「戦う以前の問題だ」
「はい、おはよう。みんな」
チャイムが鳴ると同時に教室の扉を開ける。いつも通りの朝。
そして、いつも通りの――個性派すぎるクラスメイトたち。
教室の隅では、ガルドがスクワットと腹筋を交互にこなしていた。どこを目指してるんだ。
ティナはぴしっと背筋を伸ばして席に座り、俺の言葉を静かに待っている。今日も律儀で真面目だ。
ユーフェリアは窓際の席で外を眺めていた。遠くの空を見ているその姿は、まるで異邦の姫君のよう。
そして――
俺の目の前の席では、リシェルが不貞腐れた顔で頬杖をついていた。だが、いつもより少し早い登校。
「……何よ」
リシェルが不機嫌そうにこちらをにらむ。だが俺はニヤリと笑って声をかけた。
「リシェル……今日、早いな!? 風邪でも引いた? 熱でもある?」
わざとらしく驚いて見せながら駆け寄ると、彼女は即座に火の魔法を展開。俺の周囲に小さな火球が浮かぶ。
「冗談だって! 冗談! でも、来てくれて嬉しいよ。リシェルがちゃんと時間通りに学校に来たってのは、貴重な記録だしな」
「気安く私の名前を呼ぶな! それに、別にアンタを教師として認めたわけじゃないからね!」
「ふっ、ツンツンしてると、顔がもっと赤くなるぞ?」
「うるさい!」
顔を真っ赤にしたリシェルから火球が一つ飛んできたので、軽く身をかわす。
――うん、今日も平和だ。
「さて、そろそろ出席をとるぞ。ガルド、筋トレは一時中断な」
「うっ……はいっス!」
ガルドは最後の一回を全力でこなしてから、素直に席についた。
出席をとっている間、ティナは相変わらず律儀に返事をくれたが、他の三人は見事に無愛想だった。
うん、今日も通常運転です。涙。
※
朝のホームルームが終わり、教室を出る。
相変わらずの問題児たちだが――俺の生徒たちだ。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから見覚えのある筋肉教師がやってきた。
「ユウマ=シオン、貴様ァ! 前回はよくもやってくれたな!」
ロークス先生、怒りの形相で俺を指さす。威圧感だけは一級品だ。
「喧嘩をふっかけてきたのは、そちらではありませんでしたか? ロークス先生」
さらりと返すと、ロークスは唇を噛んでから、ニヤリと口元を歪ませた。
「だがな、ユウマ=シオン。お前の実力は認めてやる。だが――貴様の生徒たちは、実に大したことがなかったぞ」
あぁ、これは悔しさを他人にぶつけるタイプの人だな。自分の負けは受け入れられないけど、周囲を叩いてバランスを取るやつ。
「聞いてますよ。うちの生徒が、ロークス先生の生徒さんにボコボコにされたって」
「ふ、そうだとも! お前がいくら強かろうが、生徒が弱ければ意味はない。身の程を知ることだな、ユウマ=シオン!」
はぁ。めんどくさいなぁ、この人。
だが、俺は思い出す。先日の模擬戦――
確かに、うちの生徒は“敗北”という結果だった。
……だが、あれは“本気を出さなかっただけ”だ。
ユーフェリアは開戦と同時にどこかへ消えた。ガルドは筋トレ優先で棄権。ティナは怯えて戦闘不能。
そして唯一まともに戦ったリシェルだけが、圧倒的な勝利を叩き出した。
他の三人は“戦う気”すら見せていない。つまり、勝負以前の問題だった。
「ユウマ=シオン、いつか俺は貴様をこの学園から追い出してやるからな!」
「どうぞご自由に。そのときは、正面から受けて立ちますよ」
俺の淡々とした態度に、ロークスは舌打ちして去っていった。
(……あんな教師に教わる生徒たちも大変だよな。ご愁傷さまです)
そんなことを思いながら、のんびりと校内を散歩していると――
「おい、テメェ、さっさと金出せよ。こっちは時間ねーんだよ」
「そうだよ、早く出せって!」
人気のない裏路地から、明らかに物騒な声が聞こえた。
下級生か、あるいは金目当てのイジメか。やれやれ。
(……面倒な案件だな。だが、こういうのを放っておくのも教師失格か)
俺は声のする方向へと静かに向かう。
そこでは、格上クラスの女子生徒が、俺の生徒――ティナから金を巻き上げようとしていた。
「ほら、早く金出せ――」
「――はい、そこまで」
俺は女子生徒の頭に手を置き、にっこり笑った。
「は? アンタ誰よ」
その目は、完全に敵を見る目。
まったく、めんどくさくなる予感しかしないな。
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