「教師という立場」
「……は? アンタ誰よ」
俺を見るその女子生徒の目は、明らかに“下等生物でも見るような”軽蔑に満ちていた。
ティナは俺の姿を見た瞬間、目を見開き、何かを言いかけたが、声が喉で詰まっていた。
その小さな肩は、震えている。
……ああ、これはもう放っておけないな。
「教師です。ユウマ=シオン。特別クラス担任」
「特別……? ああ、あの問題児の吹き溜まりの? うっける」
女子生徒の後ろにいた連中が、口々に嘲笑を漏らす。
「で? 教師が何の用? 見てわかんない? 今、アタシたち忙しいんだけど?」
「なるほど。ティナから“金を奪う”のが忙しいと?」
俺が一歩前に出ると、女子生徒の肩がわずかに引きつった。
「ちょ、ちょっと何言って――」
「……あーあー。言い訳とか、今から考えるつもり?」
俺は懐から一枚の紙片を取り出した。それは、魔力感知紙――個人の魔力波形を記録できる便利なアイテムだ。
「この空間に漂ってる君たちの魔力痕、全部ここに記録済み。言い逃れはできないよ?」
「は……!? そんなもん、どこで……!」
「この場所は、数日前から“問題多発エリア”だったからね。魔力痕のログを取るよう、許可は取ってあった」
「……クソ教師!」
女子生徒が怒鳴り、俺の胸倉を掴もうとする――その瞬間。
「止めとけ。俺に手を出すと、君たちの“未来”がなくなる」
静かに、低く。
その一言だけで、彼女の手がピタリと止まった。
これは“魔力”ではない。“気迫”でも“力”でもない。
ただの教師が、教師としての“覚悟”を持って、前に立っているだけだ。
だが、それだけで十分だった。
女子生徒の顔が強張り、じり、と後退する。
「……もういいよ。こんなチビに小遣いやるのもバカらしいし」
「逃げるの?」
「逃げるわけないじゃん。アタシらが悪かったんでしょ? ね?」
軽く肩をすくめながら、彼女たちはその場を後にした。
ティナが小さくしゃがみこみ、俺の足元で手をぎゅっと握りしめていた。
「……ごめんなさい。わ、私、何もできなくて……」
「謝る必要はない。お前は何も悪くない」
俺はしゃがんで目線を合わせ、ティナの頭をそっと撫でる。
「先生……」
「いいか、ティナ。お前が“できること”を増やすのは、これからだ。
だけどな――“できないこと”があったら、“誰かに頼っていい”。それが“仲間”ってもんだ」
ティナの瞳が潤みながらも、ゆっくりとうなずいた。
……この子は、変われる。きっと強くなる。
ただ、そのためには――
(まずは、この学園の“歪み”を正してやらないとな)
今、格上とされている連中が、正しいとは限らない。
実力も、品性も、心も。
俺の生徒たちは、まだ未熟だ。だが、可能性は“無限”にある。
教師である俺の役目は――その力を引き出して、世界に叩きつけることだ。
※
【同時刻・別の場所】
「へぇ……あの無能力者教師、また問題起こしたの?」
学園最上級第3学年クラスの「サロン」。
豪華なソファに座る少女が、グラスをくるりと回しながら笑っていた。
――その少女の名は、レイナ=エルバート。
貴族階級のトップに君臨し、次期生徒会長と目される“学園の女王”。
「ふふ。いいわね。なら――少し“遊んで”あげましょうか。
あの特別クラスの連中が、どこまで私の“舞台”で踊れるのか。楽しみだわ」
新たな火種は、静かに――しかし確実に、燃え始めていた。
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