ、私!?」


 目を丸くしたティナが、明らかに動揺していた。


「わ、私……その、足引っ張っちゃいますし……む、無理です……!」


「無理じゃない。“できるかどうか”じゃなくて、“やるかどうか”だ」


 ティナの小さな手が、机の端をぎゅっと掴むのが見えた。


「昨日、お前は“逃げるしかなかった”。でも、今日は違う。“選べる”」


 ティナの視線が、少しだけ俺に向いた。


「怖いままでいい。震えたままでいい。だけど、前に出るんだ。

その一歩が、“強くなる”ってことだ」


 ……さあ、行こうか。



 演習場は、学園裏の模擬フィールド。

 俺が簡易の結界を張って、安全な実戦空間を用意した。


「水晶は、あの丘の上だ。制限時間内に奪え。俺は途中で“敵”として出るからな」


 俺がそう言い終わる前に、ガルドとユーフェリアがもう走り出していた。

 リシェルは相変わらず警戒心MAXの顔で、そそくさと戦略的ルートを選びに行く。


 そして――俺とティナも、森の中へと足を踏み入れた。


「……だ、大丈夫でしょうか……」


「大丈夫だ。お前の“戦い方”は、俺が教えた。魔力の流し方、詠唱の呼吸、間合いの取り方――全部できてる」


 ティナは、俺の言葉に小さく頷いた。だけど、その手はまだ震えてる。


 その震えは、臆病の証じゃない。

 “覚悟しようとしている証拠”だ。


「来るぞ。正面、魔力反応。模擬魔物だ」


「っ……!」


 ティナが身を強ばらせる。


 黒い影が草むらから飛び出した。鋭い牙、唸る低い声。よくできた訓練用の魔物だ。


「ティナ!」


「……!」


 ――ここで、逃げるか。


 それとも。


「……う、うああああああっ!」


 ティナが叫んだ。全力で、走った。


 杖を構えて、魔力を込める。足はもつれそうだ。それでも止まらない。


「――光よ、私に力を……ホーリー・バインド!」


 放たれた魔法が、光の鎖となって魔物を拘束した。


 魔物の動きが止まった瞬間、俺は叫ぶ。


「今だ、ティナ! ゴールまで一直線だ!」


「はいっ!」


 ティナが全力で走る。砂埃を蹴って、小さな身体が一直線に丘を駆け上がる。


 そして――


「……やった……!」


 彼女の手が、水晶に触れた瞬間、結界が解除され、演習は終了した。



「ティナ、マジですごかったぜ!」


「見直したわ。次の演習では、あんたと組んでもいいかなって思えたもの」


「成長、著しいわね。ふふ。嬉しい」


 演習後、ティナの周りには、仲間たちの声が集まっていた。


 ティナは真っ赤な顔で、でも満面の笑みで、何度も何度も頷いていた。


 あの子は、自分の足で“恐怖”を越えたんだ。


 それだけで十分すぎるほど価値のある一歩だった。


 俺は、教室の隅からその様子を静かに見ていた。


(その手はまだ震えてた。けど、次はきっと、“剣”を持てるだろう)


 そして――このクラスは、確実に強くなっていく。


 “あの連中”が何を仕掛けてこようと。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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