「落ちこぼれクラスと、最強の無能教師」
王立アストリア学園。
それはこの大陸の未来を担う“勇者候補”たちが通う、いわば世界最高峰の教育機関である。
そしてその校舎の一番端っこ、まるで隔離施設のように扱われているのが――
「おはよう、クズども。今日から君たちの担任になる、ユウマ=シオンだ」
俺が受け持つ“特別クラス”だ。
教室の扉を開いた瞬間、目に飛び込んできたのは、すさまじいまでの自由奔放っぷりだった。
「……んー、五分遅刻。減点対象ですねぇ」
最前列、脚を机に投げ出して寝そべっているのは赤髪の少女。名は【リシェル=ノクス】。
魔法理論は常人の十年先を行く天才だが、やる気ゼロの授業クラッシャーだ。
「へぇ、アンタが来たんだ?“無能力者の先生”ってやつ」
教室の隅、腕を組んで窓の外を見ているのは黒髪の美少女【ユーフェリア】。
その瞳に潜む禍々しい魔力は、明らかに人間のそれじゃない。……たぶん、魔王の娘。
「先生、今日は腕立てからですか?スクワットからですか?」
元気よく近づいてきたのは、筋肉バカの【ガルド】。
戦闘能力は高いが、知識面では壊滅的。筆記試験で紙を食べたという伝説を持つ。
「せ、先生っ!きょ、今日は!よろしくお願いしますっ!」
そして教卓の近くにちょこんと座るのは、小柄で耳と尻尾の生えた少女【ティナ】。
魔族の血を引くハーフで、気弱だが俺にはやけに懐いている。
……なんだこのカオス。
「全員座れ。今から“授業”を始める」
俺がそう言っても、リシェルは相変わらず寝そべり、ユーフェリアは視線すら寄越さない。
唯一反応したのはガルドとティナだけ。……さすが特別クラス。やる気はゼロ。
「で?何を教えるんですか、無能力者の先生」
リシェルが目も開けずに言った。
「私は火属性魔法を極めてますけど、先生は何が専門?空気を操るとか?」
「いや、何も使えん」
「……は?」
「俺には魔力もスキルも何もない。世界的に見ても、たぶん底辺」
シン、と教室が静まった。
あ、ガルドが真顔になってる。貴重な瞬間。
「でもな――“知ってる”んだよ。魔法の原理も、戦術も、歴史も、お前らが何に悩んでるかも」
ユーフェリアがこちらを見た。その瞳に、警戒の色。
「お前たちを“最強の勇者”に育て上げる方法もな」
「……はっ、面白いこと言うじゃん。できるもんならやってみなよ、先生」
リシェルが立ち上がり、指をパチンと鳴らすと、空間に小さな火球が生まれた。
――火属性第六階位魔法。この距離で使えば、まず助からない。
「先生。ちょっと試していい?」
「いいよ。ただし――その魔法、俺には効かない」
次の瞬間、リシェルが指を振ると火球が放たれた。
が、それは俺の足元でふわっと消えた。まるで、はじめから存在しなかったかのように。
「なっ……!?」
「この教室は、“魔力の干渉域”をちょっと改造しておいた。俺の知識でな」
「え、ええええ!? さっき来たばっかじゃないんですか!?」
ティナが驚いてる。うん、素直でよろしい。
「お前たちがどうしようもない問題児だってことは、赴任前から聞いてる。だから、先に“手”を打ったまでだよ」
リシェルが沈黙した。口を尖らせて、でも目はほんの少しだけ輝いていた。
「……ちょっとは、面白いかもね」
そしてユーフェリアも、ふっと笑う。
「力だけが全てじゃないってこと……身をもって見せてくれたわね」
「さて、ではあらためて。今日の授業は――“魔法が使えない俺が、世界を救う方法”についてだ」
ポカンとする生徒たちを前に、俺は教卓に立つ。
これが、俺の“教育”の始まりだ。
そして、このどうしようもない問題児たちが、やがて世界を変えることになる。
――だが、その時には、俺自身の過去もまた、世界を揺るがす鍵になっていくのだった。
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