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「戦う以前の問題だ」

「はい、おはよう。みんな」


 チャイムが鳴ると同時に教室の扉を開ける。いつも通りの朝。

 そして、いつも通りの――個性派すぎるクラスメイトたち。


 教室の隅では、ガルドがスクワットと腹筋を交互にこなしていた。どこを目指してるんだ。


 ティナはぴしっと背筋を伸ばして席に座り、俺の言葉を静かに待っている。今日も律儀で真面目だ。


 ユーフェリアは窓際の席で外を眺めていた。遠くの空を見ているその姿は、まるで異邦の姫君のよう。


 そして――


 俺の目の前の席では、リシェルが不貞腐れた顔で頬杖をついていた。だが、いつもより少し早い登校。


「……何よ」


 リシェルが不機嫌そうにこちらをにらむ。だが俺はニヤリと笑って声をかけた。


「リシェル……今日、早いな!? 風邪でも引いた? 熱でもある?」


 わざとらしく驚いて見せながら駆け寄ると、彼女は即座に火の魔法を展開。俺の周囲に小さな火球が浮かぶ。


「冗談だって! 冗談! でも、来てくれて嬉しいよ。リシェルがちゃんと時間通りに学校に来たってのは、貴重な記録だしな」


「気安く私の名前を呼ぶな! それに、別にアンタを教師として認めたわけじゃないからね!」


「ふっ、ツンツンしてると、顔がもっと赤くなるぞ?」


「うるさい!」


 顔を真っ赤にしたリシェルから火球が一つ飛んできたので、軽く身をかわす。


 ――うん、今日も平和だ。


「さて、そろそろ出席をとるぞ。ガルド、筋トレは一時中断な」


「うっ……はいっス!」


 ガルドは最後の一回を全力でこなしてから、素直に席についた。


 出席をとっている間、ティナは相変わらず律儀に返事をくれたが、他の三人は見事に無愛想だった。

 うん、今日も通常運転です。涙。



 朝のホームルームが終わり、教室を出る。

 相変わらずの問題児たちだが――俺の生徒たちだ。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから見覚えのある筋肉教師がやってきた。


「ユウマ=シオン、貴様ァ! 前回はよくもやってくれたな!」


 ロークス先生、怒りの形相で俺を指さす。威圧感だけは一級品だ。


「喧嘩をふっかけてきたのは、そちらではありませんでしたか? ロークス先生」


 さらりと返すと、ロークスは唇を噛んでから、ニヤリと口元を歪ませた。


「だがな、ユウマ=シオン。お前の実力は認めてやる。だが――貴様の生徒たちは、実に大したことがなかったぞ」


 あぁ、これは悔しさを他人にぶつけるタイプの人だな。自分の負けは受け入れられないけど、周囲を叩いてバランスを取るやつ。


「聞いてますよ。うちの生徒が、ロークス先生の生徒さんにボコボコにされたって」


「ふ、そうだとも! お前がいくら強かろうが、生徒が弱ければ意味はない。身の程を知ることだな、ユウマ=シオン!」


 はぁ。めんどくさいなぁ、この人。


 だが、俺は思い出す。先日の模擬戦――

 確かに、うちの生徒は“敗北”という結果だった。


 ……だが、あれは“本気を出さなかっただけ”だ。


 ユーフェリアは開戦と同時にどこかへ消えた。ガルドは筋トレ優先で棄権。ティナは怯えて戦闘不能。

 そして唯一まともに戦ったリシェルだけが、圧倒的な勝利を叩き出した。


 他の三人は“戦う気”すら見せていない。つまり、勝負以前の問題だった。


「ユウマ=シオン、いつか俺は貴様をこの学園から追い出してやるからな!」


「どうぞご自由に。そのときは、正面から受けて立ちますよ」


 俺の淡々とした態度に、ロークスは舌打ちして去っていった。


(……あんな教師に教わる生徒たちも大変だよな。ご愁傷さまです)


 そんなことを思いながら、のんびりと校内を散歩していると――


「おい、テメェ、さっさと金出せよ。こっちは時間ねーんだよ」


「そうだよ、早く出せって!」


 人気のない裏路地から、明らかに物騒な声が聞こえた。

 下級生か、あるいは金目当てのイジメか。やれやれ。


(……面倒な案件だな。だが、こういうのを放っておくのも教師失格か)


 俺は声のする方向へと静かに向かう。


 そこでは、格上クラスの女子生徒が、俺の生徒――ティナから金を巻き上げようとしていた。


「ほら、早く金出せ――」


「――はい、そこまで」


 俺は女子生徒の頭に手を置き、にっこり笑った。


「は? アンタ誰よ」


 その目は、完全に敵を見る目。

 まったく、めんどくさくなる予感しかしないな。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


面白い!と思ってくださった方はブクマ、☆、評価の方をよろしくお願いします!


しばらくの間、毎日投稿しますのでよろしくお願いします!

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